弟でいるのも悪くない
へろりん
1.お姉ちゃん来襲
秋の夜長というのは、涼しくて、静かで、何をするのにも集中出来ていい。
レンタル店で名作映画を借りて観るもよし。文学賞を取った話題の小説を読むもよし。
今年高校生となった僕、
僕の部屋へ『お姉ちゃん』が、ノックもなしに
「ねえ、和揮! ちょっと聞いてよ!」
全く、ようやく難問が解けそうだったのに。今のでやっと閃いた解法がふっとんじゃったよ!
邪魔された苛立ちをわざとらしく
「こんな夜更けに、なんですか?
「もう、和揮ったら、他人行儀ね!」
「他人ですから」
「学校じゃないんだから、いつも通り『お姉ちゃん』でいいのよ」
聞いちゃいねぇよ、この女。
そう、僕のお勉強タイムを台無しにした『お姉ちゃん』、
家が隣同士でひとつ違い。幼稚園から高校までずっと同じ学校とくれば、今でも家族ぐるみでの付き合いが続くのは当然のことだった。
まあ、仲がいいに越したことはないけど、高校二年生にもなる年頃の娘がこんな時間に、若い男の部屋になんの断りもなく突然入って来るのはいかがなものかと思うのだ。
しかし、当の本人は僕のことを『男』ではなく人畜無害な『弟』としか認識していないらしい。本人的には楽な恰好なんだろうけれど、胸の谷間が垣間見えるタンクトップとか、太ももも露わなミニスカートとか、思春期な高一男子にとって刺激的過ぎる服装でも、全く気にしないのはどうなのよ。
それでなくても、さらさらした髪にぱっちり
勝手に無害認定されてもなぁ。
「で、なんの用なのさ、お姉ちゃん」
「あれ? 和揮、ひょっとして怒ってる?」
そりゃあ大事なお勉強タイムを邪魔されたんだから、怒ってるよ。
「あ、今、『男の子の時間』だった?」
なんだよ、『男の子の時間』って。
「ごめんね、気がつかなくて。お姉ちゃん部屋の外で待ってるから、終わったら呼んでね。はい、ティッシュ」
「ちげーよ!」
その恥ずい早合点は止めてくれ。
「男の子がそういうことするのは、健康な証拠なんだから恥ずかしがらなくていいのよ。お姉ちゃんわかってるから」
いや、全然わかってないから!
「で、なんの用なのかな?」
「終わるまで、待ってなくていいの?」
「な・ん・の・用・かな?」
「あとでするの?」
「ちげーったら!」
いや、するかも知れんけど。
「あのね、お姉ちゃん、和揮に相談があるの」
お姉ちゃんは、もふっと僕のベッドに座ると、置いてあったビーズクッションを抱っこしてむにゅむにゅした。
気持ちいいのはわかるけど、お気に入りだから止めて欲しい。
「僕に相談?」
「うん」
また、しょーもないことなんだろうなぁ。
「あ、今、『めんどくせー』って顔したー」
してねーし!……したけど。
「そんな顔しないでよ。一学期の球技大会のバスケで、お姉ちゃんが応援してあげたから、和揮、五回もスリーサイズシュート決められたんじゃない」
それスリーサイズじゃなくてスリーポイントですから!
「和樹が幼稚園でおもらししたとき、ウサさんパンツ貸してあげたのは誰?」
誰だよ! そんなの貸したの!
「だーかーらー、ね? 相談にのって!」
そうやって上目使いのうるるん目で見るの止めてくんない? どきどきするから。
そんなんされたら、イヤとか言えないじゃん。
僕は今まで何度繰り返されたかわからないこのシチュに、これまた何度繰り返したかわからない、あきらめの深いため息を吐きつつ「しょうがねーなー」とひと言愚痴ってから応えた。
「で、なんの相談?」
「えとねぇー」
お姉ちゃんはなぜか照れると、クッションをむにゅっと抱きしめて、僕のベッドにごろんと寝転がった。
あ、パンツ見えた。
普通ならラッキー! とか喜ぶところなんだろうけれど、幼稚園の女児が履いているようなウサさんパンツとか、萎えるわー。つか、それ、さっき言ってたパンツ???
「実はねぇ」
「おぅ」
なんだよ
「お姉ちゃんねぇ」
「ああ」
早く言ってくんねーかなぁ
「思い切ってねぇ」
「うん」
だーかーらー、早く言ってって――
「明日、告白しようと思うの!」
な、なんだってーーーーーッ???
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