第20話

 壁を埋めるように兵士が立つ異色な法廷。エリックが中央に立たされる。数メートル先には高い机があり、上の方には帝王マティアスが立っていた。帝王の机の上にはガベルが用意されていた。


 マティアス=レンタール=ベルフベック、五十五歳。人間界にあるロガード帝国を束ねる帝王である。人望が厚く、魔王とも面識が深い。しかしここ数年は反帝王派の勢いを上手く制御できていないため、民衆からの不満も出始めていた。


 帝王の左右には裁判官。右には男性、左には女性。エリックの右側には検事が三人立っていた。全員が険しい目つきをしていた。検事の横にはエリックを捕まえた帝国兵がいた。


「被告人、バルタザール=アマデウス=クロンクヴィストの帝王裁判を始める」


 男性の裁判官がそう言った。それが号令の代わりなのか、帝王や裁判官、検事たち、兵士が席に座った。


「では、魔王バルタザール=アマデウス=クロンクヴィストよ。なにか申し開きはあるか?」


 重く大きな手錠をされているため、頭を掻くこともできなかった。仕方がないので手錠を人差し指でカリカリと引っ掻いた。


「どうして俺がバルタザールだと思ったのか。俺を捕まえたヤツに訊きたい」


 兵士が「ふふん」と鼻をならして立ち上がった。


「まずエリック=バーネットという名前は、バルタザールが魔王になる前に使っていた本名です。なによりもエリック=バーネットという中年が魔王城から逃げていくのを何人もの勇者が見ています。一流魔法使いによる魔力鑑定の結果も魔王だと出ています。七天将のドルキアス、ユーフィ、ラマンドの三人が一緒にいるところからも、アナタが魔王だと裏付けるには充分です」

「七天将三人というのも魔力鑑定の結果、というわけか」

「ええ、そういうことです」

「俺を追って来たのは魔力鑑定が出る前だよな? 鑑定をしたのは帝都に来てからだ」

「アナタを追ったのは、私の鼻が魔族の臭いを感知したからです。魔族感知Bなので。二つ分の魔族の臭いがあったのに、アナタは小型犬を指して「コイツが魔獣だから」と言いました。だからおかしいなと。嘘をつく理由がどこかにあるのでは、と考えました。それと出身がエスカラードと言っていましたが、エスカラード特有の訛がありませんでした」

「それなのにすぐには追いかけて来なかったわけか」

「すぐに追い駆けたさ。リオノーラという少女を助けたところも、その少女に食事をさせ、身なりを整えさせたことも知っている。人身売買の商人たちと戦ったことも知っているし、その写真もあり、録音もさせてもらった」

「じゃあなにか? お前は危険な目に遭いそうな子供たちや、その子どもたちを売買しようとしてるヤツらを見て見ぬふりしてきたってのか?」

「野放しってわけではありません。アナタが解決するであろう、と思っていたからです。魔王ならばそれくらいできると思ったので」

「口でならなんとでも言えるがな」

「私は帝国に命を捧げる者である。もしもアナタが命を失いそうになれば、当然アナタも子どもたちも助けるつもりだった」

「ああそうかい。裁判官、もういいよ。俺から言うことはなにもない」

「そうですか。ダレット大尉、着席お願いします」


 兵士は舌打ちし、納得できないといった顔で座った。そこで初めてダレットという名前を耳にし、エリックもまた不機嫌になった。。


「それでは検事側、魔王バルタザールに対しての尋問をお願いします。被告人は「はい」か「いいえ」のみで答えてください」

「わかった」


 そこからは検事からの問いかけに答えるだけだった。しかし、あまり意味がないこともわかっていた。


「たくさんの人を殺しましたか?」

「いいえ」

「人間のことを憎んでいますか?」

「いいえ」

「従者、またはその他魔族を虐待していましたか?」

「いいえ」

「悪魔発射リボルバーでたくさんの魔族の魔力を搾取しましたか?」

「いいえ」

「生死選定グローブでたくさんの命を奪いましたか?」

「いいえ」

「助けた子どもたちを競売にかけるつもりでしたか?」

「いいえ」

「人身売買のルートを得るためにディーラーやバイヤーに手を上げましたか?」

「いいえ」


 このような、悪意ある質問が延々と繰り返された。


 そして、最後の質問がやってきた。


「アナタが魔王就任時、前魔王を魔族の前で殺しましたか?」

「……はい」


 若干詰まりながらも正直に答えた。


 前魔王、というよりも今までの魔王は力で全てを制圧しようとしてきた。人間も殺した。魔族も殺した。思い通りにならなければ殺した。


 そんな魔界に嫌気がさして、エリックは魔王をその場で殺したのだ。その時のことは、今でもよく覚えている。

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