Cパートは本編より長く

一繋

1

 魔王を倒したパーティーに「狩人」として名を連ねた英雄は一人、南方の故郷へ戻る道中で途方に暮れていた。


 どこに行っても胸の勲章によって、最上級のもてなしが約束されている。


 その町の最高の宿で、出来得る限りの料理と酒が振る舞われる。望んでもいない権力者の来訪と、頼んでもいない夜伽が訪れ、気が休まる間もなく滞在時間は過ぎていく。


 少し前まで日銭を稼ぎ、雨風を凌ぐだけの安宿でノミやシラミと同衾していた身分からすれば、奇跡の飛躍といえるだろう。


 しかし、この道程に故郷へ錦を飾るという明確な意思があるわけでもない。


 仲間たちが進むべき道を見つけていくなかで、半ば飛び出すように凱旋の旅から離れてしまったのだ。


 勇者は長い戦いの日々が終わった途端に、また新たな戦いに巻き込まれた。自国に勇者の血筋を入れようとする、婚約戦争とでもいうべき政争だ。


 元騎士である剣士と美男子の弓兵も似たようなもので、倍率の高い勇者を狙うよりも可能性があると睨まれ、各国からの縁談が絶えない。


 魔法使いは大国の長よりも影響力を持つと言われる魔術師協会の権力闘争に喜々として飛び込んでいき、僧侶もいつの間にか大司教と呼ばれて一大権力を手にした。


 船乗りは大船団を組織し、商人は新たなギルドを立ち上げた。


 狩人だけが、何をするでもない。


 もともとからして、勇者たちがある洞穴の探索を行う際に声をかけられた、名もない狩人だ。武勲を立てたかったわけでも、まして世界を平和にしたいという大望を抱いていたわけでもない。


 剣で剣士に勝てたためしがないし、弓の腕なら弓兵にも並ぶと自負しているが、弓兵は飛び道具ならなんでもござれの遠距離戦のエキスパートだ。


 魔術はかじった程度で、魔法使いや僧侶とは比ぶべくもない。


 戦いの専門家ではない船乗りと商人も身ひとつで世界を渡っていただけあり、船乗りの豪腕は群を抜くもので、商人の暗器術を初見で防げるものはほとんどいない。


 そんなスペシャリストと比べると、狩人は自分の腕をある程度は認めつつも、どこか劣等感を抱いてしまう。


 自分の技は生きるためのものであって、到達点がなければ、成しえたい大望の糧でもない。


「帰ってなにしよう」


 狩人から狩りを取ったら「人」でしかないけれど、もう狩りをしなくとも食べるに困らなくなってしまった。


 やりたいことは特にない。


 結局、他のみんなとの違いはそこなのだろう。パーティーは世界平和という共通の目的を持ちつつも、各々が大望を抱いていた。生きるために技術を磨き、野を駆けていた狩人とは違う。

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