鹿の角の風船~エゾシカ編

アほリ

1#泣いた雄エゾシカ

 この北の大地からエゾシカの天敵、エゾオオカミを殲滅されて久しい。


 人間の都合によって生態系のバランスを破壊されたこの大地で、エゾシカ達はどんどん増え続け、やがて人間の生活に暗い影を落としていった。




 人里侵入然り。


 食害然り。




 人間達と悶着する度にエゾシカ達は、人間のハンター達に頭数のバランスを安定させるの瞑目で次々と射殺され間引きされていった。


 ある者は解体され鹿肉に利用され、またある者は夥しい屍が地面を埋め尽くした。

 



 あるものは『害獣駆除』と言い、

 あるものは『乱獲』と呼んだ。


 しかし、『害獣駆除』の方が一般的な認識になっていた。


 これは『必然』か『暴挙』か・・・




 そこに、一頭の雄エゾシカがいた。


 「死んだ・・・みんな死んじまった・・・!!」


 目は止めどない嘆きの涙で真っ赤に腫れ、パンパンに膨らませた鼻の孔を鉛色の大空に突き上げ、口を大きく開け、大声で泣きわめいていた。


 無惨に射殺され、悔しそうに目をむいて死んだ仲間に次々と顔を押しあて、激しく嗚咽した。


 彼は、夥しい数仲間をつれて回っていたの大柄なエゾシカの雄。


 名前をニイムと呼んだ。


 ニイムは涙を流しながら、息絶えた仲間達の口元に自らの口をあてがって、




 ぷうーー!!ぷうーー!!




 と、ありったけの吐息を吹き込んで何とか呼吸を取り戻させようとした。




 ぜえ・・・ぜえ・・・




 「ダメだあーーーーーーーーーー!!

 ダメだあーーーーーーーーーー!!

 全部死んじゃったあーーーーーーーーーー!!

 ごめんよおおおおおおおおおお!!

 みんな守りきれなかったあああああーーーーーーーーーー!!」


 雄エゾシカのニイムは、このエゾシカ達のリーダーだったのだ。


 ニイムは、仲間の亡骸に顔をうずめて激しく泣きわめいた。


 「うわああああああああああーーーーーーーーーーーーー!!」


 ニイムは、涙が枯れるまで泣きはらした。


 「うわあああああーーーーーーーーーー!!」




 ・・・そうだ・・・




 ・・・この角・・・




 ・・・こんなに立派すぎる角のせいだ・・・!!




 ・・・立派すぎる角のせいで、俺は他の仲間達にまつりあげられて・・・!!




 ・・・ま、リーダー候補との大喧嘩でもこの角がものをいって、連戦連勝だったが、殆ど俺の有り余る力なのに・・・




 ・・・ええい!こんな角なんて・・・!!




 雄エゾシカのニイムは、この世とは思えない位の怒りの形相で頭上の立派な角を睨み付けた。




 ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!




 ニイムは地面に角をぶつけた。




 角はびくともしない。




 今度は、立派な木に突進して角を折ろうとした。




 ガツン!!




 「うわあっ!」


 弾かれたニイムは尻餅をついて揉んどりうった。




 ドサッ!!



 「いててて・・・もう一度!!」


 ガツン!!


 ドサッ!!


 ガツン!!


 ドサッ!!




 「じ、地震?!な、何してるんじぁい?ほーほー!!」


 「ぎょっ!」


 木の真上で野太い声がしたので、雄エゾシカのニイムが見上げると、木の枝に一羽の大きなエゾシマフクロウが止まっていた。


 「そんなに自暴自棄になりなさんな。『なってしまったこと』は『しょうがない』。

 次、頑張ればいいじゃん。

 お前さんの大事な角をじゃないか。大切に扱いなさいな。ほーほー。」


 「あーっ!シマフクロウさーん!あなたの後ろ・・・ちょっと!」


 「風船?」


 

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