第1話 : 蜘蛛の刺青をもつ青年



太陽が苦手だ。


あの強い光が目に、肌に、全身に、鋭く突き刺さってくる。人の体は太陽の光を浴びることで、様々な物質を生み出して健康を維持すると言うが、彼にその常識は当てはまらなかった。


長らく光の届かない地下で生き続けてきた人間にとって太陽は日常のものではない。そう、この世に生を受けてから数十年間、地上の環境を知らずに生きてきた地下都市の青年-ジズ=メルセナリオにとって、太陽の光はむしろ体に異常をきたすものとなっていた。


太陽は無慈悲に輝き、彼の身はその光を拒絶する。ある時は呼吸が苦しく、ある時は頭が割れそうな激しい痛みに襲われ、ある時は皮膚が焼かれたように熱をもつ。日々異なる症状は肉体だけでなく精神をもさいなむ。


それでも彼は生きるために、太陽が輝く地上に住むことを決めた。彼の―彼らの命を奪う≪病≫を越えるために。




ジズはゆっくりとベッドから身を起こし、窓にかかったカーテンを閉じた。そうして光から逃げるように奥にあるもう一つの部屋へと向かう。小さなランタンにマッチで火をつけて、暗い部屋に明かりを灯すと、ほとんど家具のない殺風景な部屋の真ん中にジズの姿だけがぼんやりと浮かび上がった。


日焼けを知らない白磁の肌に、灰白色の髪、髪と同色のまつげに縁取られた目は金色に輝いていた。何よりも印象的なのは右目の上から右の鎖骨の辺りまで続く刺青。額にある蜘蛛の巣紋様から垂れる一筋の糸が頬を涙のごとく伝い、鎖骨の辺りに降り立つ蜘蛛へと繋がっていた。


ジズは部屋にある机に置いてあるキセルをとると、近くにある小箱の中から取り出した煎って乾燥させた葉をキセルの先につめて火をつけた。痛覚を麻痺させることができるこの香草は彼にとっての生命線。依存性が強いことから麻薬としても知られているが、彼は生きるためにこれを手離すことはできなかった。


そこまでして彼が地上に留まっていることには訳がある。冒頭にも書いたように、生きるため、なのだが、そのためにある植物を彼はずっと探していた。


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