【どエルフさん外伝】俺の名はブルー・ディスティニー・ヨシヲ

kattern

第1話 俺の名前を言ってみろ

 荒野を男が歩いていた。


 青い――RGB値で0,0,255くらいブルーな――マントを身にまとったその男。


 その腰にはショートソード。

 だが、マントの下にはレザーメイルしか着こんでいない。


 戦士にしてはやや軽装である。

 真新しく黒いブーツが、荒野に降り注ぐ太陽光を受けて光る。


 見るからに冒険者。

 ショッキングにど青いマントは吹きすさぶ荒野によく映えていた。


 歳は二十後半から三十前半だろうか。


 それにしても。


 ――その青(0,0,255)は荒野によく目立つ。


「待ちな兄ちゃん」


 荒野をねぐらにしている野盗どもが、男に声をかけたのは当然のことだった。


 野盗の呼びかけに、男は、ふっ、と呟いてその足を止める。


 いったいどこに潜んでいたのか。

 ぞろりぞろりと岩陰や稜線の向こう、あるいは僅かに生い茂った草木の陰から、青い男を囲むように野盗たちは集まってきた。


 手にしているのはナイフ。掌大のなんでもない一品だ。

 しかしそれは、この地を行く人々の命を、多く奪ってきたことだろう。


 手入れをさぼったか、あるいは分からぬほどに粗野なのか。

 刃先は脂と唾液でぬめり光っていた。


 ギラついた眼をしたリーダー格と思われる男が、青い男の背に声を浴びせる。


「ここは俺たちの縄張りだ。悪いが、そのマントも命も、まとめて貰い受けるぜ」


「――それは困るな。この青いマントは、俺の魂なんだ」


「魂、だと?」


「青い運命――ブルー・ディスティニーが俺を呼んでいるんだ」


 なんだいそれは、と、げたげたと腹を抱えて笑い声を上げる野盗たち。

 中には、その場に前のめりに倒れこむものまであった。


 何がブルー・ディスティニーだ。

 厨二病なら異世界でやれとばかりの勢いである。


 しかし、青い男は、彼らの嘲笑に顔色一つ変えることはない。

 毅然として彼はそこに立ち尽くしていた。


 その様子に一人、野盗のリーダーだけが唾を飲んだ。

 超然とした青い男のその様子に、何かを彼は感じたのだ。


 それでも、彼は野盗のリーダーであった。

 引き連れている手下の手前もあった、ここで引き下がることはできない。


「おとなしくすれば、命だけはとらないでやる。奴隷として売られた先でどうなるかは知らないがな」


「フッ。青い運命以外に、俺を縛ることはできないさ」


「なに?」


 青い男の言葉に、嘲笑の笑いが飛んだ。

 そしてそれを皮切りにして、荒野の狼たちの目が紅く血走った。


「さっきから気取りやがって何さまだてめえ」


「こんな荒野の只中を一人で歩くなんて、命知らずかよっぽどの世間知らずだな」


「せいぜいあの世で後悔するんだな」


 こうなってしまっては、もう、衝突は避けられない。

 総勢十名――加えて、野盗のリーダーを加えて十一名が、ナイフを手にして腰を落として構えた。


 それらをぐるりと見回して――。


「やれやれ、どうやらお前たちは、俺の名前を知らないと見える」


 青い男は、剣を握るでもなく、隠しナイフを投げつけるでもなく、スライング土下座で許しを請うでもなく――。


 手を天高くかざした。


 名前が、なんだというのだ。

 そう、野盗の一人が言った時である。


「【電マ】!!」


【魔法 電マ: 電気マッサージを略した魔法。深い意味はない。その微弱な振動により身体の芯を揺さぶられたら、男も女も気持ちよくって失神して倒れてしまうといいう、ラブとピースに満ちた必殺技である。深い意味はない】


 男の手から発せられたいかずちが野盗たちの局部を襲う。


「はぅん!!」


「あひぃ!!」


「あぁん!!」


「おぁふ!!」


 野に潜んで幾数日。

 その間、刺激のない禁欲生活を送っている野盗たちにとって、それはあんまりにも残酷な刺激だった。


 たちまちその場で昇天した彼らは、ナイフを話すとその場に前のめりに倒れる。


 鼻につく、栗の花の香りが、砂埃と共にその地に舞った。


「な、なんだお前は……。いったい、何者なんだ……」


「ふっ、それなら、先ほど名乗った筈だ。俺は青き運命――ブルー・ディスティニーに導かれし者。そして、この世界を救い、百人の妻に囲まれてチーハーレムな運命をその手に掴むことを約束された男」


 そう、懸命な読者諸君は、この男のことを知っている!!


 この残念な厨二病患者を!!


 けれども、魔法技能8(雷限定)を知っている!!


 彼こそは、自分が異世界から転生してきた勇者だと信じ、その雷魔法により、ラブとピースあふるるチーハーレム伝説を築き上げんとする男。


「俺の名はブルー・ディスティニー・ヨシヲ!! その名、覚えておくがいい!!」


「よ、ヨシヲ……」


「違う!! ブルー・ディスティニー・ヨシヲ、だ!!」


 譲れない一線を訂正すると、ヨシヲはのっぴきらなくなって、動けなくなった野盗たちの脇を抜けて荒野を進んだ。


 目指すは、中央大陸西岸部にある西の王国――。


「次の運命が俺を呼んでいるのだ。邪魔をするな有象無象ども」


 まったくもってなんの根拠もない。

 だというのに少しの迷いもない。


 彼は今、西の王国を目指していた。

 そこに自分の求める、運命――ブルー・ディスティニーがあると信じて。


「待っていろ、俺の運命――運命の女ディスティニー・ガールたち!!」


 厨二病って、ほんとうに性質タチが悪いですね。


 というわけで、愛と勇気と電マと青い運命ブルー・ディスティニーに操られて、どエルフさんスピンオフ小説、『【どエルフさん外伝】俺の名はブルー・ディスティニー・ヨシヲ』、ここに開幕です。


 ぶっちゃけ、本編書くのでもかっつかっつなのに、書けるのか、ぼかぁ、心配だなぁ。本当に心配だ。

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