第7話

 小部屋から出ると、子どもたちが教会の中に集まっていた。


「みんな集まってますね。それでは、明日と明後日、私の代わりに来てくれるエリックさんです。ご迷惑をかけないように」


 子どもたちは「はーい!」と大きな声で返事をした。


「んじゃじいさん、俺は失礼するぜ」

「ええ、お気をつけてお帰りください」


 フィーノと子どもたちに見送られて孤児院をあとにした。そして美容室に一直線に向かった。


 美容室に入ると、端の方のイスにリオノーラが座っていた。ポツンと、ただ一人で、無表情、無感情のまま座っていた。


「どうした、そんな顔して」


 コートに手を突っ込んだまま、エリックがそう言った。


「エリック……!」


 イスから飛び降り、勢いよく抱きついてきた。エリックの巨体が倒れることはなかったが、ドンっとかなりいい音がした。


「よしよし、寂しかったのか」


 ポケットから手を出してリオノーラを抱きかかえる。


「美容師さん、すまなかったな。急な子守を頼んじまって」

「いえいえ大丈夫ですよ。それに前金を倍以上もらってしまいましたから」


 美容師の女性が頬に手を当てて微笑んだ。


「こっちの方もありがとさん。うちの姫さんがべっぴんになったぜ。機会がありゃまた使わせてもらう」

「どうぞ、ご贔屓に」


 そんな気さくなやり取りをしてから美容室を出た。


「髪の毛、綺麗にしてもらったな」

「うん、いい匂い、する」

「花の匂いだ。金木犀か」

「キンモクセイ?」

「ああそうだ。今度見せてやろう。綺麗な花だぞ」

「わーい!」

「そうだ、明日は孤児院に泊まる。他のガキ共と仲良くな」

「うん、リオ、ちゃんと仲良くする!」

「偉いぞ」


 頭を優しく撫でた。


 食事を取り、リオノーラと散歩をし、風呂に入り、リオノーラはそのまま寝てしまった。


「まだまだ子供だな」

「六歳ですよ? 魔王さまみたいな大男にぶん回されたら遊び疲れますよ」

「高い高いしてジャイアントスイングしただけだ」

「うーん、大の男でもキツイかと」

「リオが笑ってたからいいんだよ。それより、他の七天将からの連絡はないのか?」

「少しずつ魔力が戻ってきているので魔導念話も使えるようになりました。一応連絡は取れましたよ。ご子息も七天将も全員無事です。一人を除いては、新天地で上手くやれてるみたいですよ。サリア様とクラウス様は手に職持っていましたし、ギュスターヴ様はそもそも軍人ですから」

「となると、やっぱりエルキナは上手くやれてないか」

「ひと所にとどまろうとしないようですね」

「今はどこに? エスカラードで野宿、とゼレットが言ってました」

「ゼレットには苦労かけるな。七天将の中では一番若いっつーのに」

「若いもの同士だから上手くやれてるのかもしれませんね」

「なんだよその含みのある言い方。いくら七天将でも娘をやるとは言ってないぞ」

「なんでそういう話になるんですか! それに今のゼレットはネズミですよ? 間違いなんて起こりませんから」

「それもそうだったな。しかし、エスカラードか」

「エルキナ様もいろいろと思うところがあるのでしょう。我々がエスカラードを目指すというのも間違ってはいなかったようですね」

「そうだな。クエストが終わったら一直線にエスカラードを目指すか。どれくらいかかると思う?」

「馬かドラゴンなら二日あれば着くかと」

「そんな金はねーんだよなぁ……」

「人力ならその倍、といったところでしょう。どちらにせよ一週間はかかりませんよ」

「なんとか徒歩で行くしかねーな」

「そうですね。でも、どちらかと言えば、ワタクシは孤児院の方が心配ですね」

「なんだ? 俺がガキ共を食っちまうんじゃねーかとか言い出すんじゃあるめーな?」

「どういう発想でそこまで飛躍できるんですか! そんなこと思いませんよ!」

「じゃあなんだよ。なにが心配なんだ」

「ちょっと異質ですよ、あそこは。ハーフのみの孤児院とか聞いたことありませんし」

「お前もそこに気付いたか。まあそうだな、時間が経てばわかることもある」

「そう、でしょうか……」

「心配すんな。今日はもう寝よう。明日早いからな」

「そうですね。ではおやすみなさい、魔王さま」

「おやすみ、ドルキアス」


 ドルキアスの頭を撫でると、ユーフィとラマンドがじーっとエリックを見ていた


「おやすみ、ユーフィ、ラマンド」


 二人の頭を撫でてやると、二人は満足したように寝床に戻っていった。


 やれやれ、と思いながらも布団に入った。しかし悪い気はしなかった。

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