第166話 証言者
そのときピエトロが脇に抱えていたタブレットから――ピーン。と電子音が鳴った。
「……なんだろう?」
液晶画面にはメールを受信したという旨のポップアップのメッセージがある。
ピエトロが画面をタップすると署名欄には【二条晴】とあった。
「一条さん。文科省の二条さんからです」
そう読み上げた。
「なんだって?」
「――通信機器の電源を切るなバカ。だそうです」
「……」
一条は苦笑いを浮かべた。
「それはスルーしてくれ。本題は?」
「――どうせ私の言葉スルーする気でしょ? バカ、アホ。だそうです」
「マジか?」
(やるなあいつ。俺のつぎの行動読まれたぜ。なら虫の報せでも使ってこいって……。まあ、そうそう使わなねーか。それを考えるとバシリスクのとき近衛ってよっぽど焦ってたんだな? 口語と虫の報せ同時だったからな)
「はい。それだけ添えられています。このタブレットのアドレスを二条さんに教えておいたんですか?」
「まあ、いちおうな。なにかあったときのために」
「だとしたら」
「いわんとすることはわかる」
「ですよね」
一条が自分のスマホに電源を入れたと同時にメールを受信した。
そこに「これを観て」というメッセージとともに日本当局公式ドメインのURLがあった。
「海外まできてるってのにいったいなにがあったんだよ?」
メールに書かれていたクローズドサイトのURLをタップする。
「ボクは席を外していますね?」
「別にいいよ。おまえも観とけ。アヤカシと無関係な世界にいるわけじゃねーんだし」
リンクの先にはWebに埋め込まれた動画ファイルがあった。
その下はまるでスロットのように六桁の数字が高速で減算している。
(この数字の減りかた……六十からはじまって今は五十九か。一桁目と二桁目は
動画の真んなかに二等辺三角形が右を向いた再生ボタンがあった。
一条は迷わずにタップする。
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「では、お願いします」
「うちの
「はい。それで」
「吠えてる方向を見たのさ」
「はい」
「そしたら別になにもなかったね」
「えっ?……っと、そ、そうですか」
「証言できるのはこれくらいかねぇ。力になれずすまないね~」
「あっ、いえ。貴重なご意見ありがとうございました」
「けど動物ってさ人間には視えないものも視えるっていうしさ」
「そういう話はよく聞きますね」
「ただ、わしが住んでるのは
「シ、シシャですか……? さ、さあ、どうなんでしょうかね。僕は国交省の職員ですのでちょっとわからないですね」
「そうだよな~。国交省っていやー道路や建物の管理してる人だもんな。すまんね変なこと訊いちまって」
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(訊きとりしてるのは近衛の部下か? ってことはこの動画の一次ソースは国交省……? 早い話、近衛がこの動画を観とけってことで送ってきたのか?)
一条はもうひとつの動画の再生をはじめた。
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「お願いします」
「そのときのことを教えていたただけますか?」
「私早朝ランニングしてたんですよ」
「あっ、ちょっと話の腰を折ってすみませんけど。あの、ここで壁というか工事現場のフェンスに向かってなにかいってますよね?」
「はい」
「なんていったのか覚えていますか?」
「それは忘れるわけがありませんよ。私はあのときフェンスの下から流れてくる嫌な空気を感じて足元を見たんです」
「それで」
「そのあとにフェンス越しに校舎を見ました。そこで私がつぶやいた言葉は」
「つぶやいた言葉は、なんですか?」
「なにあの椅子。です」
「椅子?」
「はい。真っ黒なロッキングチェアがユ~ラ~ユ~ラ~って気味悪く揺れてたんですよ。あの揺れかたは人が嫌がるようなリズムでした」
「黒いロッキングチェア?」
「そうです。デザインもなんか変で肘置きのないロッキングチェアでした。しかもその椅子からは人の影みたいなのがブワーって飛び出してきて」
「人の
「はい。だから私気持ち悪くなっちゃって。私、元からそういうの視える体質なんですけどその椅子はとくにいやな感じがしました」
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(忌具か……。……ん? まだ動画の残り時間がある)
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「※この動画をご覧いただいているかたへの追記です。証言者のかたがこの出来事に遭遇したのは沙田雅が六角第一高校に転入した初日です。沙田雅と間接的に遭遇している可能性も否定できません」
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あとになって挿入された文字が上から下に上がっていた。
(……
「ほ、本当に日本で忌具が動いてたんですね!? それと沙田雅って新人の能力者のことですよね。たしかドッペルゲンガーを使う【
「違うよ。あいつはそんな単純じゃねーんだ」
「そうなんですか? でもミッシングリンカーですよね?」
「そう。あいつはタイプCのミッシングリンカー。でもな……」
(
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