第80話 高次結界(こうじけっかい)
「あの~六角市に助っ人にくるっていってた救偉人って近衛さんのことですか?」
「わたしは」
近衛さんは上着のポケットにスマホをしまうとスーツの内ポケットから五角形でサファイアような五百円玉くらいのサイズのなにかをとりだした。
青く透明な勲章の中央には「前」という刻印があってピンバッジのような形になっている。
「これは?」
「救偉人に対して国から贈られるものだ」
救偉人の勲章は俺が思っていたよりもずっと小さくてまるでおもちゃのようだった。
まあ、これなら持ち歩くのには便利か。
「これを提示すると仕事が早く進むことも多くてね。わたしは常に携帯している。ちなみに本来くるはずだった救偉人は別の人間だ。ただこの事態を受けてもう六角市に向かっている可能性はある。いや、あいつなら確実にいるだろう」
「そうですか」
おお!?
ってことは
「近衛さんはどうしてここにいるんですか?」
「まったく予想外のできごとだ。昨夜千歳杉のある丘で青くて大きな火球が見えたという通報があった。その調査で偶然赴くことになった。日本では事件や事故などがあると主に消防や警察に連絡がいく。そこでアヤカシに関連すると思われるものはその町のアヤカシ対策部に回される。つまり六角市なら教育委員会が最初の通報組織ということになる」
「なるほど。それでですか」
「ああ。今回はわたしの任務に関連があるかもしれないと足を運んでいたんだが、あの丘は九久津家の所有地。すこしくらいの異変はあってしかるべき」
「ここから九久津の家って近いんですか?」
「そうだな……近くもないがそれほど離れてもいないってところかな……ただ少々気になる点がある。それはこの町の一般協力者が空に浮く刀を目撃していることだ」
一般の協力者って、あっ!?
バスの運転手とかああいう人たちのことか。
株式会社ヨリシロの協力者、けど刀って空を飛ぶ……のか?
……空飛ぶ刀? 一反もめんとかの仲間?
「そんなアヤカシもいるんですね?」
「……どららかというとアヤカシよりも忌具だろうな? それにこんなときに申し訳ないんだが……」
えっ!?
い、忌具? 九久津家に隣接してるのが忌具保管庫だよな? その近くで刀が飛んでるってヤバい状態じゃ……。
……意思を持つ忌具、妖刀か?
「なんですか?」
「きみたちにとって良いことなのか悪いことなのかはわからないが……」
「えっ、はぁ……?」
「バシリスクとともに九久津毬緒があの亜空間に消えた」
「く、九久津があの中にですか?」
も、模試は? だって九久津は答え合わせがあるって帰ったはずじゃ。
忌具どころじゃない、こっちのほうがもっとヤバい!!
なんで九久津が……? また、あの焦燥感と危機感が俺の中に湧き上がってきた。
「それがあの大きく歪んだ球体だよ。ああなってはあとは見守るしかほかない」
近衛さんが指さした先にある球体はシンクホールにでも吸い込まれるようにゆっくりと地面に埋もれていった。
地面は土に還った木の葉のようにただの平地に戻っている。
整地されたようなその場所はただの広大な湿地帯で、あたりには青紫のブドウのような花が静かに咲いていた。
「あ、あれが?」
「ああ。そろそろ戦闘開始だろう。とりあえず上級アヤカシが出現した以上簡易的な処置をしておかないと。六角市中央から見てここは北北西の位置。京の
近衛さんそういいながら手のひらを地面にぴったりと密着させた。
{{
近衛さんが手をかざした場所を中心に光が
この感じなら半径、数キロくらいまでは広がってるか? けど、なんか落ち着くスゲー安心感だ。
「この方角一帯を
そっか、バシリスクから
ここにきたときのようなビリビリする緊張感が和らいでいる。
近衛さんは土地や地形、建物を変化させる能力者ってことか? 家だって基礎がしっかりしてないと頑丈な家は建たないもんな。
六角市の「
結界とか瘴気の浄化システムは近衛さんの専門分野なんだろうな。
「それはこの場所を部分的に隔離したってことですか?」
「きみは飲み込みが早いね」
そういや昨日九久津にも資料の読んだあとの飲み込みが早いって褒められたっけ。
近衛さんは左腕の高級時計をながめたあとに
さらに視線を斜め上にずらして、わずか一秒ほどでふたたび時計の針を見返した。
「
「半減期?」
「ああ。今この場所は他よりも強い結界で覆われている。ただしそれは他の場所の結界の
「そ、そんなことができるんですか?」
「まあね。それが過ぎれば六角市はまた安定的な結界に戻る。ほら停電時に被災地域が他都道府県から電力を融通してもらたことがあっただろう? それと同じ理屈さ」
これが救偉人って人たちの能力なのか。
に、人間離れしてるな? けど、このやりかたって九久津がモナリザとの戦いでやった塩の五芒星に隙間を作ったのと似てる。
それに校長が六校の六芒星の結界を緩めたのもだ、要するに意図的に結界のどこかに偏りを作ること。
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