第13話:誓約
《誓約》、それは魔法を使う者がしばしば行う一つの手段である。普通の人間が行う誓約は書類などを交わすのみだが、魔法を使う者たちがこれを行うと「《誓約》を破った者に罰を与える効果」をつけることができるのだ。罰の内容は双方の合意で決められる。
今回イリアは「キリルの話が真実でなければ彼の力を奪う」という《誓約》を作り、キリルはそれに合意した。あとは二人の手と手を合わせれば、それだけで《誓約》が発動するのである。
「キリル……」
「なにさ、怖じ気づいた?」
「いや、信じてる。君は嘘をつかないって」
「認めるんだな。お前の一族は罪を犯したって」
「まだわからないけど、君が嘘をついてないことは信じたい。もしも、君たちを閉じ込めるための巡礼だったとしたら……」
「だとしたら?」
「ううん、なんでもない」
その後に続く言葉は容易に想像がつくだろう。だが、それは……。
全てが予想できているであろうロコは二人のやりとりを静観していた。どちらに転んでも、どんな選択をしても構わない、という意思の現れなのだろう。
キリルが黙って手を差し出した。やましいことなど一つもないと確信しきった表情で、だ。イリアは息を大きく吐き出しながらそれに己の手を重ねた。そして、二人で《誓約》に必要な祝詞を読み上げる。
「我が言葉に嘘偽りのないことを《誓約》する」
「嘘偽りあらば、彼より力を奪うことを《誓約》する」
「我らの母なる月の神よ、我らが《誓約》の成立を認めたまえ」
「また、厳かに裁きたまえ」
瞬間、二人を中心に強い光が放たれた。《誓約》の効果だろう。そしてまさに今、それに基づいて裁きを下しているに違いない。
ロコはそれを静観しながらあることを考えていた。
もっとましな嘘をつけ、と鎌をかけてみたがその後の動揺もないところを見ると、キリルの言うことに偽りはないようだった。そして、イリアもキリルの話した内容を知っていたようにはどうしても見えなかったのである。それが示すことは一つ、キリルの言葉が全て真実で、《月慈の民》はキリルの一族をあらぬ疑いをかけて地の国に閉じ込めた、ということになる。
いや、もう一つ……、とロコが心の中で呟いた、その時だった。
「え……、な、なんで……」
そう声を上げたのはキリルだった。彼はその場に膝をついて絶望した表情で自分の手を眺めていた。その目の前には悲しそうな表情のイリアが彼を見つめて立ち尽くしている。
「君のこと、信じていたのに……」
「違う、違うよ、イリア……。俺は何も嘘なんてついてないよ。だって、あの方が……」
「あの方……?」
ふるふると首を振りながらイリアを見上げるキリル。その声に驚きの色が含まれていたことに気づいたイリアが怪訝そうな顔をする。
「あの方は、それが真実だって……。だから俺たちはずっと閉じ込められたって…」
つまりどういうことだ。キリルは騙されていた、ということか?
「キリル、教えて。君が言うあの方って、誰!?」
イリアが語調を強くする。しかし、キリルは呆然とした目で中空を眺めたままぶつぶつと何事か呟き続けている。まるで、こちらのことなど見えていないように……。
と――。
「主殿!此方に強い魔の気配が近づいてきます!」
ヨイが言うや否や、外から何かが爆発するような音が聞こえてきた。ロコは舌打ちをすると、今の爆発で目を覚ましたジズを肩越しに振り返った。
「事情は後で話す。お前はイリアとそいつを守れ!」
ロコはそう言い残してすかさず外へと駆け出していった。
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