第24話 悪魔との対談

 


  無残にも遺体となった少女の近くから巨大な頭部をせり上げてきた『ルシフェル』は、とうとうその全貌を明らかにした。


  その姿はどす黒く、七色の釣り上った目を持ち頭部には2本の角が生えていた。透明かつ巨大な羽。

  そして、地の底から響くような声で、


  「呼ンダノハ、オ前カ」


  と、Aに向かって言った。


  「おお、これが……『ルシフェル』……!」


  男Aは感激に打ち震え、『ルシフェル』の様子を見守っている。

  冗談じゃない。俺は叫んだ。


  「おい、てめえが本当にルシフェルなのか!? こんなショボい奴の相手してる暇があるんだったら俺の身体を元に戻せ!! それと紗里子の両親を返せ!!」


  「……サリコ……?」


  その『ルシフェル』は不思議そうに問う。

  Aは俺を押しのけて、『ルシフェル』に近づいた。


  「おお、ルシフェルよ。本当に来てくれたんだな。生贄は揃った。さあ、この俺に汝のチカラを与えよ!!」


  『ルシフェル』はバカみたいにまた繰り返した。


  「サリコ……?」


  どうやらコイツは紗里子の事を知っているらしい。それは紗里子自身が有名だからなのか、それとも俺の『娘』だからか。

  しかし今はそんな事は問題ではなかった。

  遺体となった少女の命を再度吹き込まねば。


  「私ハ、ルシフェル様デハナイ。蝿ノ王、ベール・ゼバブ ダ」


  ベール・ゼバブ。

  よく呪文の中に出てくる単語だが、悪魔の名前だったのか。知らんかった。俺はコイツの加護も受けていたんだな。

  Aが絶望に似た声で叫ぶ。


  「おい、ルシフェルじゃないのか!? 話が違うじゃないか、俺は確かにルシフェルの名を呼んだぞ!?」


  しかしこいつはそれでも食い下がった。


  「……でも、まあいい。お前も上級悪魔なんだろ? 俺にチカラを与えてくれよ。生贄は揃えたんだ!!」


  俺は、とりあえずこの悪魔がルシフェルではないらしい事にホッとし、自らを名乗った。


  「俺の名前は昂明護。魔法少女名は『マミ』だ。ルシフェルの配下なんだったら知ってるだろ」


  「昂明……マミ……? 『昂明マミ』様ダト!?」


  ベール・ゼバブは驚きの声をあげた。

  どうやら俺がコイツの親分であるルシフェルから祝福を受けた魔法少女である事を知っているらしい。

  それはレイの母親に聞いての事かもしれない、魔女と悪魔は繋がっているんだ。


  ベール・ゼバブは俺に慇懃な程丁寧にお辞儀をして、答える。


  「コレハ……失礼ヲ……昂明マミ、様……。知ラズ二失礼ヲ致シマシタ……」


  Aは何が何だか話が分からないらしく、アタフタとしていた。


  「おい、お嬢ちゃん。お前一体何者なんだ!? なんでこの悪魔がお前の事を知っている!?」


  「俺にもよく分からん」


  ーーそれよりも。


  「おい、ベール・ゼバブ。この少女の命を元に戻せ。息を引き取ったばかりだ、生贄を生き返らせるくらいお前にも出来るんだろ?」


  「ハッ。仰セノママニ!」


  ベール・ゼバブは俺に再度お辞儀をして少女の頭部にそのデカい爪を当て、何事かを呟いた。

  まるで俺の命令に従わなければルシフェルに酷い目に遭わされる、といった体のようだった。


  それはそうだ、コイツはさっき俺が唱えた生き返りの呪文を無視したのだから。

  ルシフェルの加護を受けた者の命令は絶対だ。


  「う……うーん……」


  少女が呻き声を上げ、再生した。

  良かった。

  しかし驚いたのはAだった。


  「い、生き返……!? ベール・ゼバブ様、俺にチカラは……!?」


  何ともしつっこい野郎だ。

  俺はベール・ゼバブに命令した。


  「そして、この男は地獄にでも送ってやってくれ。何人も人を殺したんだからな」


  「じ、地獄……!?」


  Aが死にそうな声をあげた。まあ死ぬんだけど。


  「ハッ、仰セノママニ」


  ベール・ゼバブはAの首を片手で持ち上げ、炎で一旦軽く炙ってから地中にズブズブとめり込ませた。


  「あ、熱い、熱い!! う、うわああああ!?」


  断末魔とはこういう声を指すんだろう。

  Aは苦しみもがきながら地獄へと旅立って行った。

  もはや生き返る肉体すら持たない他の被害者達の事を思い、俺は「ナンマンダブナンマンダブ」と日本式のお経を唱えた。


  それにしても今日は本当に紗里子を連れて来なくて良かったな、とホッとした。

  こんな残酷なシーンを紗里子に見せる訳にもいくまい。


  そして俺は悪魔に問うた。


  「ところでベール・ゼバブ、ここに『ルシフェル』を召喚する事は出来ないのか」


  俺が一番会いたいのはルシフェルだ。

  何しろ俺が『最強の魔法少女』の姿を解けないのはアイツーー会った事は無いがーーのせいなんだからな。

  しかしベール・ゼバブは申し訳なさそうに言う。


  「ハッ。昂明マミ様。私ノ階位デハ、ルシフェル様ヲ呼ビダス事ナド畏レ多ク……!」


  悪魔にも階位があるんだな。Aくらいの雑魚キャラでは下っ端悪魔を呼び出すくらいがせいぜいだったと言った事らしかった。


  でも俺はいずれ必ずルシフェルに会うぞ、と誓った。紗里子と人間界の為にもな。



  連続殺人事件の真相については謎のままだ、と今日もニュースでやっている。


  ただ、あの生き返った少女が警察に連絡し、自分が犯人と繋がっていた事がある、他の被害者達もそうなのではないか……という線で解決を図っているらしかった。


  肉体ごと地獄に引きずり込まれたAがこの世に戻ってくる事などもう2度と無いだろう。当然の報いだ。


  「パパ、何かしたの?」


  紗里子がまるで何かを勘付いているかのように俺に問う。


  「まあな」


  それを聞いた紗里子は感激したらしく、


  「あの事件を解決させるだなんて凄いわパパ! やっぱりパパは『最強の魔法少女』なのね!!」


  とワクワクとした賞賛の笑みを送ってくれた。

  まだ、何も終わっていないのに。


  俺はますますルシフェルに興味を持った。

  ベール・ゼバブのようにいかにも悪魔然としたヤツなんだろうか。

  神話に出てくるルシフェルは堕天使だという事らしかったが……。

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