宝箱をひらいて

カゲトモ

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「それは何だい?」

 目ざとく常盤さんが見つけたのは、商店街にある“かどわき青果店”の看板娘、奈々子から貰ったものだ。

「今日頂いたものなんです。懐かしいですよね」

 貰ったのは綿菓子の駄菓子で、中にパチパチする飴が入っているアレだ。小さい頃によく食べたよな。懐かしい。

綿菓子を食べ終わった後に残ったパチパチを一気に口に含んで食べるのが好きだった。あの感触、癖になるよな。

「え? それは何なの?」

「え?」

「お菓子なのかい?」

「え?」

「ちょっと見せてくれる?」

「・・・どうぞ」

 わざとでも何でもなく、バックバーに置いていたことさえ忘れていた駄菓子を常盤さんに手渡した。

 今日は先日の志麻の家出事件の謝罪として大きな花束を持って常盤さんは来店していた。持て余すほど大きな花束の一部は店内に飾ってある。

「へぇすごいな」

 まさか、いやいやまさか。いくら金持ちのエリート様様だと言ってもこれくらいはさすがに。志麻だってまだ大学生なんだし、小さい頃なんてちょっと前の話だ。

 この駄菓子を知らないなんてことは・・・

「初めて見たよ」

 あるんかーい! このパチパチする綿菓子の事を知らないなんてことがあるんかーい!

「綿菓子なのにパチパチするなんて不思議だね」

 うん! それが売りだからね! 綿菓子なのにパチパチするのが売りだからね!

「もしかして常盤さん、駄菓子とかって召し上がったことないんですか?」

「うん、ないね」

 ハッキリー!

「聞いたことはあるんだけど」

 常盤さん、そういう由緒正しいお金持ちのお家だからな。そうか、そういうドラマみたいなことも本当にあるんだ。へー、お金持ちってすごい。

「食べたことはないなぁ」

「あの、召し上がってみますか?」

「え、いいのかい?」

 キラキラキラ、とおっさんの瞳が煌めいた。本当にこういうの好きだな、常盤さんは。

「もちろんですとも」

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