第12話:付与魔導師
さて、長い谷道は丘を包む森に吸い込まれるように続いていく。ヨイ曰く≪物好き≫さんが作った細い道だ。ひたすらに長い上に足場も整えられていない悪路、おおよそ人を歓迎するような様子はない。
あれから三時間ぐらい経っている、が、目の前に見えている丘へ近づいている実感が全く湧かない。
「本っっ当に物好きさんなんですねぇ、まだ着かないんですか?ボク疲れましたー」
ヨイが情けない声で言う。
「奴は人嫌いだから目眩ましの魔法を使っているんだろう。もう着く、辛抱しろ」
「ヘトヘトですぅ」
「人の魔力を食って動いている奴が何を言う」
「冷たぁい。もう少し気遣って…っ」
刹那、グニャリとほんの一瞬景色が歪んだ。ヨイは言葉を途中で飲み込み、キョロキョロと辺りを見回す。特段かわった所は見当たらないが、空気が先ほどまでとは打って変わり清らかに澄んでいるように感じられた。
「いらっしゃい…」
突然の声。ロコは急に現れてそう言った目の前の存在に視線を向けた。そこにいたのは詰襟の服を着て黒髪を団子にまとめた中性的な人物。
「久しぶりだな、サクヤ」
「ロコさん、珍しいですね。何かご用命でも?」
青い目と赤い目が交差する。
「正確にはジズからの頼みだ。≪ツェクーペ≫の布製のフードつきのマントを一着仕立ててほしい」
「納期は?」
「凍月前までにはほしい」
「おや、日差しが弱くなる凍月なのに」
もしや、ジズさんの?とサクヤが首を傾げる。いや、とロコのは首を左右に振った。
「ジズのものではない」
「ほう、それはそれは。余程重度の≪陽光過敏症≫の方がいるようだ」
ふむ、とサクヤがうなずく。
彼はギルド≪白烏≫に所属する魔導師、装身具や衣服を作る仕立て屋として有名だ。 彼の使う魔法は≪付与魔法≫と呼ばれ、戦闘補助魔法の理論を応用したものである。この魔法によって彼の作るものには魔法の加護が宿すことができるのだ。ジズの陽光を遮るマントも、ロコの人形を収納している指輪も彼の作品。
「凍月の陽光さえも過剰に反応するならば、魔法の構成や布地を二重にせねばなりませんね。高いですよ?」
そう、この魔法はどちらかと言えば発明に近く、付与する効果を理論立てて構成を組み込んでいく難しいものだ。計算能力や術式の構成方法など色々な知識を利用せねばならない。そのため、補助魔法の使い手は数多にいるが、付与魔法の使い手はサクヤ以外に聞いたことはない。
「必要経費だ。ジズにつけておけ」
「承知しました、どうぞこちらへ」
「助かる、少し聞きたいこともあるからな」
「どうぞ、ごゆるりと…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます