モンスターハウス・ルール 1
青い空の中に溶け込むようにぶっ飛んで行った子ブタから「ひゃっほー!」と、リリーの声が聞こえてきた。
なんか楽しそうだから良いが……
あれ、普通の人間なら振り落とされるか、風圧でおかしくなるだろう。
どう考えてもリリー専用の乗り物だ。
門から屋敷までの短い距離なのに、白い雲のようなものを引いている。
子ブタの飛ぶ爆音を耳にすると、気配を消すのも馬鹿らしくなって。俺は門を抜けると堂々と庭の真ん中を走り、屋敷の玄関に着いた。
「はっはっは、遅いぞ! 待ちくたびれて寝てしまうところじゃった」
子ブタから降りて、リリーは嬉しそうに笑う。
美しいストレートの黒髪がボサボサになり、『じゃーじ』の下のシャツもお腹までめくれ、可愛らしいおへそも全開だ。
以前のような平らな胸なら、もっと上までめくれてただろう。
ささやかな膨らみとシャツの間に、チラリとブラジャーが見えてしまっている。
ついついそこに視線が行ったら。
「ぶひぶひ」
子ブタも同じ場所を見てご満悦な様子だ。
やはりこいつは、いつか焼いて食おう。
「こっから先はどうなっているのか想像もつかん。あれだけの爆音がしても誰も出てこないし…… やはり屋敷の中から、異様な魔力がもれてきている。
俺が先行するから、リリーはその後について来てくれ」
屋敷の玄関の開錠を始めると。
「なんじゃ下僕よ。忍び込むならあっちの窓や…… 裏にまわってから入り込んだ方が良いのではないのか?」
そう言いながら、お腹を見られたことに気付いたのか……
リリーはもじもじしながらシャツを下ろして『じゃーじ』のズボンに詰め込む。
少々顔も赤いし、髪を手ですく仕草もちょっと女性っぽい。最近そんなことが多くて、それを見て萌えそうになる自分が怖いが……
俺はそんなリリーから視線を外して。
「何を言ってるんだ、ここから入った方が近くて楽だろう」
そう答えると。
「そうじゃが…… まあ、下僕らしいな!」
なんだか嬉しそうに俺の顔を見つめてきた。
そんなキラキラ瞳で見られると、いろいろ対処に困るんだが。
気を取り直して、懐からアイギスとガロウを抜くと。
「おお! ダーリン、これもなかなか凄い魔力だ!」
「一応確認しますがご主人様、なにか作戦がございまして?」
2人の声が脳内にこだました。
俺は解錠が終わった玄関の扉を、ゆっくりと肩で押しながら。
「いつも通りさ」と、呟くと……
――脳内で2人の歓声が上がった。
++ ++ ++ ++ ++
玄関ホールに人影はなかったが、カーテンは閉められ。屋敷の中は薄暗く、どこかから血のと何かが焼けるような匂いが漂ってきた。
時折「タタタタン」と、昨夜聞いた連射ができる応用兵器の音や、悲鳴も聞こえてくる。
「こっちだな」
音と匂いからホールの横にあった階段を指さすと、リリーと子ブタが頷く。
俺が先頭に立って階段を上ると。
2階の廊下の端に数人のシスターが倒れ。
通路を塞ぐように大型のローパーがウネウネとしていて。その触手に、さらに数人のシスターが絡み取られていた。
「あ、あれは…… グレート・ローパーじゃな」
リリーがポツリと呟く。
通常のローパーは冒険者時代に、なんどかダンジョンで戦ったが。
目の前のやつは全長5メイルを超える巨体くねらせ、複数の触手が妙な粘液を出している。
どう考えても大きすぎるし、動きも姿も教育上良くない感じだ。
……だって、そいつの本体は男のアレにしか見えないし、触手に襲われているシスターの格好や表情も微妙すぎる。
「リリー、グレート・ローパーと言えばダンジョンのフロア・マスターでもおかしくないモンスターだろう? なんでこんな所に」
さすがに話には聞いたことがあるが、見るのは初めてだ。
「我にもサッパリじゃが……」
しかし2人で悩んでる暇もないようで。
「シスター・ルージュ、確りして! 気をしっかり持って」
「あたしの事はいいから、は、早く逃げて……」
「ああん! 触手が、ダメ…… そ、そんな所」
「はあ、うん……」「くっ! も、もうあたし……」
なんだか阿鼻叫喚の状態だ。状況がエロすぎて妙に危機感が薄れていたが、これは急いで助けないとダメなやつだろう。
廊下の隅に倒れていたシスターに近付くと。
「あ、あんたは……」
それをかばうように立ちはだかったのは、ウチの教会を襲撃に来た『真夜中の福音』の紫パンツさんだった。
他のメンバーを確認すると…… 大ケガで倒れているのがひとり。触手でエロいことしてるのが3人。合計5人とも、よく見れば知った顔だ。
紫パンツさんは、ブラウンのくせっ髪ショートと、左頬の泣きボクロが印象的な顔にたっぷりと白濁とした粘液を着けて。
エロさ当社比120%アップの姿で。
「こんな所でまた襲われるなんて…… あたしはいいから、せめてシスター・ルージュは見逃して」
大きな目を潤ませながら訴えてきた。
「誤解があるようだが…… 今キミたちをどうこうする気はないんだ。
――用があるのはこの奥でね。
それより事情を話してくれると助かる」
俺はそう言って、倒れ込んでいたシスターに近付いた。
シスター・ルージュと呼ばれていたのは。ストレートの赤髪の少女で、年の頃は10代後半ぐらいだろうか。
スレンダーで切れ長の眼と、整った目鼻立ちの美少女だが。
やっぱり体中に粘液がこびり付き、引き裂かれた修道服からスラリとした太ももと、花柄のパンツが見えちゃっている。
うろ覚えだが…… あの時の花柄パンツちゃんだろう。
「見た感じ外傷は無いようだが、意識を失いかけてるな。回復術をかけたいのだが、いいか?」と、紫パンツさんに確認すると。
「まさか、助けてくれるのか」
おどろいたように、そう聞き返された。
確かめたかったのは副作用の問題だったが、そちらは気にしてないようだったから。俺はシスター・ルージュの乱れた修道服を直しながら、回復の祭辞を唱えた。
「あっ、あん!」
一瞬体を震わせるとゆっくりと目を開き、呼吸も元に戻った。
「下僕よ、グレート・ローパーはたいした攻撃力は持っておらんが。
その粘液は女には力を奪う媚薬、男には猛毒じゃ。
しかも防御力はやたら高くて…… そこの怪力シスターたちじゃあ、手も足も出んじゃろう。相性としては最悪かもしれん」
リリーが俺の後ろでそう呟くと、紫パンツさんが。
「ありがとう助かったよ。媚薬で意識を失えば、いつ目覚めるか分からないからね。戦場じゃあ、それが命取りになりかねない」
その言葉に振り返ると、残り3人のシスターが触手にからまれてエロいことになったままだ。こっちも放っておけば、同じようになるんだろう。
「リリー、2人を守っていてくれ。俺はあのけしからんやつを倒してくるよ」
「下僕よ、アレは男には猛毒じゃ!
防御力も半端ではない! お主ひとりでは……」
しかしリリーが突っ込んで、あのシスターたちのようになってもらっても困る。
太ももに触手が絡まってたり、白濁とした粘液をかけられたり。
それを見せるのも、良くない気がしてならないんだが……
俺はリリーの言葉を振り切って、グレート・ローパーに向かって踏み込む。
本体上部にある大きなひとつ目が俺をにらんだが。
「ガロウ、やつのコアはどこだ」
「ダーリン! あの目だよ」
「アイギス、打ち込めばなんとかなるか?」
「ご主人様、非常に嫌ですが…… なんとか」
有無を言わさず、アイギスを目の中心に投擲した。
「ぐぎゅわー」
アイギスがヒットすると同時に、グレート・ローパーは悲鳴を上げ。
ピンクの本体をぴくぴくさせながら、蒸発するように姿を消していった。左右から延びていた触手も同じように掻き消え。
3人のシスターが、失神状態で廊下に転がる。
「な、何が起きたんじゃ」「えっ? 一撃……」
リリーと紫パンツさんの声が聞こえたが。
俺はグレート・ローパーが残した粘液の中で、大粒の魔法石に刺さっていたアイギスを拾い上げた。
「ご主人様、酷いですわ…… 淑女にこんな仕打ちを」
「まあ一瞬で済んだから、勘弁してくれ」
アイギスをホルスターに納めて、俺はため息をついた。
グレート・ローパーが消えて行った廊下の絨毯が、脈打つように揺れている。
「どうやらここは、モンスターハウスのようだな」
誰がどうやったかは分からないが……
――俺たちは屋敷の形をした、大型モンスターの腹の中にいるようだ。
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