第240話 長い一日の終わり

 おっ!? 

 俺は誰もいない廊下でばったり寄白さんと遭遇した。

 なんでだかじっとこっちを見ている。

 な、なんだ? 動きがぎこちない。


 寄白さんは、そのまますこしずつすこしずつ俺に近づいてきた。

 校長室から出てどこにいってたんだろ……?


 「……なに色だった?」


 俺のすぐ目の前ですこし首を傾げて訳のわからないことを訊いてきた。


 「はっ? なに色って? なにが?」


 「見ただろ?」


 「なにを?」


 「しらをきるのか?」


 「しら? えっと? そ、そ、それはどういう意味で」


 「四階でパンツ見ただろ」


 きゃあぁぁ!? 

 バ、バレてた。

 モナリザとの戦いのときにちょろっと見えたかもしれないだけなんだけど。

 

 「町の中にもカラオケにも貼ってあったよな? 市内全域に変出者が出没していますって?」


 「あ、ありました」


 「あれはさだわらしか?」


 「いや、ち、違います。あれはたぶん上級変態の仕業であります。僕は下級であります」


 「そんなのはどうだっていいんだ。夏の季語に変態を指定するという署名があれば私は迷わずにサインする。私はそれくらい変態が嫌いなんだ。んで見たのか見てないのか?」


 そうそう。

 夏といえばセミのように変態が土から這い出てくるからな。

 って、リビングデッドか!?

 それに山田のほうが変態の素質は上だ。

 あいつほどの変態の潜在能力は見たことはねー。


 「えっと、あっと……ちょっとだけ見えたかも……」


 「シシャ」の反乱のときもこんなふうに怒られたっけ。

 

 「それで色は?」


 い、色だと? こ、これもデジャブ。


 「はて?」


 「さだわらし。うそは自分のためにならないぞ? ローマは一日にして成らずって言葉を知ってるか?」


 「えっ」


 ローマは一日にして成らずって長いあいだ努力を積み重ねないと大事業は完成しないって意味だよな? それだと大変態おおへんたいになるには小さな変態行為を積み重ねろって意味になってしまう。

 「ためになら・・ないぞ?」の「なら」と「|一日にして・・らず」「なら」しか合ってねー!!

 まあ、寄白さんってそんなとこあるけど。

 

 「それを踏まえてもう一度、訊く。なに色だった?」


 踏まえなくていいのに。


 「み、未確認ですが。じ、自分は、う、薄い青だったように記憶しております。はい」


 「ということは?」


 「み、未確認薄青繊維ということになります。はい」


 俺が答えたすぐだった。

 寄白さんのカウンターのヒザ蹴りが俺の腹に、ぐふっ。


 「はっきり見てんな? まあ見せパンだけどな。ふっ」


 ぐはっ、すみません。

 と、声には出せず俺は心の中だけで謝った。

 さらに時差式で、もう一発、後方から肘打ちをくらう。

 ぐふっ。

 肝臓レバーをやられた、偶然、チラっと見えただけなんですよ、ほ、ほんとに。


 けど寄白さんってヒザ蹴りも肘打ちも手加減してくれてるんだよな。

 力を抜いてるというか当たる手前で勢いを殺してくれてるというか……。

 なんだかんだ優しいよな~。


 「んでなにしに戻ってきた? ま、まさか、またパンツを見に」


 「いやいや。校長にじょうほうでいぎょうでしゅ」


 ――情報提供といってるつもりが口から出た言葉はわけのわからん言葉だった。

 噛み倒した。


 「情報? なんのだ? ってまあ、いいや。お姉に訊いておく」


 「はい」


 「じゃあな、さだわらし。国道から進んだ市道のほうがタクシーは捕まえやすい」


 「えっ、ほんと」


 「ああ」


 「ありがとう。じゃあ市道のほうでタクシー待ってみる」


 「それよりも電話で呼んだほうが早いけどな」


 た、たしかに。



 俺は寄白さんにいわれたとおりに市道側でタクシーを拾って家に帰ってきた。

 はぁ~今日はなんかすげー長い一日だった。

 登校してから【駅前通り】でパフェを食べてそこからカラオケ店に移動して「六角第一高校いちこう」の四階にいっただけなのに。

 でも、四階はモナリザとの戦闘だったけど。


 それにしても今日は得る情報の量が多かったな、完全に情報過多じょうほうかただ。 

 まず、今日なにがあったのかテキストファイルにメモすることにした。

 俺はさっそくスマホを手にする。


 カラオケでテキストファイル消したけどあれで増えた容量なんて雀の涙だな。

 とりあえず俺は新規のメモ帳を作り復習の意味で今日知ったアヤカシ関連の情報を入力する。


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 俺と寄白さんが校長室から出ると山田が見張っていた。


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 あっと、これはなし、なし。

 山田とアヤカシはなんの関係もねー。


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 ワンシーズンのミアって娘が「六角第一高校いちこう」出身だった。


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 これもアヤカシとは関係ないな。

 ただ、ワンシーズンのアスって娘が魔障の病み憑きになったってだけだ。

 んで、昼休みに俺は総務省に不正アクセスを疑われた。

 ただ、これはカラオ店で校長がいってたけど別の理由かもしれないという流れになっている。

 どうやら俺の疑惑は晴れそうだ。


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 【駅前通り】で寄白さんとエネミーが意気投合する。


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 これも関係ないといえば関係ないか。

 ただふたりは「シシャ」だ。

 それでも、いちおう今日あったアヤカシ関連の出来事にしておこう。

 んで、そのあとスイーツパーラー以降がけっこう重要なんだよな。


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 ・社さんはかつて忌具のシリアルキラーのデスマスクを追っていた。

 ・ジーランディアの負力が不可侵領域に流れている。

 ・社さんの厭勝銭が飛んできて「六角第一高校いちこう」の四階で

モナリザと戦う。

 ・劣等能力者ダンパーという言葉を知る。

 ・【サージカルヒーラー】より上位の【オムニポテントヒーラー】という能力者の存在を知る。

 ・ぬらりひょんのことは【Viper Cage ー蛇の檻ー】にあるからいっか。

 ・除怪じょかい抗怪こうかい殺怪さっかい滅怪めっかいの四段階の退治レベルを知る。

 ・九久津の黒い風のこと、これは今のところ謎。

 ・九久津が代替召喚だいたいしょうかんした「べとべと」というアヤカシがエネミーを護衛している。

 ・九久津の尾行は戸村さんじゃない別の誰か。


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 あとは、っと寄白さんの『保健だより』……は完全にアヤカシとは無関係。

 九久津の兄貴のこともあるけどそれも謎のままだ。

 まあ、ざっとこんなもんかな。

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