第130話 言ってみたかっただけ
「言ってみたかっただけ」
っていつも言う友人がいます。SNSの友人だから会ったことはありません。
自分の意見を言う時に、いつも自信無さそうに言うんです。だけどどうしても言わなきゃ気が済まないらしい。
だからなんでしょう、必ず最後に「言ってみたかっただけ」ってつけるんです。
これ、受け取る側はどうとらえるだろう?
***
「オレが」言いたかっただけだから。
「お前の」意見なんか聞いてねえ。
『言ってみたかっただけ』なんだよ。
***
たとえば誰にともなくボソッと呟く。Twitterで書く。
大勢の人が反論するかもしれないし、共感するかもしれない、誰にも見向きもされないかもしれません。
だけどDMなら必ず相手が見ます。
コイツに聞いて欲しい、だからコイツに言う。
コイツに伝えたい、だからコイツに言う。
でも「言ってみたかっただけ」だからね。
「オレが」ね。
「聞いてみたかった」んじゃないし、「議論したかった」んでもないよ。
「言いたかった」の。「オレ」が。
そこにあるのは
「どうせオレの話なんか通じないだろ」。
「どうせオレに反論するだろ」。
「どうせオレの言うことなんか納得しないだろ」。
だから最初から「言いたかっただけ」でいいんだよ。
だって反論されるの嫌だもん。
なんで反論されるってわかってるかって?
そんなの、そもそもお前の意見に対してオレが「違う」って伝えてるんだから、お前が反論するのはわかってるもん。
でもオレ、反論されたくないんだよ。
オレの言いたいことだけ言いたいんだ。
反論は受け付けないんだ。
***
さんざん持論を展開した後、最後に「言ってみたかっただけ。」と言われたら。
受け取った側は、そう感じるんです。
少なくとも、私はこれを書かれるたびに「コイツは一方的に持論をぶつけたいだけで、私の意見は最初から聞く気なんか無いんだな」と思います。
いいヤツだし、付き合いも長いから「とにかく言わせて欲しかったんだな」と思う、それで終わる、とくにそれで関係が悪化するわけではないんです。
でもこれ、全然知らない人に言われたら「は?」となるかもしれない。
***
物語を書くときも同じで、「これを書いたら読者はどう受け取るだろう?」ってのを考えて書かないと、とんでもない誤解を招いたり訳が分からなかったりすることがあります。
なぜそうなるか。理由は簡単で、読者の立場に立っていないからなんです。
作者が『オレが』を前面に押し出すとこうなる。上の例がいい例です。「オレが言いたい」しかそこには無い。
それで損をするのは作者です。
基本的に読者は「全然知らない人」なのだから。そして読者は読むことを「楽しみたい」のだから。
読まれない、評価されないと悩んでいる人は、まず自分の作品が独りよがりになっていないかどうかを見直すといいかもしれません。
……またシロートが読者寄りの発言をしてしまったようだな。
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