創造世界の英雄達・釣鐘 鈴々・


 裏ノ界 W.E本部正門玄関前広場


 W.E本部の正門には「創造世界一の戦乙女ヴァルキュリアがいる」という伝説が(勝手に)言い伝えられている。


 ある時は戦場を一騎駆けし、万の軍を一網打尽。またある時は世に終焉を齎す天災も覆して安泰を齎す。その勇姿はまさに生きたジャンヌ・ダルク。


 質実剛健、才色兼備、将来有望たる戦乱界の超新星が創造世界を股にかける――



「それがこのわたくし釣鐘つりがね 鈴々りんりんでございますわー!」



 剣を高らかに掲げる騎士像と重なるように、天に指さして叫ぶ少女が一人。


「鈴々さん……! とっても素敵なのです!」

「私、昨日初めてW.Eに入隊したので、こんな凄い方が門番を務めていたなんて知りませんでした!」


「オーッホッホッホ! 驚くのも無理ないですわ! 何せ私『全異世界戦う美少女は好きですかコンテスト』優勝! 『戦乙女一番会会長』並び『全異世界オリジナリティー女性キャラグランプリ』優勝をしておりますので、今後至る所で私の名前を耳にすると思いましてよ? よく覚えておいた方がよろしいですわ♪」


 釣鐘 鈴々――至る所に煌びやかな鈴を飾っている以外、見た目は黒ニーソとブレザー付きの学生服を着たごく普通の少女。最大の特徴は小憎たらしいお嬢様口調。見た目で言うなら鈴で結った翠色のツインテールが二倍のフォーステールと、不釣り合いな丸メガネ。そしてその背中に背負ってある巨大な銅の釣鐘だ。

 そんな彼女は「頑張れリンリン!」という現界の学園物ギャグ漫画で生まれた主人公である。


 青年コミック誌に連載されたと同時に創造世界の一つ戦乱界に生まれ、手始めに戦乱界の世界征服を狙ったが(見向きもされず)、いち早くこの弱肉強食な世界の仕組みを理解し、裏ノ界へ移住。W.Eの英雄連合に参加することで、更に大規模な世界征服を(懲りずに)画策している。

 彼女の日々の仕事は、奇襲を掛けたりする異品から本部を守護する門番。今は二十人ほどの新人隊員達の前で、今日までの武勇伝を演説し、彼らの注目を一身に集めているところだ。


「それにしても、どうして鈴々さんが門番を務めているのです? 鈴々さんくらいの実力なら門番とかじゃなくても、長官さんの護衛とかに立ってもいいと思うのです!」

「ちっちっちっ……甘いですわね。新人さん」


 鈴々が両手でブレザーを広げ、これ見よがしに出したのは、様々なデザインを象った光り輝く勲章やバッジ。目測でも200はいくだろう。しかし隊員達の目にはそれが何なのかは分からない。

 その内の一つを指差して、語り出す。


「これを見てくださいまし。『全異世界門番グランプリ』の特別賞を受賞したこの私から言わせてもらえば、門とは昔から来客を丁重に迎えるために用意された場。他人と出会った際、初対面の相手に良い第一印象を持ってもらうにはまず見た目であるように……巨大な組織も機能をするためには、門を荘厳且つ神聖な場として整えなくてはなりませんわ。ですがその必定の反面、W.Eには敵が多過ぎるが故、ジャスティ長官は人材を適所に配置しているんですの」


 プライドが高すぎる鈴々はナンバーワン以外を認めない。たまに他の異世界へ回ってはコンテストや大会などで優勝し、こうして勲章やメダルを掻き集めているらしい。一応その実力だけは長官に買われているようだ。


「戦争でも門を潜られたら、本丸は崩壊の危機を辿る……それ程にまで門番は重要な拠点! だからこそ、この役職に相応しい実力も美貌も兼ね揃った釣鐘 鈴々でなくては、正義の門は守られないのですわぁ!!」


「おおぉ……すごいのです!」

「私、鈴々さんみたいな人になれるよう頑張ります!!」

「鈴々さん尊敬します!!」


「オーホッホッホッホッホッホッ――!!」


 ……拍手喝采。天を仰ぎ高らかに笑う鈴々を、自惚れるなと罵る者はいない。

 いや強いて言うと、筆者はお嬢様キャラが嫌いである。彼女をここまで表現するために地の文を考えるのもなかなかしんどいし、正直彼女専用のエピソードなんて必要ないし、本編から消してもいいんじゃないかな。


 ……これは失敬。


「いやぁ〜、それにしてもW.Eに入って良かったよ。鈴々さんも相当すごいけど、最近結成されたW.Eのっていうのも、もっとすごいって評判じゃん? 門番にだけでこれだけの実力者を駐在させるんだから、噂通り裏ノ界は安泰だね!」

「えっ! それって何の話なのです??」


「オーホッホッホッホッホッホッ……! ホ……?」


 新人隊員達の会話を小耳に挟んだ鈴々。テレビやラジオ、スマホなどは下賎者が頼る庶民器具としか思ってないため情報に疎く、特別という単語に敏感に反応した。


(特別チーム……?? 何ですのそれ食べれるの? 初めて聞きましたわよ……)


「ほら、巷で話題の……! 現界から来た人間が混じった異品鎮圧チームだよ!」

「あぁ! あの道化英雄ジェスター・ヒーローっていう人間の少年か!!」

「それ知ってる! アイナさんや守凱大隊長だけじゃなく、あの伝説の紅蓮魔ヒバチさんや白蓮華つららさんと、現界でちょっと注目された美影乱狐とで結成されてるチームだよね!?」



「――っほぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」



「「「うわぁっ!?」」」


 鈴々から乙女らしからぬ声が響き、全員が驚愕。彼女がわなわな震えているのは、今の会話の中に聞きたくなかった人物の名前があったからだ。


(ままままま……まさか! あの憎っくきじゃりんこビッチ……美影乱狐が! まさかW.Eの……しかも長官が直々に召集し、結成した特別チームなんてものに所属してるですってぇぇぇ!?)


 乱狐と鈴々は同じ戦乱界出身。現界では双方の原作は、ほぼ同時期に雑誌に掲載され、その好評ぶりは乱狐の方に軍配が上がっていたそうだ。


(あのビッチぃ……! ちょっとこの私より乳がデカビッチだからって……! こんな番犬じみた仕事しか与えられてない私よりも遥かな出世など……断じて許しませんわ! それに道化英雄なんてポッと出の人間なんかにも、私の地位を危ぶまれてたまるもんですかッッッ!!)


 実際のところ、彼女にこの門番という役職を与えられたのも、長官に煙たがられてのことだとは……知る由も無い。


「あれ? 鈴々さんどちらへ??」

「ご機嫌よう皆さん♪ ちょっと用事を思い出しましたので、ここの番を少しお願いしますわ」

「でも門番は重要の拠点って――」


 しわくちゃな顔で歯軋りしつつ、ガニ股でズカズカと歩く鈴々の行き先は、言うまでもないだろう長官室である。


 釣鐘 鈴々――彼女は戦乱界一、野望に燃える(器の小さい)戦乙女である。



 * * *



 P.S 筆者はお嬢様キャラが嫌いです。マジで。語尾にですわとかホント無理だわ。マジ

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