ジングルベルは幸せの鐘

 🔔宮中後宮 月子さまへ 担当:管一

 いよいよパーティー当日だ。まずは俺担当の月子さま。今や帝のお妃さまというお立場なので、今回は俺が手紙の配達をするのみである。

「今回だけこっそり届けてくんない? 管一ならデキるよな?」

 妙な期待をされて文を受け取る。


~ いまでもね 胸ときめくよ ジュリエット

  月も星も キミに捧げる ~


 はぁぁぁぁ。あの人、わかってんのかな。また明石に行きたいのかよ。

 深紅の薔薇に文が結びつけてある。


「これ貸してあげるから」

 ってグラサンとマスクを渡されてもね、かえって目立つだろ、こんなカッコ。

 俺がまるで密会するみたいにだいやちゃんに会いに行って文を預けてきた。ん? カノジョ何人いるのかって? いいだろ、別にみんな好きなんだし。それに人数だって殿より少ない。そこは気使ってる。


 ふぅぅ、配達完了。マスコミにはバレてないな。さあここからは源ちゃんズ全員で出動だ。最初は末子さまへの贈り物配達。管二サンの担当だ。あーゆーれでぃ? 盛り上げていこうぜっ!



 🔔常陸宮邸 末子さまへ 担当:管二

 贈り物を配る支度を整える。殿の愛車の跳ね馬牛車だが、今日これをひくのは牛ではない。2頭の角の立派な大鹿だ。首輪に「書(かく)」「読(よむ)」と名前がついている。鼻が赤いのがどなたかに似ていなくもない。妙な親近感を感じる。なにはともあれ、今日はこれに殿が乗って贈り物を届けて周る。

 もちろん、俺たち源ちゃんズがお供する。末子さまのお屋敷に到着。殿が贈り物と末摘花の花束を抱えてお屋敷の中へと入られる。俺たちは簀子縁でスタンバイ。練習の成果の初披露だ。


~ からころも いついつまでも からころも

  純粋なキミ 俺敵わない ~


 そんな殿のお歌にあわせてBGMを演奏する。神来鐘ジングルベルの本番だ。曲目は『赤鼻のトナカイ』またぴったりの曲があったもんだ。まったくもって……愉快なもんだな。


 未子さまから殿への贈り物はまた手作りのようだ。以前の贈り物は俺たちは足ふきマットかと思い簀子縁に敷こうとしたらどうやらそれは首に巻く防寒具だったようで、お優しい殿はそれをそっと塗籠ウォークインクローゼットに仕舞われた。今回はしきりと殿に羽織らせようとなさってる。はたから見てもなかなかの重量感。殿は何かトレーニングでもさせられるのだろうか。


 次は殿のお子さま、夕さまのところだ。弦三郎、出番だぞ、しっかりな。



 🔔三条大宮邸 夕さまへ 担当:弦三郎

 末子さまのお屋敷を出て夕さまの元へと向かう。夕さまのおばあさまである大宮さまのお屋敷だ。夕さまのお部屋にはすでに贈り物の山だ。以前の宮中人気ナンバーワンは殿だったが、いまや完全に夕さまだ。贈り物は牛車に何台分か届いたのだと夕さま付きのSKJ三人官女が言っていた。

 殿の贈り物は扇子だ。かつて殿がお父上の帝から譲られた扇子で帝の御直筆で歌が書かれている。


~ しろかねも くがねも玉も 何せむに

  まされる宝 子にしかめやも ~

(子供以上の宝なんてないんだ。

 金より銀より宝石以上に君が宝物だ)


 有名な万葉集の歌である。子を想う親の気持ちを詠ったこの歌を以前帝が扇子にお書きになり殿に贈られた。今回その扇子を夕さまに贈られる。何か殿の大切にされているものを夕さまに譲られてはどうかと提案したら、殿がこの扇子をお選びになった。父から息子へ。またその息子へ。子を想う親の気持ちはいつの世も変わらない。いつの日かまた夕さまもお子さまに……。


 普段表にお出しにならない殿のお子さまへの愛情。うっかり感動して僕たち全員の手が止まっていた。管三さんや管二さんなんか涙ぐんでいる。気を取り直して演奏だ。曲目は『きよしこのよる』

 清らかなジングルベル神来鐘。今日はいい夜Holly Nightになりそうだ。


 次は花子さまのお屋敷へ。僕はトナカイ牛車の手綱を弦二郎に渡す。



 🔔花の里にて 花子さまへ 担当:弦二郎

 花降るお屋敷には実は前もって仕掛けの準備をしておいた。殿がパチンと指を鳴らすのを合図にスイッチを入れる。庭の木々に灯りがともされる。ライトアップだ。


「まぁぁ。綺麗ね」

 お部屋の際まで殿にエスコートされていらした花子さまが拍手をなさる。

「キミのその顔が見たいんだ」

 そういう殿も穏やかな笑みをたたえていらっしゃる。花子さまがお作りになったアロマキャンドルも簀子縁や室内を優しく照らす。


~ いままでも これからもずっと キミとなら

  ココロ癒され 温かな夜 ~


 BGMは『G線上のアリア』。ジングルベル神来鐘は演者も温かい気持ちにしてくれる。殿の癒しの里は俺たちまで癒してくれる。ライトアップとキャンドルの温かくも優しい贈り物。でもお互いがお互いのことを大事に想っている気持ちこそがこのふたりの贈り物なんじゃないかと思えてくる。


「これ、いつものお土産ね。お家に着くまで開けちゃダメよ」

「わかってる。わかってる。いつもありがとね。花ちゃん」

 帰り際にいただいた花子さまからの玉手箱を殿はなんのためらいもなく牛車の中で開けられる。


 ぱぁぁぁん!


 破裂音とともに少量の煙が牛車の外に漏れてくる。何事かと中を伺う。


 そこには頭から色とりどりの紙テープをかぶり、鳩が豆鉄砲を食らったような殿がいらした。玉手箱から飛び出してきたらしい。

 これは……、絶対開けるなと言われたら開けるであろう殿へのちょっとしたいたずらなのだろうか。それともお祝いの飾り物なのだろうか。悩むところであるが、殿自身は「花ちゃんってホント可愛い」と悩み要素ゼロで玉手箱を撫でていらっしゃる。


 さて、贈り物を配る旅も終盤だ。明子さまと姫子さまのお屋敷に向かう。管三さんと弦四郎の番だ。弦四郎、頑張れよ。



 🔔京郊外別荘にて 明子さま、姫子さまへ 担当:管三

 明子さま、姫子さまがお待ちになっていらっしゃるお宅へと向かう。うちの子供達も待っているだろう。明子さまにはハープ、姫子さまには小型のピアノを贈られた。それに合わせて私は子供達に鈴とタンバリンとトライアングルを贈った。みんなで『ジングルベル』を演奏する。ほたて達SKJもコーラスに入ってくれるので『Joyfull Joyfull』はゴスペル風にアレンジする。素晴らしいファミリーコンサートだ。皆の笑顔がはじける。


~ キミたちが 俺にくれた 贈り物

  親子で奏でる 幸せメロディ ~


 子供達は姫子さまときゃっきゃ、きゃっきゃと楽器で遊んでいる。


 殿は明子さまとつかの間のおふたりの時間だ。


~ 奏でよう 俺たちふたり 愛の歌

  いついつまでも ラブバラードを ~


 御簾を隔てたこちら側で『ホワイトクリスマス』を演奏する。ジングルベル神来鐘もジャズアレンジだ。おふたりはホットワインで乾杯をなさる。

 弦一郎がとっておきの演出をした。弦四郎に本職のコントラバスでソロを担当させたのだ。殿や明子さまに向けての演奏には違いないのだが、側で控えているであろう弦四郎の片想いの相手あさりちゃんに弦四郎のカッコいい所を見せられる。


 外での贈り物の配達はこれで終わりになる。最後は二条院ホームでお待ちになっていらっしゃる紫子さまだ。弦一郎のタイムスケジュールどおりだ。


〜 わかったわ アナタに悪気 ないことは

  今日はありがと よろしく 〜

〜 愛の歌 ホントはひとりに 捧げるの

  でももういいの みんなの源ちゃんアナタ 〜


 明子さまからの返歌は今日は手短に終わったようだ。明子さま、悟りの境地だろうか。

 しゃんしゃんしゃんと軽やかな鈴の音がする。「書」と「読」に鈴がついている。姫子さまからの贈り物だろうか。京の都を鈴を鳴らしながら大鹿トナカイが曳く車が駆けてゆく。大切な方々に笑顔と幸せを配りながら。さあ、フィナーレだな、弦一郎。



 🔔二条院にて 紫子さまへ 担当:弦一郎

 今日の最終目的地、本拠地二条院に戻ってきた。「書」と「読」に餌と水を与えて休ませてやる。跳ね馬牛車から舞い降りた殿が紫子さまのお部屋へと向かわれる。紅薄様と言われる赤系の配色の直衣姿だ。男の俺が見ても惚れ惚れするカッコよさだ。お部屋には御膳ディナーが用意されていた。紫子さまがシェフの膳介に作らせたフレンチとシャンパンだ。


「キミの心づくしには感激だよ」

 シャンパンで乾杯をする殿と紫子さま。

お疲れでしょう?」

 鈴のような綺麗な紫子さまの声だ。若干お言葉にトゲがあったか? いや気のせいだろう。

 

『もろびとこぞりて』など讃美歌をBGMに演奏する。このジングルベル新しい楽器、なかなかいい雰囲気だ。みんなで合宿した成果があった。星が降ってくるような清らかな音色だ。ディナーも終盤になって、甘介の新作の甘菓子ケーキが出される。殿が膝まづいて贈り物を紫子さまに差し出される。


~ アイラブユー マイプリンセス 紫ちゃん

  星降る聖夜 キミに誓う愛 ~


 オンリーワンの奥さまや恋人に贈る殿のお気持ち。まあ若干数が多いような気がしないでもないが、気のせいにしておこう。気のせいにしておかなければ。気のせいにしておくんだ。゛気のせい゛変格活用はこのへんにしておこう。そうだ、しておかなければ。しておくんだ。しておけば。しておいたとき……。


「降る星のごとき愛ね」

 んん? それは星のように輝かしい愛ということでいいんだろうか。それとも殿の愛ということなんだろうか。どっちだ? 紫子さまのお言葉はいつもがあるような気がする。気のせいか? 気のせいだよな。ああまた゛気のせい゛変格活用が……。きっと殿は前者一択だ。だったら、全部気のせいだ。そうだ、そうなんだ。ええい、そうしておくんだ。


「さあ、ここからはみんなもパーティーに参加して。弦一郎たちはとっておきのパフォーマンスを見せてくれるんだろ?」

 殿の呼びかけで几帳や御簾の奥に控えていた従者やSKJたちも姿を現す。南庭に面した母屋リビングで殿と紫子さまが寄り添いながらこちらを見ていらっしゃる。今晩のフィナーレだ。


 庭に作った特設ステージに俺たち源ちゃんズはスタンバイする。管三さんの提案で急遽樅木もみのきを飾り付けした。庭で一番高いその木が煌く。テーブルにはいくつもの鐘。神来鐘ジングルベル組鐘ハンドベルとも言うらしい。特訓の成果の発表だ。曲目は『Happy Christmas』と『歓喜の歌』。ここではメロディだけでなくダンスも披露する。なんだかものすごい充実感と達成感だ。メンバーの表情も生き生きしている。


 殿も紫子さまが簀子縁バルコニーまで出てきてくださる。SKJのみんなも楽しそうにタンバリンを鳴らしてくれている。奥さんのうめも娘のこうめももちろん笑顔だ。


 雪がちらちらと舞ってきた。空からの贈り物といったところだろうか。


 こちらから空に放つは打ち上げ花火。冬空に贈る光の華。


 殿も紫子さまも楽しんでいただけているようだ。お気に召しただろうか。

 こんな楽しい時間を仲間達と共有できるなんて。

 殿の「大切な方に贈り物を届ける」というこのイベントは目に見えない、カタチのないものも贈り合っているようだ。手伝いをした俺たちも何か大切なものをもらったようである。


「素晴らしいステージだったよ。キミ達は最高だよ」

 殿からの最高のお言葉をいただく。

「ここからはキミ達も大切な人と過ごすといいよ」

 これが殿の人柄だ。殿は貴人だとか従者だとかの区別なく接してくれる。


「じゃあパーティーお開きの前にみんなで歌おうぜ!」

 こんなときの管一のハイテンションは有難い。

「せ――のっ!」



 ジングルベル星夜の鐘を鳴らそう!



 雪がふる

 白い白い世界

 こんな日は

 大好きなキミを思い出すんだ


 大好きだよ

 これからも

 いつまでも


 星がふる

 青い青い世界

 こんな夜は

 大好きなキミを思い出すんだ


 音がふる

 キラキラの世界

 こんなメロディ

 大好きなキミにプレゼント


 でぃんどん でぃんどん

 しゃらららら


 会いに行くよ

 大好きなキミに


 ジングルベルを鳴らそう


 大切なキミ

 大好きなキミ


 ジングルベルは幸せの鐘


 でぃんどんでぃんどん

 しゃらららら


 ジングルベルを鳴らそう

 ジングルベルを鳴らそう





ジングルベルを鳴らそう     Fin.


 ☆今回のBGM♬クリスマスメドレー

 赤鼻のトナカイ

 きよしこのよる

 G線上のアリア        バッハ

 ジングルベル

 Joyfull Joyfull「天使にラブソングを2」より

 White Christmas

 もろびとこぞりて(Joy to the world)

 Happy Christmas     John Lennon

 歓喜の歌         ベートーベン


 ジングルベルを鳴らそう   源ちゃんズオリジナル

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