相模電気高速鉄道 異世界線 27時

健人

第1話 異世界線

『相模電気高速鉄道株式会社』


 電力会社なのか鉄道会社なのか、一見では分かりかねるややこしい名前を持つこの会社は、神奈川県に存在するれっきとした鉄道事業者である。それは県内の私鉄で最も電化が早く、運行速度も速かった事があるという事実の証明というか、記念碑のようなものだ。

 現在では首都近郊の路線にあるまじき速度の遅さと、車両形状や外観カラーデザインから漂ってくる、垢抜けない昭和臭さが特長であり、社名の字面のイメージから沿線住民からは「お相撲すもう線」と呼ばれる事も多い。……もちろん愛情を込めて、だと思うが。

 世間一般的には主に『相電線』と呼ばれている。——いずれにしても「高速」という名称は似合わない、という事だろう。

 歴史だけはそれなりだが規模はというと、本線と途中駅から枝分かれする支線の2路線しかなく、路線の総距離も50km前後。ニュース等で呼ばれる時には「大手私鉄」などと冠が付くが、実質的には中小だ。


 

 そんな、相模電気高速鉄道本線の終着駅は、JR等多くの路線に接続するハブ駅である、館濱たてはま駅だ。ビルの2階に造られた駅に吸い込まれて行く列車の姿は路線のイメージとは異なり近未来的で、完成セレモニーの時には駅中から列車を見送るより、外から列車の出入りを眺めたい衝動に駆られて仕方がなかった事を憶えている。

 その館濱駅の2番線から、毎週日曜日の深夜27時に出発する1本の電車がある。週に1便だけ運行される、相模電気高速鉄道異世界線。私はその、専任運転士だ。

 1日の営業を終えて、ひっそりと静まり返ったホームに立った私は帽を被り直し、列車を眺める。かつての運用編成と同じだが、今では異世界線のみの特別編成である、2両編成の旧5500系。国鉄のEF58型電気機関車を想起させる流線型のノーズと、赤いラインが美しい。私が運転して来た中で、最も好きな車体だ。

 外観の出庫点検を済ませ、先頭車両に行先標を差し込む。書いてあるのは勿論『異世界』。続いて車内を点検。本来はロングシートなのだが、この車両は異世界線専用にほぼ全ての席をボックスシートに改装している。それらを1つ1つ、確認する。——点検、ヨシ。

 私は運転席に乗り込み、鞄から「ワンマン」と書かれた緑色のパネルを取り出して窓際に置いた。スイッチを入れて、点灯させる。

 席に座り、ブレーキハンドルを取り付ける。運転台の計器を1つ1つ、指差し確認。――問題ナシ。私は1つ息をつくと時計を確認し、腕を伸ばして正面を指した。

「出発、進行!」

 正面の黒い出口へ向かって、列車は加速を開始する。2両という短い編成の為、通常よりも距離が長いのは確かだが、それ以上に遠く感じる。だが、焦る事はない。この異世界線にとって、あの出口は異世界への入り口。そこへ至るには、ある程度の速度を出す必要があるのだ。

 旧5500系は、ゆっくりと速度を上げていく。――ようやく、出口が近づいてきた。通常であれば駅の外へと続くレールが見えるそこは今は完全な闇となっていて、先は全く見通せない。慣れている私でも、その瞬間は緊張する。

 列車が闇の中へと飛び込んだ瞬間、私はスイッチを踏み込み警笛を鳴らした。



 ――警笛が鳴り終えるとそこは、既に異世界である。

 その時によって夜だったり昼だったりし、天気や季節すら異なる事も珍しくない。元の世界では夏であっても、こちらに来ると一面の雪景色が広がっていたりもする。

 この日は穏やかな陽の光の中、見渡す限り草原が広がる丘陵地帯を走っていた。線路は続いているが、架線は無い。それでもパンタグラフを上げたまま、列車は走り続けている。何故だ、と言われても正直、答えようが無い。

「そうなっているから、そうなのさ」

 この任を引継ぐ時に、先代の運転士から言われた言葉だ。

 そう、ここは異世界。これしきの事で驚いていては、専任運転士は務まらない。何しろこの世界に入ってから、私はのだから。それはそうだろう。来る度に景色が異なる世界。どのように線路が走っていて、どこに駅があるのか全く分からない状態で走っているのだ。運転など、出来ようはずが無い。

 それでも、列車は走っている。カーブでは速度を調整し、駅へ到着すれば、停車する。全て、自動だ。といっても機械的な『オートメーション』ではなく、列車そのものが意志を持っているかのような——言ってみれば——動きである。


 ——そうなっているから、そうなのさ。


 運転から解放された私には、別の業務が待っている。——丁度、最初の駅が近付いて来た。元の世界の館濱駅は車庫扱いの為、異世界に入って一つめの駅が、この列車にとっての始発駅という事になる。

 私がそれを駅だと分かったのは、草原の中に石造りの低いホームが設置されていたからだ。乗客の姿も見える。

 列車は徐々にスピードを落とし、停車する。プシュッという圧縮空気が抜ける音と共に、扉が開く。乗り込んで来たのは——いわゆる、獣人。虎のような顔と、服の上からでも分かる屈強な肉体を持つ男性——でいいのだろうか——が、4人。その中でも背の高い1人はカラフルな刺繍がされた、上質なシルクのように艶やかに光る金色の衣服をまとい、腰にはこれも宝石で派手に彩られたアラブ刀のようなものを下げている。どうやら、かなり身分が高い御仁のようだ。

 彼らは迷う事無く列車へ乗り込み、席に座る。ドアが閉まり、列車は再び動き始める。

 ——さて、私の出番だ。

 私はバッグからがま口の車掌バッグを取り出して、肩に掛けた。運転席から出て手袋を付け直し、車窓を眺めながら談笑している乗客の元へ向かう。聞こえて来る言葉は全く理解出来ないものだったが、大抵がそうなので、気にする事は無い。

「失礼します。切符を拝見」

 日本語で話しかけた私に対して、通路側に座った従者と思しき1人が、躊躇無く腰の小袋から取り出した物を差し出す。トランプ程の大きさの、樹皮を剥いだような素材の薄いカードが4枚。表面は丁寧に処理がされており、そこにはくさび形文字のような黒い文字が幾つか書かれている。——そう。これが、切符なのだ。

 私は受け取った切符を、持ったまま車掌バッグの奥に突っ込む。ジャキン、という金属音と軽い衝撃。私はそれを確認し、バッグから切符を取り出すと従者に戻した。彼はそれを主人に渡す。主人はパンチが入れられた4枚の切符を愛おしげに目を細めながら眺め、私に向かってゆっくりと牙を剥いた。——どうやら、笑ったようだった。

「ご利用、ありがとうございます。……よい旅を」

 私は一度帽に手をやり、運転席に戻った。これが私のもう一つの業務、車内改札である。そういう意味では私は異世界線の専任運転士兼、車掌という事になるのだろう。

 元の世界の相電線でも、つい最近まで車内での乗越し精算や、他社線への乗換え切符の販売を行っていた。だから違和感は無い。むしろこの旧5500系の現役時代は「おかいもの電車」として運行された事があり、車内でデパガがお買い得品等の案内をしていたのだ。それを思い出すとついでに売り子でもやってやろうか、という気分になる。

 次の駅に到着するまで——つまり、次の業務まで——まだしばらくかかりそうだ。私は鞄から運転日報を取り出した。歴代の運転士が綴った記録が残る、運転日報。異世界に関して現状判明している事柄の全てが、ここに書かれている。

 駅の数は17、または18。その時々で異なる。また、運行日毎の停車駅も全く異なっており、同じ駅に停車した事は1度も無い。これについては駅それぞれがまた異なる世界に位置しているからではないか、と推測する記述もある。

 元の世界との関わりを指摘するものもある。この異世界線は、いわゆる平行世界の本線や支線上を走っており、遭遇する駅や人々は、その異世界においての沿線上の駅であり人なのではないか——というのだ。

 推測はあくまで個人のものであって、検証などできるものではない。ただ私個人は、後者の説は正しいと感じている。例えば、先に挙げた駅数だ。17駅というのは各駅停車で走った時の支線、18駅は本線の駅数だ。

 それに、先程乗客が嬉しそうに眺めていたパンチ穴。先が少しだけ凹んだその形状は、かつて館濱駅で使われていたパンチ穴のものなのだ。おそらく次の駅では、館濱の隣駅である高沼川駅で使われていた、三角形のパンチ穴が押されるだろう。

 毎回異なる停車駅だが、先程のようにプラットフォームだけのような簡素なものから、バロック様式というのだろうか。威厳に満ちた欧州風の巨大な駅舎を備えたものまで様々で、使われている切符の素材や形状も違えば、そこに書かれている文字もそれぞれ異なる。初めて石版の切符を渡された時は果たしてパンチが打てるのかと不安になったが、車掌バッグから取り出したそれにはきっちり型が入っていてホッとしたものだ。

 乗客もそうだ。先程のような獣人にしても、虎だけでなく獅子や象等の哺乳類的なものから、亀や蛙という爬虫類的なものまで様々。一見普通の人間のように見えても、耳が長かったり腕が4本あったり、舌が妙に長かったりするので油断は出来ない。


 列車がトンネルに入った。この異世界線は、駅と駅の間に必ず長いトンネルが存在する。次の駅までもうしばらく、という所だろう。


 文字が異なるという事は言語も異なる訳だが、不便を感じた事は無い。乗客は自分がどこの席に座るべきか、どこの駅で降りるべきかを分かっており、特に私が何かを案内する事は無いのだ。運転士である私より乗客の方が余程、この異世界線というものを理解しているのではないか。そう思う時がある。

 ――ただ、運転日報によるとごく稀に、言葉が通じる人物が乗車して来る事があるという。1年間という任期の中で1回あるかどうからしく、一度も遭遇できなかったという運転士も多い。私もまだ出会った事は無いが、もし出会えたら、色々と話しを聞いてみたいものだ。

 気がつくと列車はいつの間にかトンネルを抜け、草原ではなく、山岳地帯を走っていた。そろそろ、次の駅が近いのだろうか。私は日報を閉じて鞄にしまい、車掌バッグを確認した。


 

 ――17駅目を出発したのを確認し、私は車内の確認に向かった。この相電異世界線は片道運行の為、終着駅では降車のみとなる。終着駅を出発すると、列車は再び元の世界の館濱駅へ戻っていく。

 パンチ穴の形状から、今日は18駅目がある事は分かっていた。車内をパッと見渡したところ、乗客の姿は見えない。それでも、必ず確認は必要だ。

 すると――いた。1両目最後部のシートに1人、全身をコートですっぽり包み、フードを目深にかぶった人物が座っていた。確か、途中の砂漠の駅から乗ってきた乗客だ。1人での乗車は珍しい為、印象に残っている。シートにもたれる事無く、背筋を伸ばして座るその姿はある種の高潔さを感じさせた。

 私は帽に手をやって軽くお辞儀をすると、次の車両の確認に向かおうとした。その時、

「残っているのは、私1人のようですよ」

 突然日本語で話しかけられ、私は仰天した。――表情には出ていない、と信じたい。

「あ、有難う、ございます」

 私は何とか、言葉を絞り出した。すると乗客は軽く息を吐き出し、

「良かった。——言葉、通じるんですね」

 そう言って、フードを外した。「勉強はしているのですが、実際に通じるかどうか、不安だったんです」

 その顔は、猫だった。整ったV字型の顔に、ピンと張った耳。白銀に輝く体毛で覆われた顔の中心は、薄く茶色がかっている。しかし何より私の目を引いたのは、そのサファイアブルーに輝く美しい瞳だった。

「もしお邪魔でなければ、少しお話ししませんか」

 そう言って彼女――その鈴のような声は、紛れもなく女性のものだった――は、向かいの席を促した。

「喜んで。――ですが、少しお待ち頂けますか。業務を済ませてしまいますから」

 私は言った。彼女の言葉を信じない訳では無いが、自分の目で確認するのがルールだ。全ての確認を終えて、私は改めて彼女の向かいへ腰をかけた。

「——言葉が通じるお客様にお会いしたのは、初めてです」

 私の言葉に彼女は微笑み、

「初めまして。私は、クォムナと申します。トロザカイ王国の第三王女です」

 王女様だったのか。私は目を見張った。

「私は――」

 言いかけて、私は一度言葉を止めた。「……私は、この相電異世界線の運転士です」

 その言葉に、彼女は軽く首を傾げる。

「申し訳ありません。服務規程により、名乗る事ができないようです」

 私は確かに名乗ろうとした。しかし、見えない力が私の唇を抑えたのである。この異世界線には、独自の服務規程(ルール)が幾つかある。その中で最も基本的かつ厳格なものが、「異世界に影響を与えない」というものだ。今回は名乗るという行為が何かしらの影響を及ぼす、と判断されたのだろう。胸元にネームプレートを付けてはいるが、彼女に読む事はできまい。

「――では、運転士さん、とお呼びしても?」

「ええ、宜しくお願いします。クォムナ様」

「様、なんて付けないでくださいな。この列車の中では、身分や種族の違いは関係無い――そうなんでしょう?」

「よく、ご存知なのですね」

 確かにそれも、ルールの一つだ。「……この度は、ご旅行ですか?」

「留学するんです。これから、3年間」

「ほぉ、それは……」

「――父には、大反対をされたのですけどね」

 そう言って、彼女は肩をすくめた。「半分、家出をしてきたようなものです」

 父というのはつまり王様、という事だろう。

「思い切った事を、されたのですね」

「そもそもお前が留学する意味なんか無い、って散々でした。——私なりに、色々と妥協はしたつもりなのですよ。留学先のナビエル王国は、古くからの友好国で治安も良いし、獣人に対する偏見も少ないのです。それでもまかりならん、の一点張りで」

 私の言葉に彼女は顔を紅潮させて、一気に話した。それから我に返ったように、「あ……御免なさい。初対面の方に、こんな事をお話をして」

 と、目を伏せる。

「……私にも、娘がおりましてね」

 私は徐に口を開く。「とうに結婚して家を出て、長く会っていませんが——。まぁ、ですので、お父上の気持ちも、分かりますな。やはり男親としては娘がどうしようもなく可愛くて、だから心配で、手元においておきたくてならないのですよ」

 彼女は小さく息を付き、車窓の向こう側を流れる景色に目をやった。

「——父が私を、それこそ目に入れても痛くない程に愛してくれている事は、分かっているのです。それでも……」

 艶やかな髭の先が所在無げに宙を彷徨い、しばらく、沈黙が続いた。レールの継ぎ目を通過する音だけがことん、こととん、と響く。

「これ――不思議な、列車ですね」

 クォムナ氏は正面に向き直って、言った。「城の窓から、この列車がやってくるのが、よく見えるんです。普段は何も無いのに、毎週決まった曜日の、決まった時間になると、どこからともなくやってくる。……私、この列車に乗ることが、幼い頃からの夢だったんです。どこか遠くに連れていってくれて、きっとそこには、素敵な事が待っているんだろうって」

 そう話す顔からは先程までの険しい表情は消え失せて、笑みがこぼれていた。

「……乗車されるのは、初めてで?」

「切符をお渡しする時、手が震えるのを隠すのに一生懸命だったんですよ、私。――もうずっと、緊張しっぱなしで。……初めての乗車がこんな形になってしまったのは、少し残念ですけど」

 私はそれを聞いて、微笑んだ。

「大丈夫ですよ。お父上もきっと、あなたの事を応援されてる筈です」

「――そう、でしょうか」

 彼女は視線を上げる。

「そうですよ。子供が、自分で決めた事を応援しない親なんか、いません」

 そう。ただ親だって、素直になれない事もある。それだけの事なのだ。……こういうのは、どこの世界であっても変わらないのだな。

「ありがとうございます。そう言って頂けると、何だか勇気が湧いてきますわ」

 クォムナ氏は手を胸にあて、目を細めた。「……私、ナビエルで商売の勉強をするつもりなんです。私の国は周囲を3つの国に囲まれていて、それぞれの国の品物を平等に取り扱う、交易都市として栄えてきました。――だから政治については兄に任せて、私は商売を学んで、国をもっと栄えさせていきたいのです」

「それは、素晴らしいですね」

 彼女は夢であった列車に乗って、さらに未来の夢をかなえる為の勉強をしに、他国へ向かう。この列車が、彼女の夢の実現の為に役立っている。――鉄道マン冥利に尽きるではないか。

「運転士さんは、何か夢をお持ちですか?」

「私の、夢――ですか」

 彼女の問いに、私は少し考える。「私の夢は——」

 その時、列車がファン、と警笛を鳴らし、スピードを緩めた。

「……そろそろ、到着のようです」

 私は帽を直し、立ち上がった。「お忘れ物のございませんよう、ご注意ください」

 彼女は何か言いたげに口を開いたが、何も言わずにそれを閉じて、傍らのバッグを引き寄せた。長期留学の荷物にしては小さいが、こちらの世界には某マンガに出てくる四次元ポケットのような機能を持つバッグがあるという。そういう類いなのかもしれない。

 列車は既に、駅構内へと進入していた。——大きい。一国の王女が、留学先に選ぶだけの事はあるということか。

 クォムナ氏は立ち上がると、両手で荷物を持ってドアの前へと移動する。ドア横にある小さな鏡で髭を軽く整え、私に向かって微笑んだ。その髭の先は迷い無く上向きに留まり、ピンと張っていた。

「お気をつけて。——いってらっしゃい」

 彼女は軽く頭を下げて、フードを被る。それに合わせたかのように列車は止まり、ドアが開いた。

「――お待ちしておりました、クォムナ様」

 ドアの真正面に立っていた小男が、慇懃に礼をする。見た目は人間——老人のようだ。

「……お父様から、ですね」

 ある程度予期していたのだろう。クォムナ氏は一度ため息を付くと、「特別扱いはしないで頂きたい、とお願いしていた筈ですが」

「はい、承知しております。しかし何ぶん、友好国の王からのご依頼とあっては、無視するわけにも参りません。せめて、無事のご到着だけでも確認させて頂きたく、お迎えにあがった次第でございます」

「迎えなど、結構です」

 クォムナ氏は荷物を持とうと差し出された手を押しのけるように、列車を降りた。「……どうして私がこの列車で来ると?」

 小男はニヤリと笑い、

「貴国と我が国はいにしえからの友好国でありますれば、色々と連絡をとる手段もあるのでございますよ」

「全く――」

 彼女は呆れたように肩をすくめ、それから改めてこちらへと向き直り、一礼をした。それに対して、私は敬礼を返す。

 ドアが閉まり、列車は走り出した。彼らの姿はあっという間に後方へと流れていき、私は、再び1人になった。

 ――私の夢、か。

 彼女からの問いを思い出す。……できるなら、一度この列車を降りて、異世界の中を見て回りたい。それが、私の夢――だろうか。かなう事があるのかどうか、分からないけれども。

 車内の電気が消えて、私は運転台に戻った。

 ――さて、まずは運転日報を仕上げてしまわなければ。

 次のトンネルを抜けると、そこは元の世界。私がブレーキをかけなければ、列車は止まらないのだから。

 しかし今日の日報は、いつもより時間がかかりそうだ。

 いつになく高鳴る胸の鼓動を感じながら、私は日報の新しいページを開いた。

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