第12話 プレデミー領奪還作戦

「シルメリア!」

「いきます! 雷雲奏でる白き電光 大地に振りそそぎ 全てをなぎ倒せ 稲妻の天災ライトニングディザスター!」

 丘の上から帝国軍営目掛けて何本もの稲妻が降りそそぐ。


「突撃!」

 私の掛け声と共に正面と左右から一斉に敵軍目掛けて突撃する。

 構成は騎馬隊を全面に配置し、後方から弓騎馬隊が援護している。そして正面には私、左翼にアドル、右翼はセレスティナがそれぞれ指揮を取っており、クラウスは現在別働隊を指揮しながら街の占拠へと向かっている。


 ここプレデミー領には街を守る防壁はない。街の中央に位置する領主館には侵入を防止する塀はあるが、それはあくまで防止用であって防衛用の仕様にはなっていないのだ。その為帝国軍は街から出て草原にて戦闘をしなければならなく、私たちが敵を引きつけている間に領主館を制圧するべくクラウスが先行していると言う訳だ。


「どきなさい、紅蓮槍ぐれんそう!」

 向かってくる敵兵に、私は槍を回転させながら刃に灯った炎で、敵の武器ごと炎の渦に巻き込む。

「雫とカリナはシルメリアに敵を近づけないで。シルメリア、思いっきりお願い」

「「はい」」

 私の指示で二人が左右に分かれて防衛にあたる。シルメリアは無言で頷くと小さな言葉で詠唱に入った。


三角の雷光線トライアングルレイ!」

 空中に現れた三角錐の光から、細長い雷の閃光が帝国塀兵に降りそそぐ。

 彼女の家系であるサウスパークには、私達の公爵家と同様に聖戦器の一つが受け継がれており、四大公爵家が保有する中で最も魔法を得意としている。

 現在聖戦器を保有しているのは彼女の姉であるアルメリア公女らしいが、度重なる帝国軍の攻撃によって奪還した街を奪い返され、人里離れた砦で息を潜めているんだとか。






「話は分かったわ、でも今の私たちには援軍を出せる余裕はないのよ」

「そんな……」

 彼女にとっては命がけでここまで来たのだろうが、今ここで援軍を出すとなると奪還作戦が手遅れになってしまう。もしここで奪還作戦を中止にして援軍に駆けつけたとしても、肝心の帝国領との国境を抑えない限り、いずれ数の差で捻り潰されてしまう。この作戦は言わばレガリアの命運が掛かっているとも言える戦いなのだ。


「助けてあげたいのは山々だけど、せめてこの作戦が終わるまではむずかしいわね」

「それじゃこの作戦が終われば援軍を出してもらえるんですか?」

 セレスティナは気休めの感じで言ったのだろうけど、困った表情でこちらを見てくる。

 いちお指揮官は私だからね、彼女の判断では軍は勝手に動かせないから助けを求めているんだとう思けど、正直約束は出来なのが実情だ。


 この作戦で負けるつもりは毛頭ないが、こちらも相当な被害は覚悟しないといけないだろうし、スザクを奪い返した後はそのまま将軍の部隊と戦闘中の帝国軍に、背後から攻撃を仕掛ける事になっている。

 それに北東にはまだ叔父が支配しているグレアム領と無傷の部隊が存在しており、防衛の手を緩めるわけにもいかないのだ。


「約束は出来ないわね、でも助けたいのは私も一緒よ。ここにいる者は皆んな同じ経験をしてきたのだから、気持ちは皆んな一緒なの……でもこの地を奪い返し、防衛する意味は貴方にもわかるでしょ? ここを帝国が抑えられている限りレガリアに勝利はないわ」

「……」

 残酷なようだけど一時の感情で軍を動かすわけにはいかない。彼女も、彼女の姉もその事は分かっているだろう。


「……方法が無いわけではありません」

 気まずい沈黙の中、将軍が考えながら答えられた。

「本当ですか!?」

「いや、これはある種の賭けのようなものになるのですが、噂ではランスベルト王子の軍が現在ノースランド領でジークハルト様の軍と合流しているようなのです」

 ノースランド……たしかにプレデミー領を制圧できれば合流できる可能性はある。王子か公子に一時この地の防衛をお任せ出来ればアルメリア公女の援軍に駆けつける事も出来るだろうが、果たしてお二人がどこまでノースランドを解放されているかまでは分かっていない。帝国は各領の間に検問を立てているせいで、領地間の情報が中々伝わってこないのだ。


「確かに王子達の軍と合流出来れば援軍に駆けつける事も出来るけど、可能性としは低いわよ」

「でも少しでも可能性はあるんですよね! だったら私はその可能性に賭けてみたいです」

 僅かな可能性か、そういえば私が今日まで生きてこれたのもその僅かな可能性の積み重ねだったわね。


「……分かったわ、もし合流出来なかったとしても出来るだけ早く体制を立て直して援軍に駆けつけるわ。それまでお姉さんの力になってあげて」

「いえ、この作戦が成功しなければ援軍も出せないんですよね、それまでは私も及ばずながらお力添えをさせて頂きます。お姉さまのようには行きませんが、これでも魔法の心得はありますので」






泥の大地グランドマーシュ!」

 シルメリアの言葉と同時に大地が泥沼と化し、敵の騎馬隊の足を止める。そこに弓騎馬隊の一斉射撃が降り注いだ。


 魔法の心得があるね、年下なのに私より強力な魔法を幾つも唱えている。お陰で敵の陣形が崩れてしまいこちらが有利な戦いになっているのだ。

(私も負けていられないわね)

 迫り来る三人の敵兵に槍の横一閃で弾き飛ばすと、さらに背後から二人の敵兵が迫ってきた。

紅弾槍こうだんそう!」

 赤く染まった刀身を天に掲げ、飛び出した赤い閃光が空中で反転して大地に降り注ぐ。

 私はそれほど魔法が得意では無い。だけど槍術なら!


「ミレーナ、余り前に出ないで。貴方は私たちの指揮官なのよ」

 いつの間にかセレスティナが背後に回ってカバーをしてくれていた。

「分かっているわ、だけどここで頑張らないでいつ頑張るのよ!」

 向かってくる敵兵を私と二人で斬り伏せる。

 信頼できる仲間に背中を預けられるっていいものね。まるでローズさんが近くに居てくれているような気すらしてくる。


「報告します! 西方面より敵兵1000騎確認との情報、間もなくこちらに現れるとの事です」

「何ですって!」

 近くにいたセレスティナも驚きの表情が隠せないでいる。今はこちらが押しているとは言え。このまま背後から攻撃を受ければ一溜まりもない。

 西からという事は恐らくスザクに留まっていた3000の部隊の一部であろう、まさかこちらに一部を回してくるとは考えていなかった。今すぐ部隊を向かわせなければ手遅れになってしまうだろう。


「私が行くわ、ミレーナ達は制圧を急いで」

「待ちなさい、セレスティナの部隊だけでは持たないわ」

「だからと言ってこのままにはしておけないでしょ、貴方は今やるべき事を優先しなさい」

 それだけ言うと一軍を率いて西へと駆け出していった。

 私はまた繰り返してしまうの? 私はまた大切な人を……

「しっかりしてください、まだ間に合います。一気に殲滅をしてセレスティナ様の援護に駆けつければ救えるんです!」

 深い闇に落ちかけていたとき、カリナが大声で声をかけてきた。

 そうだ、まだ終わっていない。ここで諦めたらあの時と何一つ変わっていないじゃないか。


「ごめんなさい、まだ間に合うのよね」

「そうです。まだ誰一人諦めていません」

 皆んな戦いながら頷いている、そうだどんな困難な状況に陥ろうがあの人は諦めなかった。

「一気に殲滅するわよ!」

『『『『おーーーーっ!!!』』』』

 私の掛け声と共に、再び解放軍の士気が高まるのだった。

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