第20話 一騎打ち

「見えたわ」

 ローズさんの言葉通り、平原に広がる敵の騎影が丘の上から見える。敵は街から出て全面対決の姿勢を見せている。

「爽快ですね、こうも綺麗に騎馬隊が陣形を取っているなんて」

 流石大陸最強と呼ばれた槍騎馬隊ランスナイツ部隊といったところだろうか。

「さぁ行きましょう」

 私たちは第一軍の先鋒部隊、左翼と右翼そして後方部隊は丘の上に待機させ、約500騎を引き連れゆっくりと前進する。

 私とローズさんの考えが正しければ戦いは必要最小限の被害で終わるだろう。

 

 あれからローズさんと私はいっぱい話を交わした、あの戦い以降お互いどうしていたのか、何故星槍がランスベルト王子の元にあったのか、そして叔父の真の目的な何なのか。

 話し合った結果私たちはある結論に達した、それは何の証拠も確証もなかったけれど、今目の間に広がる陣形を見てそれは確信へと変わった。この陣形は戦う為のものではない、本体を後ろに下げ、左右を前に突き出した形は言わば騎士達に見守られた闘技場。

 私たち解放軍はコの字型に展開された陣形の蓋を閉じるような形で、軍を停止させる。



「私はグレアム・ウエストガーデンの一子、ゼスト・ウエストガーデン。公女ミレーナ・ウエストガーデンに告げる、私は貴殿との一騎打ちを所望する」

 私はローズさんと頷き合い、考えが正しかった事を確かめ合う。


「私はウエストガーデン公女、ミレーナ・ウエストガーデン。この一騎打ち受けて立つわ!」

 二つの軍に囲まれ私とゼストが馬上で対峙する。


***************


「父上、行ってまいります」

「すまんな、お前まで巻き込んでしまって」

「いえ、こうなる事をわかって付いてきたのです、私たちの想いはセレスティナが継いでくれるでしょう。その為に何も話さず遠ざけたのでしょ?」

「……そうだな」




 この戦いにウエストガーデンの槍騎馬隊ランスナイツを使う訳にはいかない。彼らにはこの後、王都奪還と帝国軍の防衛の為に必要不可欠な部隊だ。

 彼奴らに気づかれないよう軍を再編させ鍛えあげてきたおよそ5000の部隊、これだけあればこの国から帝国軍を追い出す事が出来る。後はすべての罪を私たちが被れば国は再び一つに纏まるだろう。


「私はグレアム・ウエストガーデンの一子、ゼスト・ウエストガーデン。公女ミレーナ・ウエストガーデンに告げる、私は貴殿との一騎打ちを所望する」

「私はウエストガーデン公女、ミレーナ・ウエストガーデン。この一騎打ち受けて立つわ!」


 さぁ、戦おう。君が星槍の真の継承者ならば私などに負けないはずだ、そして見事私を討ち果たしてみせよ。


***************


 くっ、流石セレスティナのお兄さんだ、槍の捌き方が上手い上に隙がない。

 叔父たちの考えは分かっているが、一騎打ちに手を抜くつもりはないようだ。今の私には彼を生け捕りにしようなどという考えは一切ない。これは公女として避けては通れない道、どの道捕らえたとしても彼らに残された道は死罪しかないのだ。ならばここは最大の礼儀として全力で討ち取らなければ彼らに申し訳が立たない。


「紅蓮槍!」

「彗星槍」

 私の炎を纏った一撃を風を纏わせた一撃で相殺される。

 本来炎と風の一撃なら間違い無く炎が勝つのだが、それを完璧に相殺されている事から、彼の力量が私より上だという事がハッキリと分かる。

「そんなものか、そんな腕では帝国から国を取り戻せないぞ!」

「くっ」

 繰り出される連続の突きに防戦一方になる。


 この戦いで無様な姿を見せる訳にはいかない。今の私はこれから共に戦ってくれるであろう騎士たちが見ているのだ。もしここで破れるような事になれば、叔父が自らを犠牲にしてまで作り上げた騎士団がバラバラになってしまう。

 私は彼らの行動に全力をもって答えなければならない。だが父を殺し国民を苦しめた事は許すつもりはない。


「紅蓮……流星槍!」

「ぐっが」

 炎を纏った連続の突きがゼストを襲う。一撃一撃は軽くなるが、受ける度に炎が槍を通して全身を燃やす。

 私は風の属性は持っていない、だけど足りない部分は技術で補ってやる!

「光弾槍!」

 水平に突き出した槍から炎の閃光が飛び散る。

「まだだ!」

 ゼストが馬から飛び上がり上空から私に襲いかかる。

「龍牙槍!」

「きゃ」ドサッ

 衝撃をすべて受け止めきれず、ゼストと一緒に地面へと叩きつけられた。


 大丈夫、まだ戦える。体のあちらこちらが痛いが、動けないという訳ではない。再び立ち上がり地上で対峙する。

 この戦いに魔法は使わないと決めている。ただせさえ星槍と普通の武器との差があるのだ、この上魔法で攻撃するなんて事は礼儀に反する。


「さぁかかってこい、真の星槍の継承者なら見事私を討ち果たしてみせよ」

「行くわよスターゲイザー!」

 私の言葉を受け星槍が激しく輝き出し、私の全身を包み込む。


***************


 聖なる衣……

 誰が初めにそう言ったか分からないが、聖戦器と呼ばれるものを使用した時、光の衣が使用者を包み込む現象をそう呼んでいる。

 父上も同じことを出来るが目の前の光は比べ物にならない。やはり真の継承者はミレーナなのか。


「龍牙槍!」

 くっ、やはり先ほどまでの一撃とは比べものにならない。その上星なる衣でミレーナの防御力は鉄の鎧を着たように強化されている。

 だけどこのまま負けるつもりは毛頭ない!


「これで終わりだ! 七星槍術奥義、七星鳳凰翼!」


***************


 負けられないのは私だって同じだ、スターゲイザー力を貸して!


「これで終わりだ! 七星槍術奥義、七星鳳凰翼!」

 炎の鳥に姿を変えたゼストが迫り来る。

 私は腰を深く下ろしながら槍に炎を纏わせ、柄の方を前にして向かってくる炎の鳥を見据える。


 そこだ!

 鳳凰翼の一撃を柄尻で受け止め流し込み、すれ違いざまに槍を回転させながら一気に刃で切り裂く。

「紅蓮、風神槍!」

 たった数日だったが、私が扱えない技をローズさんから教えて貰った。

 その結果わかった事だが、私は別に技術が足りなかった訳ではなく、ここぞという時に力のみに頼る癖が身についてしまっていた。その為細かな動作が必要な連続攻撃や風神槍のように見極めが必要な技が使えなかった、それさえ克服すれば私の技はローズさんに匹敵し炎の力で上回る。


「ぐはっ」

 後ろの方でゼストの苦しむ声が聞こえる。

 私の刀身は確かな手応えを感じていた。


「お見事です……」

 ゼストの体は深く切り裂かれ、血を吐きながら辛うじて立っているのがやっとの状態、誰がどう見ても助からないのは明らかだ。

「これで私の役目を終わりです……さぁ止めを」

「騎士ゼスト、後の事は任せなさい」

 このまま放っておいても生き絶える事は分かっている。だけど、このまま苦しみ続けるならばせめて……

 私は槍の刀身を上から下へと一気に振り下ろした。

「父上、先に行っております……」

 崩れ落ちる彼を受け止め、そっと地面に横にする。


「聞きなさい勇敢なるウエストガーデンの騎士達、ゼスト・ウエストガーデンは見事その役目を終え旅立ったわ、これより槍騎馬隊ランスナイツは全て私の配下とする。最初の命令は我らが砦へと向かう為の道を開け!」

 私の高らかとした宣言に誰一人として反発する事なく、騎士団が見事に左右に分かれ砦までの道を開く。


「行くわよミレーナ」

「はい、ローズさん」

 ローズさんが持ってきたマントをゼストに掛け、再び馬に跨りながら砦へと向かう。

 私とローズさんを先頭に、準さんと雫、そしてカリナと数名の騎士だけを連れて大勢の騎士達に見守られながらゆっくりと進む。残る戦いは叔父との対決だけ、恐らくゼストと同じように一騎打ちを挑んでくるだろう。

 槍の腕は星槍を操る父より上だという事は分かっている。果たして私一人で倒せるのかは不安だけれど、この領地を解放する為には避けては通れない道である。

 お父様、どうか私をお護りください。

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