2ページ

 気持ち早歩きで歩いていると「あっ」と掛けられた声に足を止める。

「すかい!」

「奈々子」

 満面の笑みでブンブン手を振る奈々子が見えた。身体の半分くらいあるリュックを背負ってツインテールの髪を揺らしている。

「おはよっ」

「おはようございます」

「おはようございます。今日は家族でお出かけ?」

 奈々子の隣には門脇夫婦。馴染みのかどわき青果店の前には三人家族が勢ぞろいしていた。

「はい。今日は水族館へ行くんです」

「そうなんだ、いいね」

 そう言えば先日、臨時休業にするチラシが貼ってあった気がする。そうか、今日だったか。

「新しくアザラシが来たとかで、どうしても奈々子が行きたいって駄々を捏ねて」

 困ったものですよ。と門脇君が続けるが、その顔はまんざらでもないように思えた。

「わざわざ店も休まないといけないし」

「今日は親父さんは?」

「親父はもう隠居しているんですよ。歳ですしね。それに水曜なら休ませていただいても大丈夫かなって。いつも御贔屓頂いているスカイさんにも迷惑は掛からないかなって」

「うちのことまで考えてもらって申し訳ないな」

「ふふふ、御贔屓さんですからね」

 そう笑う顔は奈々子にそっくりだ。

 どんっ。

「すかい~!」

 右脚が急に重くなった。奈々子ががっしりと俺の脚を掴んでいる。

「奈々子」

「こら、奈々ちゃん!」

「きょうね、ぱぱとままとすいぞくかんいってあざらしさんみるんだよ」

「おー、良かったな」

「うん! あとね、いるかさんもさめさんもみるんだぁ。おさかなさんいーっぱいみてくるよ」

「じゃぁまた今度話し聞かせてくれな」

 小さな頭を撫でると、柔らかい髪が気持ちよかった。あぁ可愛い。

「うん!」

 奈々子は満面の笑みで手を振って両親と手を繋いで駅に向かって行った。その背中を見つめながら、少しだけセンチメンタルになってみたり?

 いやいや、独り身のモーニングコーヒーだって美味しいですから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る