他愛も無い言葉たち
岡崎厘太郎
ありがとう、すき、あいしてる
貴方は――。
「ありがとう」をちゃんと言葉にしていますか?
「好きだ」と相手に伝えていますか?
「愛している」と照れながらでも言えていますか?
私はそれらの言葉を現代社会において存在する唯一の魔法だと思っている。
誰もが使えるはずのその他愛もない魔法を、私たちは放棄しがちだ。
こんなにも簡潔で、綺麗な言葉は他にあるだろうか?いや、ない。
言われただけで心が満たされ、幸せな気分になれるその言葉たちは
そこにあって当たり前なのに、気付けばどこにもない。
指の隙間から零れ落ちる砂のように掴み続ける事は案外難しい。
だが、たかが言葉だ。所詮、言葉だ。それ以上でも以下でもない。
言わなくても伝わるようなことは沢山あるだろう、と思いがちだが
それははっきり言って間違いである。
心が通じ合っているなどという幻想に支配され、惑わされ、憧れているだけだ。
そんなことは漫画でもアニメでもラノベにでも任せておけばいい。
私たちは伝えなくてはいけない。
心は絶対に通じ合えない。USBでつなげているわけでも、頭のてっぺんからWi-Fiが飛んでいるわけでもないのだから。
私達ができることは言葉と行動による予想と確認と把握だけだ。
それが上手くいったとき、私たちは心が通じ合っていると勘違いをする。
それが常習化すると、人は言葉を使わなくなる。
ありがとうを言わなくなり
好きを省略して、愛しているを重く捉える。
『愛しているなんて絶対に言わないぞ!死んでも言わない!』
なんて本気で思っている人はいないと思う。
貴方も言いたくないってことはないだろう。
今更とか、恥ずかしいとか、照れるとか。ちょっとした、だけど大きな壁。
でもそれは相手の反応が予想できないから頭が自粛してしまっているだけ。
お互いに好きだとわかっていたら
それこそ、心が繋がっているというならば
恥ずかしくないではないか。
『愛しているは特別な物。何度も言うと重みがなくなる』だから言わない。
それも違う。愛は特別でもなんでもない。当たり前なのだ。
特別なのは目の前の人なのであって、言葉はただの言葉だ。
そして言葉は使えば使った分だけジャブのように後から効いてくる。
『ねえ、私の事愛してる?』
『うん、愛している』
『ねえ、どこ見てんの?ちゃんとこっち向いて、目を見て言って!』
『ああもううるさいなー、ちゃんと愛してるって!』
『はあ?なにうるさいって!信じらんない!』
コミュニケーションというのは、言葉だけでは通じないのも事実。
世の中そんな簡単な構造はしていないし、本音だけで生きていけるほど
世界は優しくできていない。
時には嘘をつかなければいけないだろう。建前は必要だ。
それに、言葉すら使われたくない人もいるだろう。
『あの人は生理的に無理。何言われても気持ち悪い』
貴方の周りにそんな人がいるならば、本当に素晴らしい。
そこに居るだけで、視界に入るだけで、貴方の心を乱す人がいるなら
その人はもはやファンタジーの部類だ。貴方はファンタジーと共存している。
『あれは私とは次元が違うファンタジーな人だ』
そう考えると、少しは可愛げがでるのではないだろうか。
少なくとも私はそうしていて、存外心穏やかに過ごせている。
もし貴方がはっきりと言葉の力を使い「嫌いだ」と言えないならば
貴方ばかりが心を乱し、苦悩する必要はない。
少し視点を変えて、物事を捉えれば「ありがとう」くらいは言えると思う。
逆にいい意味で心乱される素敵な人もいるだろう。
やはりそれもファンタジーで、貴方はその物語の主人公だ。
言葉を紡ぐほどに、表現は広がり、結末は貴方の人生に花を添える。
なんども言うようだが、言葉は言葉。道具でしかない。
しかしそこから何かを見出し、試行錯誤して魔法に変える人が
世の中には沢山いる。
カクヨムもそうだ。
これだけ多くの作品が溢れ、今日も新しい言葉たちが次々と紡がれている。
小説は実力主義の厳しい世界だが、カクヨムは優しい世界だと思う。
少なくともどんな作品にも読者はいる。
愛されるか、愛されないかは別にして。
愛して欲しければ、愛して欲しいと言わなければ相手には伝わらない。
言わなくてもわかるでしょ?は甘えだ。
もし貴方に最愛の人がいて、普段から魔法をかけ忘れていたら
今すぐに魔法をかけてあげて欲しい。
きっとどんな漫画でもアニメでもラノベにも真似できない最高の魔法になるはずだ。
私はそれができなかった人間だ。
気づいた時にはすべてが零れ落ちた後だった。
私のように失ってから気づくのは本当に遅い。
今そこにある幸せをしっかり掴んで欲しい。
一人一人が幸せな未来がきっと明日の魔法になる。
他愛も無い言葉たち 岡崎厘太郎 @OKZK
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