第125話 日常 

 ここ一週間は校長と同様に教育委員会もバタバタしていた。

 九久津は退院までもうすこしかかるらしく、俺はバシリスクの戦闘のあとから一度も会ってない。

 寄白さんや校長さえも会えていないといっていた。

 面会謝絶らしいけど、それは怪我が重いとかではなく当局の聞き取り調査が入ってるからだ。

 校長は――九久津くんどうして独りで戦いにいくの? と九久津がなぜ独りでバシリスクと戦にいったのかがまったくわからないらしい。


 でも俺はどうしても独りで戦いたかった九久津の気持ちが理解できた。

 校長いわく――そんなときこそみんなで力を合わせて戦えばいいでしょ? ってことらしいけどそこは男女の考えの違いっぽい。

 ただ安全面を考えれば校長の意見が絶対に正しいと思う。

 俺の考えとして――九久津の兄貴だって九久津と同じ立場なら同じことをすると思います。っていったら校長は百八十度考えを変えた。


 校長は九久津の兄貴に弱い。

 そういった俺はなんか恥ずかしい気持ちになった……。

 寄白さんも「シシャ」を失ってから体調不良らしくすこし辛そうだ。

 原因は「真野絵音未」こと「死者」が消えて負力の受け皿がなくなってしまったからだ。

 けど、ここ数日は持ち直してきたような気がする。

 それにバシリスクがきたのと同じ時間帯に寄白さんが「六角第一高校いちこう」の四階でブラックアウトした人体模型と戦ってたなんて知らなかったし。


 寄白さんはあんな倒れるような状態だったのに……別の理由でこの町の危険を食い止めていた。

 寄白さんはなにかの裏に隠れてけっこう重大な動きをしていることが多い。

 影武者かよ!?

 といちおうツッコんでおく。

 もしかしたら九久津と寄白さんは阿吽の呼吸でバシリスクと人体模型を二手に分けて退治しにいったのかもしれない。

 ……六角市は寄白さんと九久津そして近衛さんそれと【空間掌握者ディメンション・シージャー】、六角市と当局の能力者に守られた。

 

 あとは校長が「蛇」という敵の存在の心配をしていた。

 どんなやつなのかはまったくわからないけど不穏な動きをしていることは俺でもわかった。

 もしそんなやつがいるならなんとかしないと……。

 そのときに「六角第一高校いちこう」きていた救偉人の二条さんって人が、アンゴルモアの討伐隊の人だったことをあとで教えてもらった。

 

 四階から寄白さんを担いできたのもその人で、さらに驚くことに寄白さんの特種校の担任の先生でもあった。

 さらにさらにこの六角市まちを数年間守っていた能力者。

 数年間というのは九久津の兄貴が亡くなって校長とのバディを解散し、六角市内に主力の能力者がいなかった数年間のことだ。


 そのあとは替わりに派遣されてきた能力者たちがシフトで穴埋めをしていきやがて寄白さん、九久津、社さんたちへと代替わりをした。

 俺がアヤカシのことをなにも考えずにのほほんと小中学校の学校生活を送っていたときもやっぱりその人たちが六角市を守ってくれてたんだ。

 

 俺も早く追いつかないとな。

 ちなみにここ一週間で俺がアヤカシと戦ったのはたった一度だけ。

 それは四階のヴェートーベン。

 けど前とまったく同じやつのような気がした……。

 寄白さんがずっと見守っている【誰も居ない音楽室で鳴るピアノ】は相変わらず低音を鳴らしていた。

 あのピアノも害はなさそうだけどブラックアウトしたら鍵盤とふたが口と牙になって襲ってきそうな気もする。


 あと俺は別案件で六角市の南南東の郊外にある廃材置き場に出向いたことがあった。

 いってみたけど「茶色に近い黒い動物の毛」と「黄色い動物の毛」が散らばっていただけだった。

 あれはなにかの野生動物のものだと思う。

 いちおう当局が調べるみたいだけどあんなのをいちいち調べてたらキリがないよな。


 九久津が学校を休んでいるあいだに六角第一高校いちこうでは変な噂が流れはじめていた。

 それは九久津がイタリアサッカー界にスカウトされただとか、ノーベル賞の候補になったとか芸能界デビューするとで、それはもうむちゃくちゃな話だった。

 これが噂に尾ひれ羽ひれがつくってやつだ。

 じっさいはホームルームで担任の鈴木先生が――九久津は急遽約一週間の交換留学にいった。と取ってつけたような理由をいっていただけだけど……。

 

 けど、本当に交換留学なら九久津の代わりに誰かが六角市にきてるってことになるよな? 代わりは誰だよ? そんなうそすぐバレるだろ。

 学校の七不思議やこの六角駅の話と同じで当局が流したんだと思ってる。

 当局ならやりそうだし。

 

 この一週間で俺が気づいたことだけど、校長たちと当局はそこまで仲が良いってわけじゃなかった。

 大人たちの組織だからそうかもしれないと妙に納得もした。


 そんなこととは正反対でここ数日校内は静かだった。

 今日の理科の授業で習った「XX染色体」と「XY染色体」がアヤカシとは無関係でとてつもない日常を感じさせてくれた。

 遺伝といえばルーツ継承だよな? と思いつつ俺は教室の雰囲気にどこかホッとした。

 あっ、ルーツ継承のことを考えてるって俺もすでに能力者そっち思考だ。

 

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