幕間 紅い青年と緑の竜兄貴
BRIGHT SUNSHINE
なんて綺麗なんだ、とベンジャミンは率直に思った。
巨大な《アンノウン》の動力炉部分を貫いた紅い一閃はとても温かく、そして眩しかった。奏備は装着する者自身を体現する。彼のそれは正しく『太陽』であった。
しかし今は見惚れている場合ではない。
「指令室、応答せよ!アイツが飛んで行った座標を送ってくれ!今直ぐに!」
彼はギアの発動に成功したが完全に使いこなせているわけではない。
突然手渡された代物がどのような機能を備わっているのかさえ全く把握していない状態だ。
このままでは真っ直ぐ地面に激突してしまう。そんな最期を迎えてなるものか。
『予測地点、解析完了。座標、送信完了。』
桃花の無機質な声がヘッドギアに届けられる。
ベンジャミンはヘッドギアを操作してバイザー型のアイシールドを展開、送信された座標データを小画面に表示する。
落下地点を確認するや否や、彼はその方角に向かって出せる力を無理やり振り絞って飛び立った。
「ベン、何処に行く!?」
「悪い、リーダー!アイツを回収しに行く!」
シオンの制止を振り切ってベンジャミンはその場を飛び去る。
どんどん小さくなっていく緑色の光を呆然と眺めた後、シオンは白く変色した巨大な《アンノウン》に視線を移す。
「いったい、どうなってる?説明しろ、バト。」
振り向かずに訊ねると何処からともなく拍手に似た金属音が暗い空間に響く。
音源を辿って振り返れば突如として鋼鉄の執事が姿を現した。
「さすがです、シオン様。ステルスモードの私に気付くとは、お見事です。」
「ドクターは私の大事な友をさぞお気に入りのようだ。私や他のメンバー達に黙って何を企んでいる?」
シオンはバト、そしてバトを通じて一部始終を観測していた灰沢に問い質す。
何重もの段階を踏まずに急拵えのギアを発動させただけに止まらず、あの何処の馬の骨とも分からぬ一般人が奏備を纏ったのだ。ご都合主義にも程がある。
『シオンくん、そんな怖い顔しちゃダメだよ~!』
折角勝てたんだから、と唐突な通信とともに水を向ける灰沢にシオンは顔を顰めた。
『シオン、言いたいことは十分に分かる。でも、あの状況でエミリアとヴァネッサに合流が可能だったの?』
通信を混線させてミランダが彼らの間に割り込んだ。
「さすがに偶然過ぎる。まるで用意されたシナリオを辿らされているようだ。」
『そう思うのも仕方ないさ。でも彼は其処に居たし、その彼にはスピリチュアル・サウンドを持っていた。それだけの話だよ、シオンくん。』
苦言を呈するシオンに灰沢は悪気なく返答した。
「灰沢様のおっしゃる通りです、シオン様。」
「たとえそうであったとしても僕達だけで勝てた!」
「旭様がいらっしゃらない今のcolorsでもですか?」
バトの問い掛けにシオンは口を閉ざす。自分達の理解者である彼から発せられた言葉はインプットされたものではない。バト自身の本心だった。
バトが自分の言葉を認識して、そう発言するように機能の一つとして備わっていたならば嫌悪と激怒を露にしただろう。
しかし真っ直ぐ見据えるライトシアンのオプティックが嘘偽りなく尋ねている。現状を判断した上でおっしゃっているのですか?と。
シオンは深呼吸するとバトや灰沢、そしてミランダに向けて静かに告げる。
「アサヒがいれば、と思う事は沢山あった。僕じゃなくて本当のリーダーである彼なら被害は最小限だったんじゃないか?って。それでも今まで勝ってきた。」
『確かにこの三年間、《アンノウン》の脅威からチキュウを守るため苦戦を強いられてきたわ。でもね、』
ミランダの口調が厳かになる。
『これは星と星に住む人々の命運を賭けた【戦争】なのよ。
何処に行ったか分からない人間をいつまでも思ってる場合じゃないのは分かるでしょ?』
冷酷な仕打ちであるのを承知の上でミランダはシオンに言い放つ。
colorsに正式なリーダーが居たように司令官も正式に就いていた人間が居た。その彼も同様に行方知れずとなり、当時副官だったミランダが現在司令官に就いている。
様々な星の価値観が取り入れられた結果、新しい多様性が紡がれても過去の経歴や性別を理由とした差別が完全に無くなったわけではない。
シオンがcolorsのリーダーとして苦しんでいるようにミランダも司令官として苦しんでいた。
(『あの人』ならどう判断したのだろう。)
決して打ち明けてはいけない胸中を覚られないように奥底へ沈めながらミランダが言葉を続けようとした時である。
『おいおい、司令官殿。こんな時くらい重苦しい話よりもうちのリーダーを労うのが最優先じゃないのか?』
〇 〇 〇
あまり厳しくしないでくれよ、と張り詰めた空気を一掃する緑色の呼び掛けにシオンのヘッドギアにも指令室にも響き渡る。
その快活な声にミランダは深く溜め息を吐き、指令室に漂い始めていた緊張が和らいでいく。
「まったく、アンタは直ぐ話の腰を折るわね、ベン。」
『そんな怖い声でお叱りすりゃあ、聞いている周りが畏縮しちまう。』
問答無用で折らせてもらうぜ?と告げるベンジャミンにミランダは苦笑する。
彼、そして彼の妻とは長い付き合いである。立場上、堅実で厳格にあるべきだと意識する度に緑色と金色の夫婦が凝り固まった自分の心と思考を解してくれた。
目に見えない理不尽を『愛しい灰色の彼』が一緒に立ち向かおうと肩を並べてくれた。
金色の彼女も灰色の彼も今何処に居るのか見当が付かない。だが憂いている暇など無い。ミランダは深呼吸をすると心に下ろしかけていた黒いとばりを払って前を見据えた。
「シオン、先ほどの発言については謝罪します。言いたいことは帰還次第、聞きましょう。」
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