第94話 人間の神

 


  紗里子の意思で俺達は『人間界の神』になる事が決まった。

  しかし、『神になる』ったって具体的にどうすれば神になれるんだろう、と俺は不思議だった。


  心で念じればなれるのか。



  「パパ、百達が寝た後で計画を実行に移しましょう」



  紗里子が、いつものヌードを描いている最中に提案した。紗里子の身体は相変わらずホクロ1つ無く、滑らかな曲線を醸し出していた。しかし胸や腰の辺りは『女』になりつつあり、それが画家としての俺には難しかった。


  誰だったかな、前好きだったお笑い芸人が「胸がプックリ膨らんできたら年齢は子どもでもそれは『御賞味をどうぞ』って事なのだ」とかぬかしたふざけたヤツがいた。


  身体は大人でも精神は子どもなんだから、将来その子のトラウマや黒歴史になるに決まっているだろう、馬鹿か。自殺するかもしれんぞ。こういうヤツは恥ずかしい。


  かと言って紗里子は、


  「将来パパのお嫁さんになる!!」


  とずっと言い続けていたからどうしたらいいのか分からなかった。



  「紗里子、今晩なのか?」


  色を塗りながら『娘』に問うと、


  「うん! リリィ・ロッドもそうしろって言ってる!! つまり、私の『お母さん』が勧めてるって事なのよ。今晩は満月だし、素敵な夜になるわ!」


  「そうか……」


  俺は、『人間』としての最後の仕事をしている訳だ。



  そして『最後の晩餐』も終えて。

  百とサマンサは寝てしまった。

  でも、これでお別れじゃない。

  存在を二分した俺達が、朝が来ればいつも通り家族として生活する事だろう。


  魔法少女に変身した紗里子は、俺の手を握って目を瞑り、こう囁いた。


  「パパ、これはきっと運命なのよ。パパがあの時魔法少女になってしまった事も、神になる事も」


  「…………」


  俺はどう返事をしたらいいのか分からなかった。女の子は『運命』という言葉が好きだな。

 

  ただ一つ言えるのは、紗里子が俺に向けてくれている愛情に感謝していた、という事だ。永遠の命を持った今でもしている。


  ーーと。


  俺の口から、自分でも分からない呪文が飛び出してきた。



  「パルス」



  某ジブ◯映画のワンシーンに似た呪文だった。あの監督も神の候補だったのかもしれない。



  ーー等と考えているうちに。



  俺と紗里子の身体は内側から蒼い光を発し、ーー肉体が無くなった。


  気付けば、俺達の『意識』は地球上を覆っていた。


  見える。

  人々が。動物が。鳥が。虫が。

  彼等の過去と現在、未来が知覚できる。

  今まで救ってきた人達の未来も。



  と、紗里子の意識と繋がっている事が……いや、溶け込んで混じりあって一つになっている事も知覚できた。言葉には出来ないが、紗里子の意識もまたそのように感じていたのが分かった。


  そうか、これが人類補完計画ってやつか。やっぱりジ◯リ卒は優秀というか変質者なんだな、と神になった俺はそんな人間らしい事を思った。


  [パパ。日本だけじゃなくヨーロッパの人も助けに行こう]


  紗里子の意識がそう語っているように感じられた。でもなんでヨーロッパ?


  不思議に思っている俺がヨーロッパの方向に『知覚』すると、そこには何百万の数のユダヤ人が殺される場所があった。

  アウシュビッツだった。


  [あの人達が生きていたらどんな未来が待っていたかしら]


  紗里子の意識がそう言っているように感じられた。

 

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