第6話:巡礼を邪魔するもの


「どこの手の者だ?」


低い声で聞いても影は答えない。ロコは目を細めると、影のフードをひんむいた。その下から現れた顔の上部は仮面でさらに隠されており、素顔はうかがえない。しかし、その仮面の形状は特徴的なものだった。


真っ黒な仮面、そのちょうど額のところに書かれた魔法陣。これは精神汚染の魔法陣だ、書かれた物を身につけた人物を操れるという代物。ロコの使う傀儡魔法の劣化版といったところか。


「ふん、駒を使うとはどうやら意気地の無いやつのようだな」


仮面を外してみても見たことのない普通の男だった。腕も細くどうみても刃を日常的に振るっているような風体ではない。


「主殿~見てくださ~い」


ヨイが刃となった手を振っている。その先には大きな虫。やはりか、と息をつくロコに対し、洞窟の奥からそれを見ていたジズが驚いた声をあげた。


「ねぇ、それ≪吸血虫≫!?」


「そのようだな」


「大量発生させられてるみたいなんですよね~」


「……させられてる?」


ロコは辺りにもう気配のないことを確認してからジズの元にもどってくる。その後ろには一本角を持つヨイも従っている。


「サクヤが言っていた。『作為的なものを感じる』と」


「どういうことだい?」


「この近辺にしか大量発生してないらしいんですよ~。不思議ですよねぇ」


確かにそれは妙だ。ただの偶然ならいいのだが。しかし、その願望は無惨にも砕け散る。


「その仮面は?」


「精神汚染の魔法陣が施された物だ。だが、これ単独では効力が弱い。補完のため、他の呪物と併用する輩も多い」


「それじゃあこれは……」


「ああ、明らかに俺たちを狙って放たれた物だろうな」


「そんな……、誰が、なんのために」


ロコは少しだけ思案げに瞼をおろす。


「私を消したい人物は大勢いるだろうが、わざわざ私に劣る魔法で対抗するわけあるまい。お前はむしろ生け捕りして賞金を手に入れたい奴らに狙われる分類だろう。あんな殺意、向けられるか?」


「じゃあ……」


「間違いなく、その子でしょうね~」





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