第5話:好奇
ジズはイリアの頷きを肯定と捉え、嬉しそうに笑った。
「立てる?無理ならおぶろう」
「多分、立てる。歩き回るのは久しぶりだけど」
「大丈夫、ゆっくりでいい…」
そうしてジズが手を差し出したとき――。
ドンドンドン、とドアを叩く音がした。きっとテソロが戻ってきたのだろう。そういえば、鍵閉めてたのを忘れていた。
「なぜ閉まっているのです!!イリア!!」
「あー、ごめんなさい。今開けます」
そう言って鍵を開けた瞬間、ものすごい勢いで飛び込んできたテソロは、そのままイリアに駆け寄った。
「大丈夫か!何もされなかったか!?」
「何もされてないから、少し落ち着いてよ兄さん」
何か盛大な勘違いをされている気がする。ジズは困ったように髪をぐしゃぐしゃと掻いた。すると、テソロがちょっと!と強めの調子をジズに投げかけた。
「何をしようとしていたのです…。コルドの紹介があったから信じて任せたのに!」
そう言いつつ詰め寄ってくるテソロ。整った面差しが怒りに彩られると、ものすごい迫力があるな、とジズは思いながら苦笑する。
「……いや、逆に俺が何したと思ってるの?」
「ふしだらなことでもしようとしたのでしょう!!確かに私の弟は花のように可憐で愛らしいですが、お医者様だからと言って手を出していいわけがないでしょう!」
ダメだこりゃ、とジズは呆れた表情をこしらえる。すると、その表情が気に障ったのかテソロはさらに畳み掛けてくる。
「親馬鹿ならぬ、兄馬鹿ですね……」
タテハが後ろでロコに耳打ちしている。ロコは黙って頷いた。まてまて、聞こえてたらどうするんだ。
「聞いているのですか!!」
「に、兄さん、落ち着いてってば」
イリアの制止も虚しく、このあと小一時間、テソロの勘違いによるジズへの説教は続いたのであった。
「やっと解放されたよ、全く」
「なんか、ごめんなさい」
寝間着から着替えるイリアを手伝いながらジズがひとりごちると、謝罪の言葉が投げかけられた。イリアはなんだか申し訳なさそうにモジモジしながら、ジズを上目遣いに見てくる。
――無意識のあざとさ、こりゃテソロが神経質になるのも納得。
ジズはため息をつき首を左右にふった。
「いや、君は気にしないでいい。むしろ止めなかったロコに文句を言いたい」
そのロコはというと、着替えを手伝わず壁際にある本棚を眺めていた。光を遮断されている部屋だが、ランタンを灯す場所はいくつかある。火の光なら過敏症状は出ないようで、今もぼんやりとした光で部屋を照らしていた。
「部屋の鍵を閉めろ、と言ったのはお前だ。そして閉めたのはタテハ、私には関係がない」
振り向きもせずに淡々と言うのが腹立たしい。ジズはロコをじとっとねめつけた。
「それ嫌味?」
「事実だ」
嫌なやつ、と恨めしそうに言う。そこで視線を感じたジズがイリアを振り向くと、彼は不思議そうな表情で二人を見ていた。
「そういえば、貴方は≪コバルティア≫の出身って言ってたけど、そちらの方も?」
「いや、ロコは違うよ。地上の生まれだ」
ジズが言うとイリアは驚いたように目を見開いてから、感嘆の息を漏らした。
「へぇ、だから不思議な髪の色なんだね」
ロコの栗色の髪は地下暮らしで色素の薄いエルフの目には珍しく映ったらしい。
「地上の人間を見るのは初めてか…」
ロコが青玉の双眸でイリアを見つめると、イリアはコクコクと何度も頷いた。
「うん、地上にいるエルフには会ったことあるけど、貴方みたいな髪のエルフは見たことない」
感動したような眼差しを受け、ロコは少し困惑したように髪を指に絡めた。
「エルフは遺伝の関係で元々色素が薄いからな。……人間でこの色はそれほど珍しくない。むしろお前やジズの方がずっと珍しいぞ」
「そうなんだ。……地上って不思議な所だね、僕らの方が珍しいなんて」
何だか嬉しそうに笑いながら、イリアはベッドから立ち上がった。
「ちょっ、いきなり立ち上がったら危ないって」
「大丈夫だよ。不思議、二人が来てから何だか体が軽いんだ。こんなに喋ったのも久しぶり、とても楽しい」
心配するジズに微笑みかけるイリア。ジズは苦笑しながら頷いた。
「じゃあ、くれぐれも無理はせずに」
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