第24話*壱_狼燧
――第四永久動力炉の侵入者は、施設内部の研究員を含む数名を殺害。その後、永久機関を守護する
その言葉を聞いて、室内は再び沈黙に包まれる。
「……で、そのセンチネルってのはなんだよ」
「わからない」
「……は?」
ダルシスのその言葉に、アシモは戸惑う。
「私がセンチネルについて知っているのは、永久機関が擁する防衛機能らしいということくらいだ」
「仮にも元王子が国家の重要機関についてそれしか知らないなんて、どうなってんだよこの国は」
「アンタ、ちゃんと脳みそついてる?」
苦言を呈すアシモに、フレイが噛み付く。
「今まで永久動力炉に、外部の敵意をもった人間が接触したことがあると思う?今回が初めてなのよ、
「そういうことなんですか?」
ハルトがそう訊ねると、ダルシスは静かに首肯した。
「少なくとも私はその存在を名前でしか知らなかった。今回のように永久機関に接触したものを、私は数名しか知らない」
「数名は知ってるのかよ」
「ああ。目の前にいるからな」
その言葉を聞いて気づく。自分たちがその接触者なのだと。
「それも知ってんのかよ」
「サーペントから聞いている。第七永久動力炉に接触し『異能の力』を使って、防衛装置を破壊した者がいると」
「じゃああの怪物は、永久機関の防衛機構だったのか……」
第七永久炉内で牙をむいた巨大な大蛇。それが、永久機関の防衛反応だったのだろう。
「そういうことだ」
どうやら第七永久動力炉で起きたことを、ダルシスはすべて把握しているようだった。
「ハルト。君のその力の源はなんだ」
「え……?」
唐突な質問に、ハルトは言葉を詰まらせる。
「急な質問ですまない。だが、君と同じ力を今回の侵入者は行使していた。それが分かれば、我々が相対している敵が何者なのかを掴めるはずだと、私は考えている」
「僕と同じ力を……」
「待て。どうしてハルトと同じ力だと断定できるんだ?あの
アシモが不思議そうに身体を見回しながら言う。
「え、ちょっと待って。アシモに何かあったの?」
「ああ。その侵入者とやらに身体を破壊されかけた。流石に死ぬかと思ったぜ」
アシモはなんでもないという風に笑って見せたが、額に浮かんだ汗の粒をハルトは見逃さなかった。
「アシモ……」
このままではアシモも自分も、いつ殺されるか分からない。
「ダルシス様、ここは安全だと言いましたよね?」
「ああ。不確実ではあるが、ここが現状身を隠すのに最も良いと判断した」
「でもこうして何者かの侵入を許しています。侵入経路は特定できてますか?」
ダルシスを信用していないわけではない。だが、こうして内部の人間が殺され、アシモにも危険が及んでいる。見過ごすわけにはいかない。
「不明だ」
「……」
何か明瞭な回答が得られると思っていたハルトは一瞬耳を疑った。
「どこからこの永久動力炉に侵入したのかは定かではないが、施設内部の映像にそれを推測するだけの手掛かりはある」
そういうとダルシスは空間にモニターを表示させる。
「これは……」
画面に映る白い髪の少年。それが手を横に一閃するだけで、人間が両断される。
「酷い……」
事態を静観していたセプティが堪らず声を漏らす。
モニターに映る白髪の少年が、
「……なるほどな。この力、確かにハルトのものと似ている」
アシモはそういうと画面を指して問う。
「これ、音声はないのか?」
「残念だが、残っていたのは映像だけだ」
ダルシスが答える。
「この人、なんだかすごく見覚えが……」
今まで感じたものより遥かに強い既視感が脳を突き刺す。この少年は……。
「じゃあ要するに、こいつはこの施設の何処からか、この異能を使って侵入して、俺たちと遭遇したってわけか?」
「おそらくは」
アシモの推測は恐らく正しい。しかし得体の知れない違和感が、この身を蝕んでいるのが分かる。
「……」
言葉にできない。この既視感や違和感の正体が何なのか、ハルトには分からなかった。
「で、この後こいつはどうなったんだ?」
「第四永久動力炉付近の生体反応は消えている。センチネルによる防衛状態も解除された。そのことから鑑みるに、この少年はもう……」
「死んだ、か」
謎は深まるばかりだが、現状の脅威は去ったことになる。
「でも、なんでこいつに触れられて俺は無事でいるんだ?映像を見た限りじゃあ……」
「それは私も疑問に思っていた」
ダルシスは手元のモニターの映像を巻き戻し、職員が両断される寸前の瞬間を表示させる。
「この少年の能力は物体を切断するなんていう生易しいものではない。この映像を見る限り、対象を破壊——あるいは分解するものだろう。原理こそ不明だが……」
視線をアシモに向けてダルシスは続ける。
「あの瞬間——君があの少年に触れられた時のことだが、あれは少し不可解なことを言っていた。『何故お前は壊れないのだ』とな」
「確かにそんなこと言ってた気がするな……。ん、てことはどういうことだ……?」
「要するに、あの少年も君が分解されなかった理由が分からないのだろう」
「はは、要するに俺にも戦う力はあるってことだな」
アシモは少しふざけて軽口を叩く。
「戦う力か……」
ハルトが呟く。
「ダルシス様。僕たちの敵とは一体何ですか?僕は、何と戦えばいいんでしょうか……」
もう自分には分からない。何をすべきで、何を為すべきなのか。この異能が向かう先が、自分には分からない。
「それは――」
その時だった。
――『認識可能域に艦影あり。現在、当施設に向けて前進しています。所属はルクス国防軍と推測』
室内に音声が響く。
「お、おい。まずいんじゃないか?」
「……待て。この反応は――」
ダルシスは目の前のモニターを切り替える。
再び画面の映像が切り替わると、そこには見覚えのある女が映っていた。
「……!」
「こいつは……」
冷たさを感じる端麗な顔。華奢な体を包む重装。
その姿は間違いなく第七永久動力炉で遭遇した、あの軍人のものだった。
――***——
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