第11話 「最強」の魔法少女になった
レイと呼ばれたその『魔女』の女の子は、
「みんな、今日は来てくださってありがとう!! さあ、中に入って!!」
と叫び、大勢のお客達ーーほぼ全員魔女か魔法少女だろうーーを、誕生日パーティーが開かれようとしている部屋の中に招き入れた。
広い会場の中には本物の火が煌々と灯ったシャンデリアが吊るされていた。
もちろん、誕生日パーティーという事で食べ物や飲み物がブュッフェ形式でズラリと並べられていて、壁際には見た事も無いような可憐な花が沢山飾られていた。
「私達の友達、レイの13歳の誕生日を祝って、カンパーイ!!」
見ると、先程紹介された赤い瞳の魔女、キーキが乾杯の声を挙げていた。
たちまち、友人達に囲まれるレイという娘。
13歳なのか……。魔女というから外見は若くても『113歳』とかそういうノリなのかと思ったが、本当に紗里子と同い年だったんだな。
「パパ! 私達もレイの所に行こう!!」
紗里子が俺の腕を引っ張った。持っていたグラスの中身が溢れ出しそうになる。
クランベリージュースみたいな飲み物で、人間の世界ではまず味わえない味で大変美味であった。
『魔女』達の波を掻き分けてレイに近づく。レイは、その銀髪と同じ色の銀色の透けたロングドレスを着ていて、この世の者ーー異世界なんだがーーとは思えない程美しい。
「サリコ、来てくれたのね!」
「レイ、誕生日おめでとう!! 私と同い年になったね!!」
「うふふ、サリコの方がちょっとだけお姉さんだったものね!」
女の子同士で仲よさそうにしているのを見るのは良いものだな、なんて感心している間も無く、レイの目は俺に注がれる。
キーキがしてくれたような人懐っこい目ではなく、どこか変わったものを見るような目だった。
まさか……。俺が実はおっさんである事がバレたのか?
ドキドキしていると、レイは紗里子に
「こちらの方は? こちらも『人間界』の方よね?」
と尋ねた。
「この子はね、私の従姉妹でマミって言うの。彼女も人間界の魔法少女よ」
先程キーキにしたように淀みなく嘘の説明をする紗里子。
しかし、レイはやはり不思議そうな目をしている。
その内どんどん友達の波が寄ってきて、俺達とレイは引き離されそうになった。
途端、レイは紗里子の耳元で何事かを呟き、その後他の友人達の所に行ってしまった。
「紗里子、あのレイちゃんは何て言ってたんだ?」
ご馳走のチョコレートボンボンを頬張りながら他の魔女達と楽しそうに談話していた紗里子に耳打ちすると、
「あのね、パーティーが終わってみんなが帰ったら、『マミちゃん』にちゃんと紹介してほしいって」
との返答だった。紗里子自身も、訳がよく分かってなさそうに見えた。
ーーバレたのか? やっぱりバレたのか??
「おやすみなさい、レイ!!」
「今日は楽しかったわ、お誕生日おめでとうね!!」
「ありがとう、皆! また来てね!!」
ご馳走も飲み物もすっかりカラになり、そろそろ「子どもは眠るか、宿題の時間」になると、執事とレイと、そして俺達父娘だけが残された。
本当に、人間界の時間軸に合わせてくれているというか、「子どもが遊べる時間」は人間界と一緒なんだな、と感心する。
レイは執事に部屋から退出するよう命令すると、彼女は改めて俺達に向き直る。
「サリコ、今日は来てくれてありがとう。『マミ』さんも」
レイは丁寧に俺達にお辞儀をした。
「え、いえ。ごめんなさいね、呼ばれていない私まで来てしまって……。こちらこそありがとう」
慌ててお辞儀を返す俺。
不躾にならない程度に俺の全身を眺めるレイ。
この子は一体、何に気付いたというのか。
「ねえサリコ、こちらのマミさんは私達とは違う……と、いうか、比べ物にならない程の魔力をお持ちのようだけれど、本当に貴女の従姉妹さんなのかしら」
レイは悪びれもせずに言ってのけた。
これにはさすがの紗里子もアタフタした。
「え、えーと……。彼女はね、元は普通の女の子だったんだけど、リリィ・ロッドに触れてしまったせいで私と同じ力を持つようになったの。でっ、でも最近の話よ。マミの力がそんなに強いって、どうして分かるの?」
「あら、私が誰の娘なのか忘れてしまったのかしら」
悪戯っぽく微笑むレイ。
あ、と声をあげる紗里子。
「パ……マミ、レイはね、この世界の魔女で1番偉い人の娘なの」
「え、そうなの!?」
どうりでオーラも人を見る目も他の魔女達と違っているはずだ。
「誤ってリリィ・ロッドに触れたのよね?」
と、レイは質問する。
「え、ええ」
「もし、魔法少女の力を持て余してるのであれば、不肖、私か私のお母様が普通の人間に戻して差し上げても結構なんだけど」
ーーえ?
今戻してくれるのか? それはそれで困るんだけど。
『従姉妹』ならともかくおっさんが今まで女言葉使ってたってバレるのは恥ずかしい。
なんて言ってる場合じゃなかったんだっけな。
元に戻るチャンス到来である。
「だけれど」
レイは続けた。
「どうしてかしら、マミさんの事を元に戻しちゃいけないような気がするの。今、今はね。それどころか……」
「そ、それどころか、何かしら」
すっかり女言葉が板についちまったな。
ーーその時ーー。
レイが、何事かを呟いてから、俺の額にキスを落とした。
びっくりする俺と紗里子。
紗里子の瞳に、『従姉妹』に対してはあり得ない焼き餅の炎が浮かぶ。
「今、儀式をさせて貰いました」
レイがそんな言葉を紡いだ。
「これで貴女は、『魔法少女』の中では1番の強力な力を手に入れた」
ーーどゆこと?
俺が最強の魔法少女になったって事?
「ルシフェル様がおかしくなってしまわれたからには、マミさん、貴女に期待するしかないのかもしれない」
レイは、パーティー中の和やかな姿とは打って変わって、『偉いお母様の娘』らしい威厳のある姿を見せた。
紗里子までもが俺の顔をキョトンと不思議そうな目で見ていた。
俺が、最強の『魔法少女』か……。何故こうなった。
そんな事を勝手に言われても。
ってルシフェルのヤツ、やっぱり変になっちゃってたのか?
人間界に潜む『虫』も、本当にルシフェルの仕業なのか?
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