第177話 自分 

 そう俺はもうふつうじゃないんだ、でもそれでいい。

 俺に与えらた力とはそういうことだ。

 これが独りなら耐えられなかったかもしれないけど寄白さんも九久津も社さんも校長もいる。

 俺よりももっと早くからアヤカシと戦ってる先輩だ。

 

 みんなを友だちと呼べばいいのか? 仲間と呼べばいいのかわからないけどとにかく同じ時代を生きる同じ能力者だ。

 まあ、エネミーもたしておくか、きっと仲間外れにするなって騒ぐだろうし。

 

 寄白さんだってはるかむかしからその力を受け継いでずっと戦ってきてるんだ。

 ラプラスのいってた――おまえは沙田雅さだただし真名まな運命雅さだめみやび。そこにおわす御方おかた依代妃御子よりしろひみこ殿。そなたは妃御子殿に従え――


 ってのも気になるっちゃ気になる……ただ真名を口にするなってのは今、目の前にいる校長がいってたことだからうかつに言葉にはできないけど。

 どのみちその辺りに俺のルーツがあるんだろう。

 そこまで遡れば俺の中にラプラスがいる理由もわかるかもしれない。


 ファーストルーツ……信託継承か。

 寄白さんがオッドアイなのも真名に関係あるのか? ただ、隠さなければならないのは狙われるからなんだよな。


 校長のいってた。――むかしはね名前の漢字と字画を利用し呪術を施すなんて時代もあったの。そのために本名つまり真名を持つ者はそれを隠すならわしができた――ってのはそういう理論だ。


 ウィークポイントは狙われるから隠さなければならない、それが明るみになれば呪いをかけられる可能性が高くなるから御名隠しも真名を隠すことが必須条件。

 俺は昨日これに近いものを目撃た。

 そうあのワンシーズンのアスって娘がなったきだ。

 国立六角病院びょういんの看護師さんの言葉を思い出す。


 ――さっきの病み憑きの原因は呪詛性でした。たぶんアスちゃんの周囲に病み憑きの呪詛を与えた人物がいるじゃないか? という先生の診断です。しかも病み憑き以外にも以前から呪詛をかけられている痕跡がみつかりました――


 呪いは長い歴史の中で負の遺産として脈々と受け継がれてきた、呪いがなくならないのは誰かをへの怨みがあるから……人のマイナスの側面だ。

 まさかあんな女子だけの集まりにそれがあるとは……いや、女子だけ・・・・だからか? あんな華やかな場所だから誰かを引きずり下ろしてでも自分が上にいく、そうじゃなきゃやっていけないのかもしれない。


 でも、アイドルのゴールってどこにあるんだ? 六角市の出身のミアって娘も気になるな冷遇されてるっぽいから、あんまり負力を溜めてなきゃいいけど。

 ふと校長に視線を移すと俺を見ていた。

 あっ、俺の言葉待ち?


 「ラプラスを秘めてる。ですか?」


 「良かった。沙田くん、なんだか心がどっかにいっちゃったみたいに考えごとしてたから」


 「えっ、えっと、ま、まあ、いろいろ考えてました」


 「ただ古文書を見せてはいけないけどその中身を会話でするのはOKなのよね。結局三家は古文書の中身をみんな知ってるのよね」


 「会話してもいいなら直接古文書を見せ合えないというルールの意味がないんじゃないですか?」


 な、なにかが心に引っかかる。

 なんだ? そうすることでできることとできないこと……? 話してもいいけど見せ合うのはダメ。

 どっちも同じようだけど違う点が……あっ!?


 「でも、校長」


 「なに?」


 「仮に古文書の中身がほぼ同じで三家それぞれにひとつだけ相違点があったなら意図的にそれをいわないこともできるんじゃないですか?」


 「えっ。お、おー!! そ、そうね~。そういわれればそうね。なるほど~」


 今度は俺の言葉で校長がひとりでなに考えはじめて、ひとりコクコクとうなずいている。

 視点は机に向いたままで印紙を見つめている。

 たぶん印紙を見てるわけじゃなく考えごとをしているからその角度にある物を見つめてるだけだ。


 「ただなんとなく思っただけですよ」


 俺がそういうと校長はまるでビックリ箱でも開いたようにハッとした表情で咳払いをした。


 「……でも三家で古文書の中身を隠してなにか意味があるの?」


 「隠さなきゃいけないことが書いてあるとか?」


 「なにそれ?」


 「御名隠しの真名のように」


 「なるほど。たしかに沙田くんのいうとおりだわ。考えもしなかった。っていっても私たち三家は上手くやってるからそれはないと思うわ」


 「で、ですよね」


 そうだよな~。

 その三家が上手くバランスをとって六角市をまとめてくれてるんだから。


 「でも沙田くんの考えはひとつの考えとして受けとっていくわ」


 「わかりました。それよりどうして僕がその古文書の人物だと思ったんですか?」


 「最初は鵺を倒したあの日になんとなく気づいたの。完全にそう思ったのは死者との戦闘でラプラスが出現したこと」


 「死者のときですか……」

 

 「九久津くんが夢魔を憑依させたときにラプラスの存在を認めた者は三家の待ち人・・・として迎えることになっているの。私と堂流が六歳の沙田くんを見つけたときに目ぼしい人物だとは思ってた。でも六歳ではまだ早すぎるから高校生までを目処めどにしばらく時間を置くことにしたの」


 「僕はそのことを覚えてないんですよね。鵺を倒したのは僕の無意識のツヴァイですし」


 やっぱり俺の能力の根源は……園児かそれより前にあるのか? さらにその前ってことは赤ちゃん……いや、もしかするともっと前か? そうなると……前世的な領域。


 これは一般知識ではなく魔障医学の分野で只野先生にきいたことだけど。

 星間エーテル……魂の正体、転生……ミッシングリンカー。

 俺はいったいどこからやってきた……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る