第216話 排他的上級固有種 ぬらりひょん

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 「排他的上級固有種ぬらりひょん」の脳の一部と判明。


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 これはいったいなんのことだ? 寝耳に水で俺にこの事前情報はまったくなかった。

 急にふっと湧き上がってきた謎だ。

 ちなみにエネミーが――ひ。といったのは「排他的はいたてき」の「はい」の右側の「」を読んだからだ。


 でも「」を読めるだけすげーけど。

 まあ、この字はアニメなんかでも比較的使われやすい漢字ではあるか。

 エネミーの年齢感覚はやっぱり曖昧だ。

 あるところは幼稚だけど、あるところは大人びている。


 手偏に「非」は「はい」。

 ぜんぶとおして読めば排他的はいたてき

 排他的ってのは上級、中級、下級以外のアヤカシにつく特別な区分だったはず。

 ざーちゃん、そう座敷童ざしきわらしなんかがその種類に該当する。


 座敷童ってなんだかその響きがいやだな~。

 いや、座敷童が悪いわけじゃないんだよ。

 ポニーテールの寄白さんが俺を「さだわらし」と呼ぶときのイントネーションと「ざしきわらし」が被るから。


 この画面にある判明という言葉? 判明ってことはなにかがわかったってことだよな。

 なんの結果なんだろう? そういえば六角市の南南東の郊外にある廃材置き場で発見した「茶色に近い黒と黄色の動物の毛」の正体って判明したのか? それともまだY-LABで検査してる最中なのか? って、でもあれ動物の毛だしな。

 動物の種類が判明したところでそれがなんだっつーことなんだけど。

 

 「美子、雛。あなたたちが六角ガーデンでリビングデッドと戦ったときに一匹グールが混ざってたっていってたわよね?」


 校長は硬い表情のままだ。

 あっ、そういえば俺が九久津の家にいった日に寄白さんと社さんがリビングデッドと戦闘たたかったっていってたな。

 これってその話のことか。


 俺がはじめてコールドスプレーの洗礼を受けた日……しかもあの現場をまさか山田に見らていたとは油断したよな俺。

 保健室は保健のおばちゃんがほとんどの生徒の対応をしているけど、校長もときどき養護教諭をしている。

 だからこれからは山田の行動にも注意しないとな。

 けど、リビングデッドとぬらりひょんになんの関係が?


 「ああ。腕、単体で私の顔に襲いかかってきた。だよな、雛?」


 「そう。美子の顔すれすれまで腕が飛んできたわ」


 「ってことだ。お姉」


 「私、それが気になってね。教育委員会に報告したあとに急がないからって条件で六角ガーデンの調査を解析部に依頼しておいたの」


 「それで?」


 「なんだかんだあったみたいだけど。まあ、それって……」


 校長の口調が弱まった。

 なんかいいづらそうにしてるけど校長は寄白さんを前にして覚悟を決めたみたいだ。

 ここで隠しごとをしても寄白さんにすぐに見破られるからだろう。

 さっきの九久津だってそれを知っていて――隠しごとがある。って言い切ったみたいなもんだし。


 「予算的な意味合いのことなんだけど」


 えっ、あっ……そういうのって無償ただでやってくれるわけじゃないんだ。

 って当たり前か……シビアだな。

 現実に生きていれば金は使う。

 でも最近じゃ自販でもコンビニでも電子マネーだからあんまり現金を使うこともなくなったな。

 ハンバーガーのチェーン店も、コーヒーショップも電子マネー対応の店が多いし。

 

 「それでも五味校長がなんとか動いてくれたみたいで」


 「それなら、今日の四階はどうなるんですか?」


 九久津は指で辺りをグルっと一周させた。


 「ああ、これね。このイレギュラーな状況でも備品の破損や破壊に関しては当局が予算を組んであるから。こういう特別な日のこともあらかじめ想定してるんだと思うの」


 ……すげーリアルだった。

 美術室のドアはもうボロボロだけど放っておけば明日には四階ぜんぶが元通りになってるなんてことはない。

 壊れりゃそれを修理する人がいてその修理代を払う人がいる。


 「そうですか。俺はもしかしたら繰さんが自腹で修理代を支払うんじゃないかって心配になりましたから……」


 九久津はいいながら校長に一礼してスマホを返した。

 校長のスマホの内容はここにいるみんが確認したから、もうしまっても差支えはないんだけどさ。


 「あっ、ありがと九久津くん。でも、そこはまだまだ高校生ね。私が自費で穴埋めするとそのお金がどこから出たものか後々あとあと問題になるからやらないわよ。それに個人、校長、代表取締役のどの立場で出したお金なのかの区別も不明瞭だし。仮に予算内に修理費が収まらなかった場合でもそれはきちんと申告するわ」


 校長はおもいっきり大人・・だった。

 経理ぜんぜんわからん。

 損をさせないためなら自分の金はなにに使ってもいいんじゃないのか?ってだめなんだよな、その経理上の理由ってやつで。

 公私混同はNGか。

 

 この話については九久津はおろか社さんまでもが呆気にとられていた。

 こうなると俺らもエネミーと大差ないな、俺らはあらためて子どもで未成年なんだって思い知らされる。

 校長はまるで政治経済せいけいの授業のように難しい話をしたあとまたスマホ内容に戻った。


 「それでね。その報告が今きたの」

 

 「なんだって?」


 訊き返した寄白さんだけはゆいいつ校長の話を理解しているようだった。

 それもそうか寄白さんだって株式会社ヨリシロの娘だし現社長の妹だ。

 家の中でもそんな話題のひとつやふたつ飛び交ってるんだろう。


 「美子と雛が戦った花壇周辺の痕跡を解析した結果。グールの脳はぬらりひょんの脳の一部だと判明」


 それってつまりはどういうこと? そんな俺の疑問をよそに校長と寄白さんの話に割って入ったのは九久津だった。


 「俺は正直ぬらりひょんが”蛇”だと憶測していました。人間的な奸計かんけいが排他的上級固有種であるぬらりひょんの頭脳に似てるって思いましたから」


 九久津の中で蛇の予想はぬらりひょんだったのか? 俺の中では升教育委員長がぬらりひょんだったんだけどな。

 でも、これで俺の読みはハズれた。


 「ぬらりひょんが好き勝手やってる人間に復讐してるんじゃないかって思ってました。でもこれで俺の推理はぜんぶ崩れました」


 俺と同じで九久津の読みもぜんぶハズれたみたいだ。

 でも九久津が予想をハズすってことはやっぱり蛇も相当頭がいいんだな。


 「どころじゃないだろ?」


 寄白さんが言葉を返す。


 「そう。美子ちゃんのいうとおり。事態はもっと深刻なほうへと傾いた」


 「えっ、美子それってどういこと?」


 校長も寄白さんの言葉の意味がわかってないようだった。

 まあ、俺もだけど。


 「お姉。あれがぬらりひょんの脳ならぬらりひょんの体を切り刻んでそれを使ったやつがいるってことさ」


 「あっ……」


 校長は押し黙った。

 それは俺も同じだった。

 当然、社さんもエネミーも沈黙したままだ。

 エネミーは目をぱちくりさせている。

 エネミーは「」からだいぶ置いてかれてるからな。


 「アヤカシの体にそんなことができるのは魔障医学の知識があるやつ以外には考えられない」


 寄白さんのその言葉で真っ先に浮かんできたのは只野先生の顔だった。

 でも、それはマッドサイエンティストじゃなくて良心的な医師としての顔だけど。

 まあ、魔障医学の知識を持つ者はすくないなりにこの世界にはたくさん存在るだろうし。

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