第5話 委員長の決意

「えーと……奈楠、冗談でしょ?」

 クラスには結構人がいたが、聞いてはならないと判断したのか、志賀と山田と俺と奈楠だけにし、みんな帰った。

 モテそうな清楚系美女というタイプの奈楠。

 こんな娘が、俺みたいな十六年も告られたことない奴に告白するとは思えない。

「冗談な訳ないでしょ!? 私をそんな尻軽女だと思っているの?」

 やばい…これはマジでやばい。

 俺みたいなやつには勿体無いくらいの条件の娘だ。

 でも、俺には叶美がいるし…

「浩ちゃん!絶対そいつ尻軽女だよ!気をつけて!」

「な、那月!?」

 この話をきっと聞いていたのだろう。

 ドアを勢いよく開け、息を切らしながら威勢よく失礼なことを言った。

「那月はどうしてそんな失礼なことを言うんだ」

 この変な状況の中、通常運転でいられる那月を素直に尊敬するわ。

「那月さん?嫌われ者の貴方はどっかいってもらえます?」

「それはストレートすぎるだろ」

 奈楠の失礼な言葉に、思わずツッコミを入れた。

 女子怖し!

「奈楠って呼ばれるそこの女よ。私より可愛いつもりか?可愛くないくせに私の幼馴染を告白しないでくれる?」

「那月?どうしたんだ、その喋り方。というか、俺を庇ってくれてるのか?」

「当たり前でしょ!」

 え、見直したわ。

 悪いが、問題児としか思ってなかったよ。

「那月さんみたいな嫌われ者より可愛いに決まってるでしょ!?」

 女子こえーよ!

 何?可愛い方が上とかそんな感じの決まりでもあるのか?

「浩ちゃんはこのブスをどう思う??」

「高梨さんはこのブスをどう思う??」

 何なんだよこの二人…。

 第一にブスなんて言葉基本聞かないだろ。

 嫌だよー!この二人に答えを出すのなんて絶対やだああああああああ!

「「早く答えて!」」

 俺の中での答えはまだ決まっていない。

 が、このままでは死ぬ。殺される。やばい、マジやばい。

「ちょ、ちょっと待てよ」

 そう言って止めに入ったのは、志賀だった。

「二人の言い分は分かった。だけどさ、その言い方だと浩介が可哀想だろ?」

「何も可哀想じゃない!」

「そうですね…」

 奈楠の威勢に負けるんじゃねーよ志賀!

 一体俺は誰に頼ればいいんだよ…

「待ってください!!!」

「山田!?」

 今まで黙っていた山田が、ここにきて口を開いた。

「うちと話す為に浩介に告白して喧嘩になったんですよね?じゃあう、うちは貴方と話しますので喧嘩やめてください/////」

「なんでこのタイミングで照れてるんだよ!」

 どいつもこいつも通常運転野郎ばかりだな。

 羨ましすぎるぅぅぅぅ!

 俺も通常運転で言ってやるぜ!

「まだ結論でないの?高梨君!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 無理でした。

 那月達には出来て俺には出来ないって言うのか?

 そんなはずない!俺にだって出来るはずだ。

「うちと話すためじゃなかったの?告白したのは…」

「そうだけど?何か?」

 え、なんか徐々に態度変わってない?

 奈楠の性格が歪みつつあるようだ。

 志賀が俺にコソっと話しかけてきた。

「お前が終止符を打て」

「言い方はカッコイイぞ」

 なんだこの訳の分からん会話は。

 誰がどう見ても俺がどうにかするしかないんだろうけど、何すればいいか分からない。

 一体どうすればいいんだよ…

「高梨君は私と付き合ってくれるの?」

 あ、そうか、根本的な原因は『付き合うか』って事じゃないか。

 なんだ…結論出てるじゃないか。

「奈楠とは付き合えない。すまない…」

 やばい、絶対勿体無いことしたわ。

 でも、しょうがないよな。

 俺は叶美が好きなんだから。

「浩ちゃん!もっとズバッと言ってやればよかったのに!なんで謝っちゃうのさ」

「お互い傷つかない為にはそれがベストだと思ったんだよ」

 だよな?俺の選択間違いじゃないよな?


「ごめんな、今日先生に質問行ってたから遅れた」


 突如現れた青年。

「ううん!気にしてないよ!」

 それに合わせて声を出した奈楠。

 ん、んん?これはもしや…

「彼氏来ちゃったからまた明日ね」

「童貞を弄びやがったなこの野郎があああああああああ!!!!!」

 奈楠が彼氏来たって言ったってことは、奈楠はリア充。

 つまりは、俺がただ単純に遊ばれただけだった。

 うまいこと行けば一線超えれる関係になれると思ったのに…


「そんな気を落とすなよ、浩介はまだこれからだ」

「お前、俺がモテそうになったら怒ってなかったか?てか、帰り道違うんだからさっさとどっか行けよ」

 志賀が俺に「まぁまぁ」と言って付いてきた。

 いや、普通に帰れよ。

「それにしても浩ちゃんは騙されやすそうだねー!」

「うっせ!ほっとけ!」

 ったく、ダブルパンチかよ。

 慰めてくれるやついないのか?

 でも、那月は結構いいこと言ってくれたよな。

 あの日以来の感謝があるかもしれない。

「あー?今私の事でなんか妄想してた??」

「ばーか、してる訳ないだろ」

 そう言って軽く頭を叩いた。

「二人って付き合ってるの?」

 志賀がいきなりそんなことを言ってきた。

「付き合ってないけど?」

「つまんねーの」

 いや、何がだよ。

 付き合ってたら、あんなに奈楠の時にしどろもどろにならないっつーの。

「じゃあな、また明日」

 家に着いたので、志賀と那月にお別れの挨拶をした。


「ただいま。叶美ー?いるかー?」

「………」

 陰キャでも陽キャでも通常運転なんだな。

 叶美は無視っていうのが通常。悲しいことに。

 那月は明るいのが通常。無駄に明るいのが。

「俺って、陰キャラなのかな?陽キャラなのかな?」

 素朴な疑問が俺の頭の中を支配した。

「兄さん…」

「か……叶美!? 一体どうしたんだ!?」

 普通の家庭なら当たり前のことだが、俺にとっては妹が俺の所に来たのは異常な事なのだ。

「兄さんは、叶美が貸したゲームやってる…?」

「ゲーム?」

「あのキツネさんのやつ」

「あーあれね」

 やっべぇ、思いっきり忘れてたわ。

 エロゲーだぜ?エロゲー。そんなのやらないだろ。

 どうしたものか。

 選択肢は二つ。

【一,正直に言う 二,やったと嘘をつき、今からやる】

 どっちだ?

 俺だってゲームや漫画読むだろ。

 分かるはずだ。この時のベストアンサーを!

「かな…」

 俺が叶美と言いかけた時、叶美の方から話しかけてきた。

「兄さん、やってないなら素直にそう言って」

「すみませんでした」

 正解は1番だったかー!

 パって思いつけよ俺!馬鹿やろおおおおお!

「兄さんは…やっぱり叶美が渡したゲームはしたくない……の?」

「ご、誤解だ!最近色々ありすぎて出来なかっただけだ!今日やる!」

 叶美が「そう」と、ちょっと顔に明るさができた。

 良きことだ。

「そういや、叶美って自分の事を『叶美』って言い方してたか?」

 素直に気になったから聞いてみた。

「エロゲーしてたら、その方が可愛いと思ったし、移っちゃったから……変?」

「いやいやいやいや!全然変じゃないぞ。むしろ可愛さが強調されてる!」

「ばか…/////」

 やっぱり叶美最強に可愛いわ。

 大好きだ!

「よし!じゃあ今からご飯作るからな」

「部屋まで持ってきて」

 結果戻るんかい!

 そのうち、脱陰キャラ大作戦でも計画するか。


 俺は朝起きて、目覚まし時計を見た。

「これはまずいな…。遅刻寸前じゃないか」

 いつも家出る時間まで、後五分しかなかった。

 何でこうなった?

 理由は一つ、エロゲーのしすぎだ。

「支度なんてしてる暇ない!今すぐ行くしかないんだ!」

 かっこよさそうに独り言を言っていた。


 学校前まで急いでいき、ギリギリ間に合った。

「だからといって余裕こいてる暇はない、さっさと行こう!」

 と言いながら、俺、独り言凄いな…とも思った。


 勢いよく教室に飛び込むように入って一言、

「セーフ!!」

「………」

 ものすごい周りの視線が痛いんですが?

 よく見ると、教室にいる人全員座っているし、黒板には字が書いてある。

 これはあのパターンですね。

「何がセーフだ…!一時間も遅刻じゃないか!!」

「え、えぇ!? な、なんでだ??」

「なんでだじゃない!三時間の説教だからな!」

「は、はいぃぃぃぃ…」

 焦りすぎて時計を見間違えていた。

 また遅刻したのか…

 みんなが一番気をつけていることを、俺は今年で二回もやってしまったのか。

 と、考え事を教室のドアの前でしていると、

「いつになったら席に着く気だ?さっさと着かんか!」

「すんません!」

 この学校の先生怖すぎるんだよ…

 特に国語の先生、丹澤 卓夫(たんざわ たくお)っていう奴が。

 このクラスは大抵一限目国語だから、こいつばっかり一限目いるんだよ。

「遅刻した罰だ。レ点を付けた場合文字の読み方は?」

 レ点?漢文の話か?

 俺国語苦手なんだよな…

 国語が苦手な俺は、後ろの席の山田にコソっと聞くことにした。

「レ点ってなんだっけ?」

「次山田に聞いたら……どうなるか分かるな?」

「退学ですよね?」

「よく分かってるじゃないか」

 冗談で言ってくれてないから嫌なんだよおおおおおお!

 こっちは冗談交じりだっつーの!

「プププ…クスクス」

 な、なんだ?教室中から笑い声が聞こえてくるぞ?

「一応聞いておこう、なぜ遅刻した?」

「え、今更ですか?ちょっとエロゲーのしすぎで…」

「なんだと…?」

 丹澤先生の反応がなんかおかしいな…

 それに、笑い声が止んだ。

 よくわからんクラスだなー。

「本当はこの遅刻はドッキリって体でやるつもりだったんだ。なのにお前って奴は…!」

「ドッキリ?じゃあ遅刻じゃないってことですか?」

 良かったと、ホッとしている俺に先生が。

「本当わな。が、高校二年生でまさかのエロゲーとは…見過ごせないだろ」

「そういう意味で怒ってたんですか!?」

 俺だってしたくてしてる訳じゃないんですよ?

 妹がやれって言うから…なんて言えないわな。

 妹をこれ以上この学校に巻き込みたくないし。

「まさか忘れてはないと思うが、これが本当に遅刻ならお前は親に怒られるだろ?」

 親?…親、おや…

「ああああああああ!そういやなんか言ってた!」

「いきなり大声出すんじゃねー!」

 一日に何回怒られれば気が済むんだ、俺。

「親に怒られる恐怖がありながら遅刻したらどうするのかって検証だったんだよ。親公認のな」

 親が公認するとか、最低な親じゃないか。

 結局忘れてて何も気にしてなかったんですけどね?

「お母さんに目覚ましをずらしてもらって、やったってのに…」

「あはは…なんかすみません」

「全くだよ!」

 なんかツッコミ入れられる側になったんですけど。

 俺の唯一の長所を…!

「先生先生!それより、起きた時の反応を見ましょうよ!」

 明るく元気にそう言ったのは、志賀だった。

 いつもこのタイミングに志賀入ってくるよな!?

「あ、あぁそうだな」

 そう言って先生が鞄から取り出したものは…

「テッテレー、『ビデオカメラ』!」

「ビデオカメラ?何するんですか?」

 先生の謎のキャラにツッコミを入れたいところだが、ここは先にビデオカメラのことを聞くべきだと判断した。

 独自でね!

「ふふふ…このビデオカメラは…高梨が起きた時の反応が見れるようになってるのだ!」

「「すごーい」」

 棒読み感溢れる言い方で、クラス全員がそう言った。

「高梨、驚いてるか?隠しカメラ仕掛けられてたんだよ、高梨の家にな!」

「犯罪じゃねーか」

 先生が言っちゃいけないようなこと言い出したぞ。

 え、何この人、ほんとに先生?

 偽物じゃないの?どっかで間違えられた人物とか。

 って想像してしまうあたり、アニメや漫画に毒されてるんだろうな。

 いい意味でも悪い意味でも。

「よっしゃ、観よーぜ!」

「「うぇーい!」」

 先生先頭に、クラスみんなが団結してるんですけど。

 俺の味方は?あれ、いないんですか?

 そろそろ泣きますよ?

「観る前に一つ、委員長、あの事言っていいか?」

 先生が改まった表情で、委員長こと奈楠に何かを聞いていた。

「大丈夫ですよ」

 礼儀正しく先生にそう言うと、先生は俺の方を向きこう言った。

「この隠しカメラやビデオカメラのアイデアは奈楠のアイデアだ」

「ええ!?」

 俺より先に驚いたのは、奈楠だ。

「どうした?」

 先生が優しく聞く。

「てっきりあっちの事を言うのかと…」

 まだ隠し事あるんかい。

「奈楠の命令だったのか」「他の隠し事って?」と、声が聞こえてきた。

 この話は、クラス全員知らなかったようだ。

 つまりいろいろやってしまったってことだ。先生と奈楠が。

 形勢逆転、今は俺が優勢!

 攻めて攻めて攻めまくるぜ!

「先生に奈楠、隠し事は良くないと思いますよ?さ、話してください」

 ふっ…決まったぜ。

 みんなが知りたい事を言ってやった……ヒーローだ!

「隠し事…それは、私に彼氏がいることです!」

 なんだ、そんな事知ってるってーの。

 これまたシーンってなるやつだわ。

「「ええええええええええええええええええええええええええええええ!?」」

 いや、驚きすぎだろ。

 志賀と山田を除いたクラス全員が驚いていた。

 みんな知らなかったのか?知ってる俺すげーじゃん。

「僕達の委員長が…」「一線超えたりしてないよな?」「僕達のヒロインが…」

 めっちゃ人気じゃん。

 え、清楚系美女って言うのはやっぱり男子にはモテるんだな。

 俺も好きな人いるのに告られてしどろもどろになっちまったしな。わかるわかる。

 結果は騙されたんだけどね!?

「そんなことは今はどうでもいいだろ!高梨の反応みようぜ!」

 志賀が強引に流れを戻した。

 何してくれてんねん!

「そうしようか」

 先生も乗り気だ。

 もうどうにでもなれ。


 映像が流れ始めた。

 なんかめっちゃ恥ずかしいんですけど。

 自分が寝てる所を皆に見られている訳だからな。


「これはまずいな…。遅刻寸前じゃないか」

 お、俺のセリフが流れ始めた。

「支度なんてしてる暇ない!今すぐ行くしかないんだ!」

 なんか……中二病みたいになってないか?

 これから中二病キャラでいくのも悪くないかもしれないな〜。

 皆の反応はというと、

「「………………………………………」」

「え、なんで静かなん?」

 まさかのシーン状態。

 やっぱり中二病みたいで引いちゃったとかなのかな?

「つまらなさすぎるだろおおおおおお!! もっと面白いのこいよ!!」

「そんなこと言われても無理です!」

 先生に逆ギレされたので、こっちもキレ返した。

「なんだよ、つまんねーよ」「これの為に今日学校来たのに」「チッ」

 普通に悪口混ぜられたんですが?

 学校に来る理由は、勉強の為だろ。

「三時間の説教な」

「なんでですか!? ドッキリだって…」

「エロゲーしてた事と反応がつまらなかったからだ」

「そんな事で三時間も!?」

「当たり前だろ!」

 うぅ… 。

 逆ギレじゃん絶対!

 いい加減、真紅高校にまともな先生来てくれええええ!!


 授業が終わり、説教受けるべく生徒指導室へ向かった。

 二組は四階、生徒指導室は二階なので、二階の廊下を歩いていると、生徒指導室の二個手前の部屋から人の声が。


 ──自主規制(ご想像にお任せます)


 え、学校ではありえないような声がしてるんですけど。

 そう思って覗いてみると、

「奈楠と彼氏じゃないか…」

 やばい、これは完全に一線超えてる…

 興奮してる俺ってやっぱヤバい奴なのか?

 でも、童貞には刺激が強い…!

 それに、こんなのクラスの人達に見られたら、クラス崩壊するぞ…!

 と、言いながらも俺の右手には、スマートフォンがあり、ビデオを開いていた。


 後に、このビデオが引き金となり、事件が起こるとも知らずに…


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