第79話 能力【アーバン・アドミニストレーター】

 おっ!?

 顔の前に衝立ついたてがあって右と左の景色が分かれて見える感じか。

 意図的にやるとこうなるのか? 左側が校長室で右側が守護山の麓だ。

 でも出現したい場所におれ出現せた。


 右目だけを動かして周囲を見回してみる。

 そこは湿地帯で青紫の小さなブドウのような花が咲き乱れていた。

 ほ~こんなふうになって……おっ!?

 ひ、人がいる……。


 「やあ」


 えっ、こ、この人って?


 「へ~これがツヴァイなのか?」


 俺は落ち着ついた雰囲気の男の人に声をかけられた。

 その人は片膝をついて、まるでそこで定点観測でもしているようにここからすこし離れた場所をながめていた。

 ツヴァイの視線のさきには大きく歪んだなにか球状のようなものが見える。

 コンビナートのタンクくらいの大きさで湖に映る月のようにユラユラと揺れていた。


 「あの、あなたは?」


 「わたしは国交省の近衛このえよつぎ遠近えんきんの近いに衛星放送のえい近衛このえ。きみとはバスの中で会っているんだがね?」


 「ぼ、僕に気づいてたんですか?」


 俺に話しかけてきたその人はオールバックの髪型で顔が面長の人だった。

 年齢は三十台半ばくらいだろう、それは昨日も思ったことだ。

 細身のスーツに胸元には「KK」という文字の入った青いバッジをしている。

 そう、この人は俺が「六角第一高校いちこう」の前のから乗ったバスで革の手帳になにかのメモをしていた人だ。


 「もちろん。きみは有名人だし。もう十年も前からね?」


 「十年?」


 「ああ。きみ自身に実感はないのかい?」


 近衛さんは地面に直置じかおきしてあったスマホをまったく見もせずにタップした。

 その位置のまま手際よくアドレスバーに直接数字を打ち込んでいき最後に人差し指の先で強めのタップした。


 「このアーカイブだよ」


 さらにカルタでもするように画面を二、三度とスライドさせてから、スマホを斜めにして俺に見えるようにしてくれた。

 俺は時代劇の印籠いんろうのような近衛さんのスマホをのぞく。

 そのかんも近衛さんはいっさいスマホを見ていなかった。

 きっと頭の中にタッチパネルのパターンが入ってるんだ。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 Japan(日本) 六歳の少年がぬえを退治。


 能力者の素質はあるが年齢の関係もあり現段階での実名公表は控える。


 詳細を知りたい場合は各国の担当部署を通して日本当局に直接コンタクトを

とること。


 窓口は外務省


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


  これは校長が昨日見ていた能力者たち専用のWebサイト。

 近衛さんはいまだに俺のほうを見ないままでスマホの操作をしている。

 けど、あの揺れてる球体はなんなんだ? 目を逸らせないほど重大ななにかなのか?


 「退治された上級アヤカシのことがニュースになったりするんですよね?」


 これって俺が倒したってことか? 六歳のとき……あっ!?

 ま、まさかあの恐竜……あれってアヤカシだったのか? 近衛さんは俺の表情を察したようでさらに目を細め渋い顔をしている。

 そしてこのときも俺の顔をいっさい見ずに雰囲気だけで判断したみたいだ。


 「そう、きみが瞬殺したんだよ」


 また画面をタップする。


 「瞬殺……?」


 「ただ、わたしにはその鵺の出現状況に少々合点がてんがいかないんだがね」


 近衛さんはなおも前方の球体から目を離さずにいぶかしんでいた。

 出現状況がおかしいって……それなら今回のバシリスクもだよな?


 「どうしてそう思うんですか?」


 「六角市はわたしが創造した町だからさ」


 「えっ!?」


 「わたしの能力はね【都市開発者アーバン・アドミニストレーター】。まあ、きみがわたしの能力をいちばん身近に感じることがあるとすれば、六角第一高校そのものかな」


 「あっ!? も、もしかしてあの四階建ての校舎を三階建てに模倣みせるデザインをした?」


 「ああ、あれもわたしの能力だ。ただあれも仕掛けのひとつに過ぎないがね」


 こ、この人が……? だったらこの六角市の結界を仕切ってるのにも納得がいく。

 六校の場所を六角形ヘキサグラムに配置したのもきっとこの人だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る