第4話 山田・カトリーヌ・ドゥクシの苦痛

 山田・カトリーヌ・ドゥクシ…だと!?

 ハーフというのは分かったが、どことどこのハーフなんだろう。

「質問!どことどこのハーフなんですか?」

 流石志賀!

 俺のことをよく分かっているじゃないか。

「…………」

 え?まさかの無視パターンなのか?

 あんなにも元気に挨拶していた山田・カトリーヌ・ドゥクシこと、山田が緊張なんてことは無いだろうし…

 志賀が嫌われてんじゃね?

「もしもーし?山田さん?」

「………」

「よし!授業を始めます!」

 志賀の質問に答えれなかった山田を助けるように先生が、授業開始を促した。

 席が決まってなかった山田は俺の後ろに座った。

「よろしくな山田」

 事件が多数起こったことで、コミュ症改善された俺は気安く話しかけた。

「…………………よろしく…ボソッ」

 何か言ったのかな?

 聞こえたような気がするが…空耳かな。

 今思えばずっと下向いてるな、山田さん。

 自己紹介の時もずっと後ろにある黒板だけを見ていたし。

 まさか…コミュ症なのか!?

「…し……なし…」

 いやいや…そんな訳ないだろ。

 冷静になれ。相手はモデル級だ。会話ベタな訳がない。

 俺の中で、モデルとはどんな人になってんだろう…

「高梨!!」

「は!はい!?」

 いきなり目の前で大声出すんじゃねーよ。

「ずっと呼んでんのに無視したな?あ?」

 そうだったのか…知らなかった。

 考え事はもうよそう。

「無視してんじゃねーよ!」

「すすすすす、すみません!!!!!」

 緊張に焦り、そして恥、これは人間ではどうしようもないものだ。

 というか、ここの先生は性格が悪いな。

 アニメやマンガなら平気なんだろうけどさ。

「今なんの授業がわかるか?」

「数学です」

「違う。国語だ」

「まじですか?」

「まじだ」

 これはやばい展開だ。

 授業聞かないし科目間違えてるし。

 怒られるか?いや、大丈夫だろう。

 そう信じたいだけだがな。

 でも、この学校の先生はやばい人が多いし…

「選択肢をあげよう」

 意外と優しい先生じゃないか…!

「補習か説教かだ」

 この学校はほんとに説教が好きなんだなぁ〜。

 いい加減にしてもらいたいものだ。

「他の選択肢ありませんか?」

「退学」

 おい、まじかよ。

 でも、これも一つの選択肢。一層の事、退学にでもなってやろうか。

「先生!そんな簡単に退学させてもいいんですか?」

 志賀君…!カッコイイぞ!!

 志賀が女子だったら惚れてしまうぞ!

 …俺きもっ。何考えてんだよ。

「まぁ、別にいいんじゃないか?」

「そうですか」

 諦め早すぎるだろ。

 かっこよさが今ので全てどっか飛んでったぞ。

「分かりました!後に補習受けます!」

 この状況を打破するには、俺が何かを言う他ないからな。

「よし、じゃあ先生が忘れてなければ、夏休みな」

「分かりました」

 これは忘れて無くなるパターンだな。

 それ以外は何もなく、授業は普通に進み、放課後になった。


「山田さんですよね?ちょっとお話いいですか?」

「………どうぞ…ボソッ」

 こいつ何言ってるか聞こえねーんだよな。

 でも今ので確信した。空耳ではないことを。

「貴方はコミュ症ですか?」

「………」

「貴方は人間が嫌いですか?」

「………」

「貴方はオタクですか?」

 やべ…頭の中に叶美が一瞬浮かんで、変な事言ってしまった。

「はい!」

 オタクなのかよ。

 口が滑ったと思ったが、結果オーライだったな。

 ……てかなにあの返事!? めっちゃ大声出せるじゃねーか。

「うちはオタクなんです!色んなエロゲーやアニメ、少年誌にラノベ。幅広く好きなんです!貴方もそうなんですか?高梨さん?」

 おぅ…こいつまじかよ。

 ガチもんのオタクじゃないか。

 下手したら、叶美よりもオタクかもしれないな。

 …って、あれ?

「俺、名乗ったっけ?」

「一限目怒られてましたので」

「あ、なるほど」

 名乗る手間省けたし、怒られたのも損だけじゃないみたいだな。よきことだ。

 このまま妹と仲良くさせることできないかな?

「山田さん、あのさ──」

 いきなりガラッとドアを開けて、那月が入ってきた。

 話を途切らせやがって。

 いつもタイミング悪いよな。那月って。

「浩ちゃん!帰ろ!」

 何なんだよ。

 これは天然なのか?わざとなのか?わっけわからん。

 毎日毎日なんでこんな色々起こるんだろう。

 現実にいないみたいだ。

「浩ちゃん?そこの女だれ?」

「山田・カトリーヌ・ドゥクシさんだ」

「ぷぷぷ…!」

 あ、今名前聞いて笑ったぞこいつ。

 なぜ山田さんは怒らないんだ?

「/////」

 なんか照れてるんですが。

 何なんだよ、美女は問題がある決まりでもあるってのか?

「ったく、俺は今山田さんと話してるんです。ですので、先にお帰りください那月さん」

 敬語を使った理由は一つ。

 那月にキレられたくないから。

「なんで敬語なん!? てか、ドゥクシ(笑)と話して何かあるの?何もないでしょ」

 こいつ絶対名前馬鹿にしたがるな。

 那月はなんか…無神経ってやつなのかな?多分そうだよね?

「帰るなら明日な」

「ブー!まぁいっか!じゃあ明日ね!」

 やけに潔いいな…

 妹と喧嘩してたし、家に行くこともないだろうし、好きにさせるか。

「話の続きをしようか。山田さん」


 山田さんと話すためのトリガーは『オタク』という言葉らしい。

 そして、山田さんには非常に珍しい事があった。

「本当に『百合』なのか?」

 百合とは、女子が女子を好きになることだ。

「はい!可愛い女子がめっちゃ好きなんです!だから、さっきの人が来た時ものすごくときめいて、照れちゃったんです!」

 こいつまじか。

 話しかけやん方がよかったパターンだな。

「そうか…百合か。うん、素敵な性格だね」

「やっぱりそう思う!?」

 分かった。

 俺今言葉の選択ミスったわ。

「ちょっと待ってな。連絡入れたい奴がいるから」

「分かったー」

 連絡を入れるのはもちろん叶美。

 俺は、叶美に友達を作ってもらいたいし、山田さんにも作ってもらいたい。

 さん付けはもうやめよう。畏まってしまうからな。


「あ、もしもし叶美か?」

「兄さん、どうしたの?」

「友達を紹介しようと思って」

「男子?女子?」

「女子だ」

 ツーツーツー…

 切られましたね。はい。

 ……って、なんで切るんだよ!友達必要だろ!?

「山田、どんまい」

「え!? 何が??」

 何かわからなく、あたふたしている山田を見ながら、色々考え事をしていた。

 そろそろ普通の生活がしたい…

 こんな毎日厄介事に巻き込まれるのはもうゴメンだ。


「じゃあな。また明日な」

「高梨さんもお元気で」

 なんで最後まで堅苦しいんだよ。

 全然友達にはなれなかったってことかな。

 明日頑張ろう。


「ただいまー」

 まぁ、安定の無視でしょうね。

 慣れれば平気だい!

「何作ろっかなー!」

 美少女に囲まれすぎてか、変なテンションになってきた。

 このまま那月や山田に告られたりして…グフフ…。

 それはないか。あいつらは高嶺の花ってやつなんだろうからな。

「叶美ー!ご飯いるかー!?」

 二階にいる叶美には、大声を出して聞くしかない。

 ピコーン!

 一通のメールが届いた。

「誰からだ?……叶美か」

 二階にいるんなら、下に降りてきてくれてもいいだろ。内容はというと、

『いる』

「可愛げなさすぎだろ!」

「ドンドン!」

 あ、怒ってるわ、これ。

 ドンドンして床抜けたらめっちゃ面白いのにな。

「なんにせよ、いるんならちゃっちゃと作っちゃいますか!」

 軽い手捌きで、じゃがいも等を切り、完成したのは…

「カレーでーす!」

 テレビじゃないんだから、一人ではしゃぐなっつーの!

 ……俺の事なんですけどね?

「2階に持って行ってやるか。なんて優しい兄さんなんだろう!」

 俺ってこんな独り言多かったか?

 心境の変化ってことか。


 俺は叶美の部屋の扉を軽くノックした。

「叶美?カレー持ってきたぞ」

 その声を聞いて、叶美は部屋を開けてくれた。

 ………開けてくれた!?

「兄さん、ありがとう」

 そのありがとうの時の笑顔が素敵過ぎて、抱きつきそうだった。

 変態と言われてもいい。

 妹と付き合いたい!!

「兄さん、さっさと下行って」

「え!? な、なんでだ?」

 こんな所で、簡単に引き下がってたまるか!

「エッチな事されそうだから…」

 まさかのドンピシャ。

 家族だから考えが分かるのかな?

 ふむ…これはちょっとした問題に突入したぞ?

 このままでは、妹にエロいことが出来ないではないか。

 貧乳でも、魅力的だから好きなのに。

「兄さん…早く下行って!」

「おっす!すんません!」

 謎の部活風返事になってしまった…


「はぁ…。叶美は俺のこと嫌いなのかな…」

 何もやる気なくなった俺は、カレーを食べて眠りについた。


 朝六時。

 今日は何も無い平凡な日常遅れたらいいな。

 なんて、普通の人ならあまり思わないことを俺は思っていた。

「じゃあな叶美!学校行ってくるわ!」

「……」

 そろそろ、「行ってらっしゃいお兄ちゃん♡」とでも、言ってもらいたいものだ。

 現実は上手くいかねーなー。

 ドアを開けると、目の前には那月が立っていた。

「おっはー!浩ちゃん顔疲れたって感じしてるよ?大丈夫??」

「あぁ、まぁ大丈夫だ。最近いろいろな面倒なことが多くてな」

「そっかー!元気出してけばいいことあるよ!」

 こいつはブレないな。

 嫌われても陽キャラ突き通すとか、もはや尊敬するわ。

 顔可愛いだけに性格がもったいない!

「じゃ、学校行こうか」

「うん!」

 はぁ〜。俺も陽キャラになりたいわ。


「学校まで何事もなく着いて良かったね!」

 那月が明るくそう言ってくれた。

 こう言ったことを言ってくれる幼馴染がいると、気持ちも明るくなるわ。

「じゃ、俺二組だから」

「また放課後!」

 そう言って、俺たちはわかれた。

「うぃーっす」

 教室に入ると同時に、クラスみんなに挨拶したが、誰も返してくれない。

 俺と那月は学校の嫌われ者かな?

「よっす!どうした浩介。元気ねーな」

「あ、志賀か。いや、なんか嫌われたかなーって思ってさ」

 俺は志賀と仲良くなったから、基本悩みは志賀に聞いてもらってる。

「え?浩介がクラスに嫌われてると思ってるのか?」

「そう」

「あはははははははははは!!!」

 おいおい、大声で笑うもんじゃないだろう。

 意外と真剣な悩みなんですよ?志賀くん。

「浩介は嫌われてないぞ?ただ引かれてるがな」

「素直に喜べないんですけど」

 クラスのムードメーカー志賀の言うことなら、ほぼほぼ信用出来ることなんだが、これは喜べないだろ。

 ガラッとドアを開けて入ってきたのは、下を向いた山田だった。

「山田!おはよ!」

 俺は山田に積極的に声をかけると決めている。

 最終的には、クラス全員と友達になってほしい。

「おはよう、浩介さん」

「浩介って呼んでくれ」

「分かりました」

 呼び方を訂正させた。

 さん付けだと、体がむずがゆい感じになっちゃうからな。

「浩介…!なぜこの巨乳美少女、山田・カトリーヌ・ドゥクシさんと会話出来てるんだ!?」

 あ、こいつ本名覚えてるんだ。凄いな…

「まぁ…仲良くなったから…かな?」

「じゃあ俺も話す!」

 んー…志賀には無理そうだな。

 ま、ファ〜イト!

「山田っち?今日一緒にカラオケでも行かない?」

 あ、口説き始めた。

 可愛いし、しょうがないか。

「………」

 案の定無視だな。

「山田っち!? 遊ぼうよ!ねぇ!?」

「………」

「志賀、諦めろ」

 俺は志賀の諦めの悪さを知っている。(自分のことに感しては)

「何でなんだよおおお!! なんで浩介!?」

「なんでって…言い方酷くないか??」

「酷くない!」

 わがままな奴だ。

 オタクというトリガーを教えてもいいんだが、山田に悪いよな?

 でも、友達増やすチャンスなのか?でもなー…志賀はオタクをどう思ってるかも分からないし…

「浩介、これはどういった状況?」

 山田が俺にぼそぼそ話しかけてきた。

「志賀はどうやら、山田と友達になりたいらしい」

 本当は付き合いたいんだろうけど…これは内緒かな!

「志賀さん?は、オタクなんですか?」

「いや、違うと思うぞ。あいつはサッカー部だし」

「じゃあ仲良くなれませんね」

 俺も別にオタクじゃないんですが?

「なんでそんなぼそぼそ話してるの?浩介。ねぇ?聞いてる?」

「ま、まぁちょっと落ち着きなさいな。志賀には関係の無いことだぞ?」

 そんな感じで志賀に嘘をついてしまった。

 流石に俺も、嘘つくだけでは可哀想と思ったので、山田の苦痛を教えてあげた。

「山田はコミュ症なんだよ」

「まじか!」

 …俺はなぜこんな事を言ったんだろうな。

 しかも山田が聞こえないように。

「あまり悩まなくていいよ?浩介が言ったことは事実なんだから」

「聞こえてたのか?」

「はい!」

 マジかよ…。

 逃げ道なしか。

「授業始めるぞー」

 逃げ道あったんだ!先生、ありがとうございます!


 あっという間に放課後。

「志賀のせいで朝めんどかったわー」

「悪い悪い」

 鞄にものを詰めながら話していた。

「山田さん?ちょっといい?」

 昨日もだけど、奈楠はなぜ山田に突っかかって来るんだ?

 友達になりたいだけなのか?

「/////」

 可愛い女子には照れるってか。

 まぁ普通に清楚系美女っていう、在り来りな感じだな。

「山田さん、無視はよくないと思うよ?高梨君とは話すのに、私や志賀とは話さないなんてよくないと思う」

 確かに奈楠の言う通りだな。

 志賀…なんか呼び捨てされてんじゃん。

「/////」

 照れずに答えろよ!

「あー、違うんだ奈楠。こいつコミュ症なんだ。仕方ないだろう」

「コミュ症?あんな挨拶してる奴が?」

 あ、自己紹介のことか。

「貴方がそんなに高梨君とだけ話すって言うんなら…」

 え…なんか変な条件突きつけられるのか…!?

「私、高梨君と付き合います!!」

 一瞬の沈黙…

「「「え!?」」」

 内容を理解した俺と志賀と山田は、驚きを隠せなかった。

 また大波乱の予感だ…!



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