できちゃってる感が少しムカつく

「うむー、行ってしまったか」

「おいこら、いいかげん足をどけろ!」


俺が強引に起き上がると、リリーはころんと地面に転がった。


「なにをするんじゃ、この阿呆!」

「アホはおまえだ、いつまで俺の頭を踏んでるつもりだ」

「まあそれは、成行きと言うかじゃな……」


スカートの裾を押さえながら、リリーがそっと目を逸らす。

今まで平気でパンツ全開だったが…… 心境の変化でもあったんだろうか?

隠されると逆に、気になってしまうが。


「と、とにかく…… あそこで倒れてるやつをなんとかしよう」

俺がレイヴンに近付こうとしたら。


「あれ、あんたたちだけなの?」

開いた正門からお嬢様たちが入ってきた。


「さっきまでテルマ…… いや、フェーク公爵もいたが」


その後ろから勇者一行や聖騎士隊もついてくる。

よく見るとライアンが、例の幼女を引き連れていた。


その縛り方が微妙というか……

胸とか妙に強調されてて、エロいのはなぜだろう?


「門にかかってた移転魔法を解呪したら、魔族軍は消えてしまったよ。

慌ててこの子だけは、封印縄で捕縛したけどね」


勇者がそう言って門の外を眺める。

視線を追うとそこは、戦闘があったとは思えない静寂に包まれていた。


「ディーンさん、そろそろどうしてこうなっちゃってるのか。

――説明してもらえると嬉しいんだけど」


ニコリと笑う勇者キドヤマに、俺はため息をつきながら。


「詳細はフレッド先生…… テイラー宰相に聞かないとわからないが。

大枠の検討はついてる。

あいつを縛り上げたら、移動しながら話をしよう」


俺がそう言うと、お嬢様が聖騎士たちに向かってアゴで指図する。

聖騎士のひとりが慌ててお嬢様に封印縄を手渡すと。


「任せておいて! プレセディア家に代々伝わる捕縛術は、どんなバケモノだって逃げることができないんだから!!」

頬を染めながら、意気揚々とレイヴンを縛り始めた。


恍惚と微笑むお嬢様の横顔も、微妙な感じに縛り上げられてゆくレイヴンも。

やっぱりそれはどこかエロくて。



お嬢様のあの趣味は、先祖代々からの血統なんだと……

――深く理解することができた。



++ ++ ++ ++ ++



聖国王ロバート・カレンディア・三世とテイラー宰相が待っているというので、俺たちは聖騎士の案内で、謁見の間に向かう事になった。


ペンタゴニアの廊下は幅5メイル程で、天井も高く、質素で白を基調としている。

途中ですれ違う職員もいなく、どの部屋も静寂に包まれていた。


俺は隣に並んできた勇者に説明を始める。

「どうやら聖国は、いや、フェーク公爵は。あなたたちの力が必要だった。

そう考えると今までの出来事が腑に落ちてくる。

きっかけは、俺がうっかりリリーの戒めを解いてしまったことだ。

そこから彼女はあなたたちの行動に干渉していったんでしょう」


俺がそこまで話すと勇者は頷き、先をうながした。

反対側で付き添うように歩くリリーが不安そうに俺の顔を見上げたが。

頭をなぜてやると、少し安心したように微笑んだ。


「リリーが復活することで止まっていた時計が動き出した。

正確には動かすことが可能になった、だが。

とにかく、あのバカでかい魔術回路のくさびが抜けた。

それを利用しようとしたやつらの茶番劇が、今回の事件の根本だ」


「バカでかい魔術回路とは、教会を利用した五芒星ペンタグラムのことかい?

帝国もずいぶん研究したけど……

あれは、それほど利用価値があるものじゃないだろう」


勇者が首をひねる。

勇者に寄り添っている赤いドレスの女、アオイも。

その大きな胸を勇者に押し付けながら、同時に首をひねった。


なんだかこの2人のできちゃってる感が少しムカつくが。

大人な俺は、我慢して話を続ける。


「応用魔法の発展は、魔族の方が早かった。

戦中の魔族軍の進撃は不可解な点が多かったが、今考えると……

意図的にこの大型魔法陣を壊していたんじゃないのか?

途中でそれに気付いた帝国も、それを利用して応用魔法の基礎を手に入れ。

お互いに兵器を進化させていった。

――この考えに間違いはないか?」


俺の質問に、勇者は大げさに両手をあげ。


「一応それは、帝国のトップシークレットのひとつだよ。

僕からはなんとも言えないかなあ」

ふざけたように笑ったが。

その言いぶりと否定しない態度は、俺の考えを肯定しているのだろう。


「戦後、魔族による応用魔法の開発を止めるため。

戦争で荒れた馬車用の貿易路に線路を引き込み、術式の安定を狙った。

まあ路線の設計としても、あの形は理にかなっている。

しかし工事が進むにつれ…… 問題が多発した」


俺が話を進めても勇者は笑ったままだ。

なら、この考えも間違っていないということか。


「レコンキャスタと名乗る魔族の新勢力が……

――帝国にちょっかいを出してきたからだ」


「なかなか面白い話だけど、それと僕たちの問題と。

どうつながってくるんだい?」


「帝国は教会の術式を『異世界移転』を押さえる封印魔術か何かだと勘違いしている。俺も初めはそうだと思っていたが……

――あれはダイヤル式の移動術式だ」


稀代の天才ラズロットも、『真実の扉』を封印しきれなかった。

俺の考えが正しければ、そもそもそんな物…… 封印することは不可能だ。

ならどうする? 俺なら、そいつらをまとめて蓋をして隠す。


まとめるのが教会を利用した大型術式だとしたら、蓋はこのペンタゴニアだ。


その証拠に、帝都とブラウンモールの教会の『呪物』が無くなった今……

――同じ方位を持つペンタゴニアの正門が破られた。


あれはフェーク公爵が魔族の男を呼び寄せるために。

わざと仕組んだのかもしれない。


「ズレたダイアルを直すために各地を訪れていたフェーク公爵が、リリーの復活を知る。なんせ目の前で見ていたからね。

そして、そこで…… ある条件がそろったことに気付いて」


俺がそこまで言ったら、勇者が。

「レコンキャスタの首領、あの魔族の男を殺せると…… そう考えたのかな?

僕が知る伝説じゃあ、『真の勇者と真の聖人がそろう時、第三の門が開かれる』って言われてる。ここでいう第三の門って『真実の扉』のことだよね。

第三の門が開けば、魔族の男は死ぬのかな?

それから、その条件は……

古龍の復活? それとも真の聖人の復活?

――どうなんだろう」


ちょうどそこまで話して、俺たちは目的地にたどり着く。


「やはり詳細は、直接聞いてみよう」

俺がそう言うと、ゆっくりと謁見の間の扉が開いた。



++ ++ ++ ++ ++



勇者とお嬢様と俺とリリーの4人が謁見の間に入り、残りは別室で待機となった。

この人選は、誰かが決めたわけではないが。


聖騎士隊が。

「こちらに待合室がありますが、どうされますか?」

と聞いたら、それ以外の人がぞろぞろとそっちに向かっていったからだ。


謁見の間は広く、天井は10メイルを超える高さになっている。

サイクロンの教会と同じ宗教画イコンが描かれているが、こちらの装飾品は健在で。

美しい金の刺しゅうや宝石が輝いていた。


廊下があまりにも質素だったから、その違いに驚いていると。


「貧すれども、ここは一国の主が客を迎える場所だ。対面というのがあるからね」

壇上から苦笑いしているフレッド先生……

いや、テイラー宰相が話しかけてきた。


その横には幼い少年が、明らかにサイズのあっていない王冠をかぶり。

王座に可愛らしくちょこんと座っている。


勇者とお嬢様は聖国王の存在に気付くと優雅に膝を折り、頭を下げた。

俺も慌てて膝を折ると、リリーも同じように膝を折る。


リリーは、どうせふんぞり返ると思っていたから。

「意外だな」小声でそう聞くと。

「下僕の顔を立ててやったまでじゃ!」そっぽを向きながらそう答えた。


「われは、ロバート・カレンディア・三世! フェークやテイラーから話は聞いておる。あいたかったぞ、ディーン・アルペジオ、おもてをあげろ!」


壇上から少したどたどしい少年の声が響く。

俺たちが顔を上げると、聖国王は元気よく椅子から立ち上がり。


勢いあまってサイズのあっていない王冠がズレ落ち……

――ガボッと顔の半分を隠した。


「なあ下僕よ、あやつは道化かなにかか?」



リリーが笑いを堪えながら小声で聞いてきたが……

――とりあえず俺も、笑いを堪えるのが精一杯だった。

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