4番街のアンべシル

小谷杏子

prologue

 少しだけ、ほんの少しだけ爪先が当たっただけだ。


 それなのに、どうして、


「なぁんでぇぇえええええええっ!?」


 愕然。唖然。その奥では騒然。

 レンガ造りの建物が、地響きを上げて崩れようとしている。その元凶は、顔を真っ青に目を大きく見開いていた。


「おい、何やってる、グレーズ!」


 眼下では驚きと怒号が混じった声が。しかし、今や建物は砂埃を巻き起こして地面へとめりこんでいる。どうしようもない。


 グレーズは金髪を風に晒して、塔のてっぺんから恐る恐る眺めていた。


――ど、どうしよ……


 まさか、こんなことになるとは思わなかった。

 レンガがあんなに脆いとは思わなかった。

 飛ぶために、ほんの少し足場にしただけなのに……

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