月虹虫回顧録
ナカムラサキカオルコ
隊商
ミズヲがいる隊商は小規模だが、まとまりがよい。日が暮れる前には、
新入りと呼ばれている彼は、すでに隊長から
暗い荒野にははるか遠い場所まで、点々と光の点が見える。彼らは皆、西の商業都市オクウトを目指している。野心に満ちた人間たちが灯す火だ。誰もがたくさんの儲けを期待して、夢見て、その場所へ集まろうとしている。
(自分のそのような者の一人に見えるのだろうか)
ミズヲは考えたが、自分自身のなかには、そのような熱い炎は感じられなかった。かすかな
(なにもない)
ミズヲは自分のなかに沸いた哀愁のようなものをすぐに捨てた。なるべく十分な眠りを得ようと、はおるものを
暗闇に小さくうごめくものがある。
(
それとわかると、ミズヲは全身からゆっくり力を抜いた。人に危害を与えない。虫はしばらく居場所を迷ってから、たき火からほどよい距離をおいて、砂の中に潜り込んでうずくまった。虫といわれているが小さな生物で、全身を毛でおおわれ、小さい手足がはえている。
月虹虫は、獣なのに、人の言葉を理解するという話がある。月明かりの下で、自分の身の上を語るという。夜に活動するのは、人の目を避けるため、変わり果てた己の姿をさらさないため。孤独に耐えられなくなった旅人の姿ともいわれている。単なる夜行性かもしれないが。他にも
かわりにミズヲの脳裏に浮かんできたのは、背の低い太った男の姿だった。ミズヲはここ数日の移動のあいだは、おおむね彼のことを考えていた。人なつこい笑みを絶やさない、計算高いことを隠そうともしない。オクウトでも指折りの大商人で、一年ほど前、別の街で、突然ミズヲを訪ねてきた。
店で片付けをしていたとき、ざわめきが近づいてきた。小柄でふくよかな、愛嬌はあるが押し出しがよい男が、下男と
「君が、石を売るミズヲか」
ミズヲはそうだとうなずく。
「君のうわさをきいて、顔を見に来た」
無数の好奇心と羨望のまなざしが取り囲み、
「わたしはオクウトのザルトだ」
はっきりと名乗ると、周囲は低くどよめいた。やはり、西の都の。かの高名な大商人。
「次はぜひ、うちにきてくれ」
人々の驚きの声は、また大きくなった。ミズヲは返す言葉をみつけられず、少し目を見開いて男を見つめるしかなかった。男の名前は知っていたが、自分に縁があるとは思っていなかった。ザルトはにやりと笑った。
「うちには腕のいい宝石商もいる。君の勉強にもなる。君はきっと来てくれるよ。特別な祭だ。たくさんの人と荷物が集まってくる。君は、私のもとへ来てくれなきゃ、困るんだ」
自信が満ちあふれ、笑みをたやさない。小さいのに人を圧倒してくる。彼を煩わしくさせる人間やできごとが、この世になにかあるのだろうか。
明日には彼の街につく。自分の話し声が聞こえないくらいの、
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