第130話 佐野和紗(さのかずさ)

 俺は社さんとエネミーのふたり、つまりちょいハーレム状態で南町いきのバスに乗った。

 駅が始発のバスだから車内は混雑していて後部座席の真ん中に座った。

 社さんとエネミーは俺の左斜め前の座席に座っている。

 転校してから南町のほうにいくこともあんまりなくなったけど二日前に例の廃材置き場にいったからそれほど懐かしくもない。


 俺は車内でしばらくひとり大人しく座って過ごした。

 六角市の郊外に近づくにつれ、やっぱりたくさんのソーラーパネルがあってギラギラの太陽光を貯蓄している。

 電気の再生エネルギー以外で使う理由を知っている俺からすればこのシステムには心から感謝できた。

 なんたってアヤカシから市民を守るエネルギー源になってるんだから。 

 町の中心から離れるたびに乗客は減っていく。

 今は俺が座っているこの席からでも社さんと会話ができるくらい車内は空いていた。


 「沙田くんって。佐野くんのこと知ってるの?」


 通路側に座る社さんがこっちに振り向いた。


 「えっ、佐野?」


 驚いた、まさか社さんの口から佐野の名前が出るなんて。

 けど考えてみれば半年前まで「六角第一高校いちこう」にいたんだから佐野のことを知っていても不思議じゃない。

 俺たちみんな・・・同学年だし。

 俺、寄白さん、九久津、社さん、エネミー(?)、それに佐野も。

 なんだこの選ばれし世代感。


 「そう佐野くん」


 「知ってるよ。同じクラスだし。佐野がどうかしたの?」


 「さっき駅前にいたからもしかして一緒にきたのかなって思って」


 ああ~エネミーのいってた社さんが探してた友だちって佐野のことか。

 佐野、今日俺と同じ時間帯に駅にいたんだ。

 なんか用事でもあったのか? バシリスクが現れた当日に身内に不幸があったって先生がいってたな。

 あの日から一週間ってことは、もう初七日は終わってる? いや、もしかして今日がその日か?

 

 「いや、佐野がいたなんてぜんぜん知らなかったよ」


 「そう。じゃあ別の用件かな」


 「じゃないかな。一週間前におばあちゃんが亡くなったっていってたからその関係かも」


 「そうなんだ」


 「うん」


 「じゃあ、それかな」


 「まあ、想像でしかないけど。社さんって六角第二高校にこうに転入する前に佐野と仲良かったの?」


 「う~ん。仲が良いというか馬が合うっていうか。なにか不思議な縁のような」


 「へ~そうなんだ」


 佐野とね~、てか他の男子じゃ社さんには近づけないだろうし。

 佐野ってなんか自然体なんだよな、それでいて掴みどころがない。

 俺が転校したときも隣の席でなんとなく話すようになって、なんとなく友だちになったって感じだし。

 

 「そういえば俺が寄白さんと九久津に塩入れられたとき佐野に助けてもらったな。海苔の下に塩があるってすぐ気づいてたもん」


 「ほんと? ふ~ん。私がたまに塩をあげてただけのことはあるかな」


 「塩? ってみんな持ってる、あのマイ塩?」


 「ええ、そうよ。六角神社うちは特性の塩を作ってるから」


 「あっ!? そっか実家いえ神社だもんね?」


 「ええ」


 途中でいくつかの停留場で止まりながらバスは現在進行形で南西方向へと向かっている。

 席が空いてきたから俺は後部座席のいちばん右にずれた。

 エネミーは社さんの真逆、つまり俺の前の席に座っていた。

 今はもう自由に席を選べるほど車内はすいていてバスがそこそこ長い距離走ったことを意味している。


 「六角第二高校にこう」は南町の西側にあるから、社さんとエネミーはわざわざ一度六角駅えきにきてまた戻ることになる。

 はっきりいって二度手間だと思う。


 「また南町に戻るんなら、待ち合わせ場所を南町のどこかに変更すればよかったんじゃない?」


 「ううん、いいの。美子がドタキャンしただけだし。エネミーの社会勉強にもなるし」


 社さんはまるでエネミーの保護者のようにいった。

 エネミーはエネミーで窓ガラスに貼りついて周囲の景色に興味を示している。

 ときには顔芸なのかというほどに大袈裟に驚く。

 それは絵本の表紙にでもありそうな顔だった。

 また、ときどき束ねられている遮光カーテンを顔の輪郭に巻いて揺れている。


 ――ああ~揺れるアル~よ。


 この行動に意味なんてない。

 いや、意味のないことをして勉強しているんだろう。

 でも、じっさいドタキャンした寄白さんってなんの用事なんだろう……? まあ、今は忘れよう。

 また女子に理由を訊くのっていわれそうだし。


 「そっか。そういう理由なら。わかった」


 「エネミーには学習が必要だからね」


 エネミーはなにもかもを楽しそうにしている。

 それもそうか高校二年生こうにを装ってるけどつい最近生まれた赤ちゃんみたいなもんだ。

 いつ生まれたのかわからないけど死者の反乱から今日で十日。

 ってことはここ十日のあいだに生まれたことになる。


 いや、バシリスクがきた日まで誰もエネミーのことをいってなかったからここ何日かで生まれたんだ。

 エネミーは吸収も早いけど、その分ちょっと変わったものまでとり入れてしまってそれが性格とか言葉に反映されるんだろう。

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