異世界に転移してチート無双出来ると思ったら鑑定スキルしか持ってなかったんだが

初柴シュリ

序章

プロローグ




「……ここどこ」


ダボダボのシャツ。ダボダボのズボン。突っかけてきた古ぼけたシューズ。手にぶら下がったコンビニ袋。


俺はそんな何処にでもあるようなラフな格好のまま、何処にでもは無いような草原の只中に放り出されていた。


「嫌々、ありえないだろ」


コンビニ袋の中をガサゴソと漁ると、出るわ出るわ当面の食料。ペットボトル飲料、おにぎり(梅)、おにぎり(鮭)、カップ麺(豚骨)、カップ麺(醤油)、ポテトチップスetc……。先程買っていた俺の好物達である。占めて千三百円也と書かれたレシートも出てきた。


とりあえずこのまま突っ立っていても所在ないので鮭のおにぎりを開封し、ムシャムシャと頬張る。うん、旨い。こういった大自然の中で食べると、より一層旨く感じる。


「ーーって違う! こんなことしてる場合じゃないって!」


思わず一人ノリツッコミしてしまったが、事態はそれどころではないほど逼迫している。


先程まで確かに俺は何の変哲も無い住宅街にいた筈だ。それはこの手にあるコンビニ袋とその中身が証明している。


ところがどうだろうか。今目の前に広がっているのは灰色のビル群や閑静な住宅街ではなく、緑色の平原と何処までも広がる青い空、あとついでに森林である。一体何がどうなったらこうなるのか。コンクリートジャングルが本物のジャングルになったって? 喧しい。


「……本気でまずいってこれ。この状況でどうやって生きていけって言うのさ」


生憎平和な日本に住んでいた典型的現代っ子の為、何処でも生きていけるようなサバイバル術は持ち合わせていない。豊富な物資があるわけでも無し、世界は俺に一体何をやらせたいと言うのだろうか。


とりあえず現代っ子の鑑として、ポケットに入っているスマホを起動する。うむ、いつも通りホーム画面の美少女が俺に微笑みかけてくれている。


だが残念ながら運命の女神はそう簡単に微笑んではくれないようで、右上のゲージを見るとそこには燦然と輝く『二十六パーセント』の表示が。


「……そういや充電してなかったな」


普段ならば携帯充電器も常備しているのだが、流石にコンビニへ行く際には持っていかない。今回ばかりはそれが仇となってしまったようだが。


まあ、連絡を取るだけならこの残量でも何とかなる。そう考えて俺は滅多に使うことの無いトークアプリを開き、薄い希望にすがろうとする。


『インターネットに接続出来ません』


「そんな気はしてたよ畜生!」


非常に簡素な文面が俺の希望をあっさりと奪っていく。まあ、こんな明らかなど田舎で電波バリバリに繋がっていたらそれはそれで驚きだが。


文明の利器から唯の光る板に成り下がった手の中のスマホを恨みがましく見つめるも、それで現状がどうにかなるわけでもない。諦めてポケットに仕舞い、その場に座り込む。


「はぁ、こんな事なら昨今のラノベ主人公を見習ってスマホにサバイバル資料でも入れてくるんだったよ」


まあそれを言ってしまえば、主人公には特殊能力があるからそんな事必要ないんだろうけど……ん?


「そういえばこの状況……」


見知らぬ土地にいきなり転移。転移させられたのは平凡な少年。そして手にはスマートフォン。いや、スマホは関係ないかもしれないが。


つまり、俺が主人公になれる条件は揃っている……?


「よっしゃ、そうと決まれば早速実践だ! 『鑑定』!」


異世界の定番魔法と言えば『鑑定』。これを唱えるだけで相手の情報が丸裸になるというストーカー御用達な便利アイテムである。これが使えないというパターンも最近は多いが、もう一縷の望みに賭けるしかない……!


すると俺の最後の希望に応えてくれたのか、それまで普通だった俺の視界に変化が訪れる。まるでゲームか何かのように数値が現れたかと思うと、俺の目の前にあった雑草の周りに文字が現れたのだ。


『鑑定結果:ラフラフ草

効能:特にこれと言った害も益もない雑草だが、とあるキノコと合わせて服用すると笑いが止まらなくなる』


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


勝った! 第三部完! などと思わず頭の中で叫んでしまうくらいには喜ばしい事実だ。自身に特殊能力が宿った、それだけで十分に意味がある。


なんだかんだで俺も年頃の青少年。異世界に行って無双したいだとか、そういう事を一度は妄想した事もある。それが本当に、現実のものになったのだ。これを喜ばずして何を喜ぶというのか。


「他にもなんか使える魔法とかあんのかな!? 『ステータス』!」


俺がそう叫ぶと、先程と同様に視界に文字が浮かび上がってくる。どれどれ……


『Name:渡 修也

age:17

ability:『鑑定』

異世界からの訪問者。平凡な少年』


……ん?


一度ゴシゴシと目をこすってから、もう一度ステータスを見てみる。


『Name:渡 修也

age:17

ability:『鑑定』

異世界からの訪問者。平凡な少年』


何度見ても変わりはしない、宙に浮かんだ簡素な文。


恐らく能力を示すのであろう、abilityの欄には『鑑定』の二文字しか刻まれていない。勇者だとか、聖剣だとか、特別な要素は何一つとしてない。


そして下の解説に書いてある『平凡な少年』という文字。もしかしてここは勇者が跋扈する世界なのか? いや、そんなはずは無い。ならば、考えられるのはただ一つ。


「俺、ただ異世界に来ちゃっただけの人じゃん……」


最悪の事実である。

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