ラトテップの憂慮
Gnu
全ての始まり
なんと表現したらいいんだろう。
空が割れたというか。
一部が闇に変わったというか。
ああ、ゲームみたいに言えば『バグった』みたいな感じかもしれない。
……いや、そんな表現はどうでもいいんだ。
私の目の前に現れた二つの影。
《それら》はあまりにも世界の理を逸脱していた。
うねる触手
爛々と光る瞳
身体に刻まれた禍々しい紋章
まさに人の形をした怪物というべきか。
姿見も恐ろしいが脅威的なのはその力。
彼らが手を振り地をを蹴る度に壊れていく街並み。
世界さえねじ曲げてしまいそうな衝撃。
その余波でさえ地面を抉り物を吹き飛ばす。
しかし
そんな怪物たちの争いの中
何故私が狙われているのだろう?
あまりにも物事が逸脱しすぎてほぼほぼ状況が理解出来ていない。
ただ自分のおかれた状況だけはわかる。
私は今この時
片方の怪物に殺されそうになり。
片方の怪物に護られてる。
否、護られてるといってもその衝撃で何度も吹き飛ばされているから実質殺されそうになってるわけだが。
ただ、薄々と察していた。
この争いに巻き込まれた時から
この争いで《少なくとも》私は命は落とすだろうと。
私が命を落とすだけじゃないかもしれない。
家にいる兄やこの街、この世界すらその命を落とすかもしれない。
ああ、なんでこんな争いが起きたのだろう。
なんでこんな争いに巻き込まれてしまったのだろうか。
この先の未来を諦めるしかない争いに。
───いやだ。
いやだよ…。
死にたくない…。
かつての悪夢が走馬灯のようにチカチカと瞬く。
突然の衝撃
鼓膜を破る爆音
燃え盛る炎
息を吸うのが苦しい
目が霞む
もう何が何だか解らなくなって……
いやだ。
私はまだやりたいことがあるんだ。
こんなとこで死ぬわけにはいかない。
だってまだ───……
摩擦で怪我した時のような痛みが走る。
恐怖に喘ぐその息を無理やり落ち着かせ深呼吸をする。
少しだけ落ち着いたのか、嫌な悪夢が遠ざかった。
とは言ってもこの状況は私にはどうにも出来ない。
だって
私は《神様》じゃないから。
万物を制する《神様》ではないから。
そう、私は非力なただの《人間》。
だから祈る。その《神様》に祈る。この粗末な手を力強く組み瞳を伏せ願う。
ただ「助けください」と。
意識が飛ぶまで、ずっと───……
意識が落ちる寸前…否、既に落ちていたのかもしれない。この騒音の中、不思議なくらいはっきりと聞こえたのだから。でも幻聴ではないと思った。だって、確かに聞いたんだ。
その声を──…
相変わらず終わらない争いの中
全てを冷笑しているような
ただただ嗤っているような、声
「貴様が願う善良な神はここにはいない」
「何故ならそいつらこそが《神》なんだから」
「だけど私ならお前を助けられる」
「───我は《這いよる混沌》。今この時、貴様の願い、再び叶えよう。」
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