第241話 写真 

 うわっ!? 

 俺がそのテキストのメモを見ていると急にスマホがブルった。

 あっ、誰かが【Viper Cage ―蛇の檻―】になにかを書き込んだのか? 俺はメモもから【Viper Cage ―蛇の檻―】のアプリに切り換えそのままにすぐに画面をタップした。

 おいおい……。


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 【真野エネミー】:次回うちが何味のパフェ食べたいか当てるアル。


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 エネミーアニメの余韻を楽しみつつ夜更かしか? 完全に【Viper Cage ―蛇の檻―】を私用で使ってる。

 しかも【エネミーだけどなにかある?】的に神降臨状態だし。


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 【寄白美子】:イチゴ味


 【寄白繰】:フルーツかな?



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 寄白さんもふつうに返信してるし。

 校長も優しいな。

 ふたりとももう家に帰ったのかな? さすがにまだ校長室に残ってるってことはないだろう。


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 【社雛】:エネミー。【Viper Cage ―蛇の檻―】をそうやって使わないの。


 【寄白繰】:雛、まあまあ。エネミーちゃんらしくていいわよ。

 ほら、たまにこういうのがあったほうが場が和むから。


 【社雛】:すみません。


 【真野エネミー】:繰。良いこというアル。九久津と沙田の返信がないアル


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 社さん、こんなときなのにエネミーのおもりしてるし。

 それを校長がなだめてる。

 平和か? BBSここは平和か? てか俺と九久津もエネミーに名指しされてるけど九久津は病院に戻ったんだから返信は無理だろうよ。

 俺もこの波に逆らわずに乗っておくか。

 パフェの種類たってそんなバリエーションはないよな。


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【沙田雅】:チョコパフェか? てか九久津は今、病院だからたぶんスマホは使えないよ。


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 社さんも【Viper Cage ―蛇の檻―】に返信してるってことは今、空き時間なのか? それよりこのやりとりって教育委員会経由で当局にも提出するんだよな? こんな不毛なやりとも対象になるのか? あるいはカット? ただ今の俺にはそれを超える悩みがあった。

 それは今、社さんとすぐに連絡をとれてしまうということだ。

 

 俺はそんなことを考えながらすでに【Viper Cage ―蛇の檻―】ではなく一対一でやりとりができるDMダイレクトメールの操作をしていた。

 こんな感じでいいかな? い、いいよな?


 あとはこの画面をタップすればすぐにこれは、って、ああ、お、お送ってしまったぁ!!

 しかも【電話で話せないかな?】というストレートなメッセージを。


 ただ俺はDMを送ってすぐに自分の迷走ぶりに落胆する。

 俺と社さんは顔見知りよりはすこし親しいくらいの関係なのにいきなり電話で話せないか?なんてメールを送ったら不審ふしんに思うよな?って考えが俺の頭の中をグルグル回ってる。

 ああ誰か電話しなくても頭の中で会話できる力をくれー!! ってそんな都合のいいもんあるかい!!とひとりつっこむ。


 おおっ!?

 ああっ、ま、また、スマホがまたブルった。

 や、やべー、スマホの画面にでっかく【社雛】って出てる。

 でもこれは俺が自分で蒔いた種だ。


 ま、まさか社さんからかけてきてくれるなんて。

 どっかで――メールじゃダメ?的な反応を予想してたから、こ、このパターンは考えてなかった。

 とりあえず俺は画面の「応答」をタップしスマホを自分の耳元へと運んだ。


 「沙田くん。どうしたの? 急用?」


 社さんの声がした、と、当然だけど。


 「あっ、社さん。急にごめん。あ、あのちょっと訊きたいことがあったんだけど? ほんとは六角第一高校いちこうにいるときに訊こうと思ってたんだけど訊きそびれちゃって」


 「そう。それでなにかしら?」


 「単刀直入に訊きます。社さん誰かに”流麗りゅうれい”っていわれたことないかな?」


 「えっ、流麗りゅうれい?」 


 「そう、流麗りゅうれい。って急にこんなこと意味不明だよね?」


 「うん。あるわよ」


 あ、ある、のか? というより、あったのか? なら俺の中に流れてきたあの会話は現実のもの? てか社さん俺のこのわけのわからない行動を受け入れてくれてる。

 警戒しないんだ。

 まあ、いつもエネミーと一緒だから突発的な行動をする人間に慣れてるのかも。


 「い、いつ、誰に?」


 「堂流くんだけど」


 ど、堂流くん?って、そ、それはつまり九久津の兄貴……だ、よ、な。


 「それは九久津の兄貴だよね?」


 「そう。九久津くんのお兄さん。そんなに慌ててどうしたの? それがどうかしたの?」


 「そ、それっていつのこと?」


 「だいたい十年前かな」


 だいたい・・・・十年前。

 また十年前だ……いつもいつもその時期に辿り着く。


 「まだ堂流くんが元気・・だったころだから」


 ってまあ九久津の兄貴が生きていたのが約十年前なんだから当たり前といえば当たり前なんだけど。


 「だ、だよね。と、突然だけど――流麗って雛ちゃん・・・・っぽいね、これ一昨日国語の授業で習った言葉なんだけどさっそく使ってみた。――それってどういうこと?ってやりとりを誰かとしたことないかな?」


 「一言一句あってるかはわからないけど。私がまだ小学生になったかなってないかのときに堂流くんにいわれことがあるわ。堂流くんがその単語を習ったときに私が思い浮かんだっていってたかな。子どもながらに難しい言葉を知ってるな~って思ったのをなんとなく覚えてるわ」


 社さんって子どものころから今の雰囲気だったんだ。

 まあ、わかる気はするけど。


 「じゃあ、そのときの記憶が……」


 あっ!?

 心の声がもれてた。


 「そのときの記憶? どういうこと?」


 「いや、あの、なんて説明していいのか難しいんだけど。てか、その前に俺、九久津の兄貴の顔を知らないんだよね? 社さん写真とか持ってないかな? そうすれば順番に説明できる気がするんだ。俺は俺でよくわかってないから」


 「……そう、わかったわ。写真ね~ちょっと待ってね」


 「えっ、いいの。怪しんだりしないの?」


 「だって、そうしないと順を追って説明できないのよね? こっちもその手助けをするわ」


 社さんもやっぱり良い娘だな、頭の回転も速いし。

 ふつうならこの段階で怪しんでるよ。 

 

 「信じてくれてありがと」


 「いえいえ。むかしみんなで撮った写真でもいい?」


 「あっ、それで十分だよ。それをメールに添付して送ってくれない?」


 「わかったわ。準備するからすこし待ってて」


 「うん」

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