第178話 「夢魔」と「悪魔」と「ラプラス」
「そうよね」
「とろこでラプラス、ラプラスっていってますけどあれはアヤカシですか? それにどうして九久津が夢魔を憑依させることで僕の中にラプラスがいるとわかったんですか?」
俺は俺自身でなんの理由もなくそんな疑問を思ったわけじゃない。
俺が転入した日に九久津が夢魔を召喚憑依させて、その九久津が俺を見て――ラプラス――といったからだ。
「ああ、それについてはね。えっと、まず夢魔によってラプラス判定できる理由を話すわね」
「はい」
「アヤカシの起源を読んだならわかると思うんだけど。悪魔とは関わらないことは常識。ゆえに召喚憑依の能力者は悪魔と契約してはいけない。これが絶対条件ね」
「はい。それはわかります」
「でね、夢魔ってのは
「それ九久津もいってました。――サキュバスとインキュバスが完全な悪魔。だって」
「そう、そのとおり。結局それって文化圏の問題なのよ」
「えっ、というのは?」
「もすごく分かりやすくいうと英語は世界の公用語。英語圏でサキュバスとインキュバスの名前を出せば通じるけどそこで”ム””マ”と発音しても通じないってこと」
あっ、ああ~!?
アヤカシの起源にそれっぽいこと書いてあったな。
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四、想像力と創造力の相乗効果。
例として日本ではコックリさん(キツネ憑き)。
その正体は
海外に目をむけると欧米の悪魔憑きがある。
このことからも上記の現象はそれぞれの文化と対象者の生活圏に密接な関係がありやはり概念=人の思念がもたらす結果だといえる。
昨今の海外事例ではスレンダーマンが顕著である。
スレンダーマンについては、作者が創作した事実を認めたにもかかわらず体躯を得て体現してしまった例だ。
強力なミームは近い将来、絶大な脅威になりえるだろう。
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要するに米国や英国なんかで
ということは夢魔の存在ってのは日本、あるいはアジア圏特有のアヤカシって括りになるのか。
属性的には「魔」を帯びてるけど悪魔じゃないアヤカシ。
亜空間の「亜」みたいなことか。
そういや昨日、
「沙田くんに欧米はアルファベットの羅列だから御名隠しはないって話したことがあったけど英語圏と日本ではまったく影響力が違うのよね」
校長の声がなめらかにつづく。
「あの。夢魔って魔障にもありますか?」
「うん。夢に
「やっぱり!! じゃあ睡魔って魔属性のアヤカシもいますか?」
「うん、いるわよ。それこそ悪魔じゃなく
「へ~」
そうだよな。
九久津がそんな禁忌を破って悪魔を召喚するわけがない。
俺はずっと
小さいってなんだ? なんで俺はそんなことを? あれか同級生だからむかしに出合ってたのかもしれないってことか。
たとえば町中ですれ違ってるとか、か? やっぱり俺と町ですれ違ってた? でもなんか記憶が……九久津も最初はカマイタチ下手だったんだな。
やっぱり、なんか変だ。
記憶が混在してる、ラプラスの影響か? そういえばバスの中でもこんな感覚になったことがあった。
あれはたしか九久津から【ナスのヨナナス味 カプセルグミ~
あっ、あれか……? 俺は九久津の過去を知ってるからたまたま感傷的になっただけ?
「それでどうして夢魔はラプラスのことを」
「ラプラスとは正式には”ラプラスの悪魔”なんて呼ばれてるの」
「へーじゃあ。ラプラスも魔属性のアヤカシってことですか?」
「いいえ」
校長はゆっくり首を振った。
「夢魔がラプラス判定を出せたのは古文書にそのやりかたが書いてあったから。そこは理解できるわよね?」
「はい」
「ただラプラスは万国共通の
「世界中で通じるってことですか? それでラプラスの正体は?」
「
「
「そう。つまり概念というものが肉体を持つようになったモノ。いや肉体なのかどうかはわからないけれど。それに存在してるのかどうかもわからない。別名、意志を持つ概念」
「概念が意志を?」
「そう。ラプラスとは【因果律】の
概念が意志を持って
概念……”
そんな存在がいたんだ。
概念ってたとえば他になにがある。
そうだな【
あとパッと思い浮かんだのは【気象】とか【治癒】とかかな……? 校長がすこし疲れた感じで眉間を揉んだ。
そのまま体をリラックスさせるように椅子の位置をすこし横に回転させたときだった。
――ギシ。っと鳴った背もたれの横になにかがあって大きな影が揺れた。
……ん? ……えっ? ……おっ!?
あ、 あるじゃなくて、い、いる!!
椅子の横から一本の緩やかなカーブの触角がピョンとはみ出てきた。
校長の椅子がまたすこしずれるとそれに合わせてツインテールの片側が見えた。
同時に黒い十字架のイヤリングも一緒に揺れている。
ええと、ええと、うわっ、うわっ、目、目が合った。
ほ、星がくっきりしてる。
防御力は完璧だなって思ってる場合じゃねーな。
あっ、また目が合った。
合ってしまった。
昨日ドタキャンしたのに椅子のうしろでなにしてんだか? まさかドタキャンしてわざわざここに隠れてたわけじゃな……い……よな? それはいいとしてなぜ校長の椅子の裏に隠れているのか? カーテンの裏に隠れて見つからないと思ってる子どもか? でもあれは寄白さんに間違いない。
俺と寄白さんの視線がぶつかると寄白さんはまた徐々に椅子の陰に隠れる仕草をみせた。
上手く顔を隠したと思ってるようだけど、おもいっきり髪が出てるんだよな~これが? それに特徴的な触角のツインテールと黒い十字架のイヤリングも見えてる。
おお!!
また徐々に体ごとはみ出てきた。
俺の転入初日、寄白さんは俺の机の下から浮上してきた。
今日は校長の椅子の横から俺をチラ見している。
ちょいちょい変則的に姿を見せてくるよな? ま、また目が合った、こ、これどうしようか? 校長はなにもいわずに女子力高めの目薬差してるし。
疲れ目ですか~? あれだけ書類に集中してたら……って思ってる場合じゃない。
「ラプラス?」
寄白さんは椅子の裏に隠れたままで首をかしげた。
な、なにをいいはじめるのか? 寄白さんがラプラスを知らないなんてことはないだろう。
けど九久津がいってたっけ。
寄白さんってなんだか勘違いしてる
古文書でも三家によって知らない情報があるってのとどことなく共通点が。
「あら。美子やっと出てきたの?」
校長は目薬を目に馴染ませるように二、三度、目をしばたたかせてからすこし腰を浮かせて車の後部座席を見るように振り返った。
校長、寄白さんが椅子のうしろに隠れてるの知ってたのなら最初からいってくださいよ~。
寄白さんはまるで横ミーアキャットのように斜めに顔を出し校長を見上げた。
「はい。お姉様」
「それより、もうこんな時間ね?」
校長は振り向いたついでに壁の時計をながめてから、また椅子に腰かけた。
そしていつもしてるシャンパンゴールドの腕時計でふたたび時刻を確認している。
「ああ~もう、こんな時間か。ふたりとも時間があったら昼休みにもう一回校長室にきて。話そびれたこともあるし。いい?」
「あっ、はい。わかりました。僕は大丈夫です」
「よろしくてよ」
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(沙田くんってときどき大人びた考えと発言をするのよね? そこまで難しい言葉ってわけでもないし高校生が知っていても不思議じゃない言葉ではあるんだけど……。だから私は沙田くんに見え隠れする安心感に頼ってしまう。それこそが沙田くんのルーツの鍵なのかな? ただ沙田くんの先祖にはそれらしい痕跡がないのよね?)
繰は沙田と寄白が去ったばかりの校長室でひとり不思議な気持ちを抱いていた。
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