異世界アルバイト生活

Hail

ゴーレム事件

 俺たちの住むこの世界が、サフと呼ばれる異世界と繋がって早二年。異世界の文明を持った悪徒は次々に俺たちの世界へ流れ込んできた。世界の犯罪発生率は急激に増加し、各国がその対策に追われる中、俺は、異世界でアルバイトをしていた。


 「鏑木(かぶらぎ)くん、そこに置いてある新しいクエストの依頼表、貼り出しておいてくれない?」


彼女はエリス先輩、俺がここでバイトを始めた時からずっとお世話になっている。彼女を一言で言い表すならば、お淑やかなお嬢様って感じだ。肩の上で静かに揺れる髪が、雪の様に陽の光を反射させている。


「了解で~す」


うちのギルドは、このあたりの街では一番大きなギルドだ。当然クエストの依頼数も相当多い。ロビーの壁はクエストの紙でほぼ埋め尽くされていた。そろそろ古くなった依頼を処分しなければならないな。俺は空いているスペースを見つけると、木で作られた梯子(はしご)に足をかけた。


「落ちない様に気を付けてね」


下の方でエリス先輩が別の作業をしている。


「できれば梯子を抑えていて欲しいのですが」

「甘えないの」


そう言われてしまい、仕方ないので俺は細心の注意を払いながらクエストを次々と貼っていく。

今日の予定は、午前中がギルド内の受付や清掃、書類整理になっていて、午後からは月一で張り出されるイベントクエストの現場調査を、調査員に同行して見てくるというものだった。


「そう言えば鏑木くんって、クエスト調査は初めてだったよね?」

「はい、バイト始めて一年でようやく行かせてもらえることになったんです」

「行きたい行きたいって、ずっと言ってたもんね。そんなに行きたいなら冒険者にでもなればいいのに」

「俺に冒険者なんて務まりませんよ、きっとすぐに死んじゃいます」

「ふふ、なんだか想像できちゃう」

「俺の死に方を想像して微笑まないで下さいよ」


それから俺は、一通りの作業を終わらせると、調査へ出かける準備をした。

たかが調査といってもこれから行くところは迷宮だ。当然俺も、冒険者たちと同じ様な格好をしなければならない。昨日店長に用意してもらった剣を、ロッカーから取り出してくる。

従業員スペースに戻ると、エリス先輩が俺を待っていた。


「その服、似合ってるじゃん、本物の冒険者みたい」

「その微笑みは俺の死ぬところを思い浮かべてのものじゃないですよね」

「さっきより現実味を帯びたわ」

「本当に死んだら笑い事じゃないですよ」

「大丈夫、これあげるから」


俺は先輩からネックレスを手渡された。銀色の縁(ふち)の中に、まるで光を吸い込みそうな深紅の石がはめられていた。


「凄く高そうなネックレスですね、これを俺に?」

「そんな高いものじゃないよ、ちょっとしたお守りみたいなもの」

「本当に貰っていいんですか?」

「あげるために持って来たんだから、もらってくれなくちゃ困るわ」

「ありがとうございます」


受付嬢のティーファはこちらを見て意味ありげに笑みを浮かべていた。


ガチャリンと、ドアの開く音がすると、屈強そうな人達がぞろぞろとギルドに入って来た。

彼らは、これから共に迷宮へ行く調査員たちと、その護衛だ。


「今回の調査に同行するのはBランク以上の冒険者ばかりよ、安心して行って来なさい」

とティーファが言った。

「おう、遠間(とうま)、意外と似合ってるじゃねえか」

「オルバさん」


このおじさんの名はオルバ、俺がバイトを始めるずっと前からの常連さんらしい。Aランクの冒険者はこの街で彼の他にはいない。前に、なんでずっとこの街にいるのか聞いたことがった。

彼は、自分の育った街を守っていたいのだと語っていた。

見た目は厳ついけど、とてもいいおじさんなのだ。


「準備は整っているようだな」

「マリさんも参加するんですね」

マリさんは、オルバと同じく常連さんだ。彼女を知る冒険者は皆彼女のことを鬼神と恐れている。なんでも、長い髪を振り乱しながら敵を切り殺していく姿がまさに鬼神そのものなのだそう。俺は信じてないんだけど。


それから俺たちはクエスト調査へ向かった。数総勢20名の大規模調査になる。人数が多いから安心というわけじゃない。これから行く迷宮は最近発見されたばかりだ、当然まだ誰も足を踏み入れたことがない。つまり、その危険性も全くの未知数というわけだ。

俺はもう一度気を引き締め直した。

‥‥‥

気を引き締めたのはいいものの。

「あの、オルバさん」

「どうした遠間」

「これってあとどのくらいで着くんですか?」

「おいおい、まだ三時間しか走っていないじゃねぇか。これだから地球育ちは」

「地球育ちって」


俺たちは馬車の上で暇を持て余していた。

なんで異世界って決まって文明が発達していないのだろうか。

百歩譲って自動車が無いのは良いとしよう。

ならせめて交通手段を魔法でどうにかして欲しいものだ。


「ワープとかゲートとかって無いんですか」

「魔導具の中にはそんなのもあるにはあるが、世界で一つしか見つかってないな」

「でも、地球とこっちの世界を繋いでるのも魔法の一種ですよね」

「その辺は俺にもよくわからん」



俺たちは暗くなってもまだ進み続けた。外の世界では二十三時あたりだろうか。今日は都合よく連休の初日だった。学校は月曜も休みなのでそれまでには帰れるだろう。



「今日はこの辺りで野宿にするぞ!」 


リーダーを務めるマリさんの声が先頭の方から聞こえた。

荷物や人を乗せた馬車は休ませればならない。俺たちもテントを張って、その日は眠ることにした。

一つの狭いテントにガタイの良い男たちが五人も横になるのだ。はっきり言って地獄以外の何物でもない。


そんなむさ苦しいテントの中でようやく眠りにつけた頃。


「少年、少年よ」


不意に耳元で声が聞こえた。


「マリ、さん?」


その声は、夢の中で聞こえているものなのか、それとも見張り当番でもしているマリさんが俺に話しかけているのかは分からなかった。

俺は眠い目を開けることが出来ず、声だけで反応するので精いっぱいだった。

その声は続けた。


「少年よ、これより先へは進むな」

「だ、だれですかぁ」

「それでも行くというのなら」


ちゅんちゅんちゅんちゅん、鳥の鳴き声が聞こえる。

昨晩の声の内容は殆ど覚えていない。

気がつくと朝の光が、テントを通して俺たちを照らしていた。


「起きろ!」


外の方からマリさんの声が聞こえる。

眠い目を擦りながらふと横を見ると、そこには見覚えのない銀色の腕輪が転がっていた。

刻まれた装飾の精巧さから、その辺りで買えるものではないことは分かるのだが、いったい誰の物なのだろう。

同じテントで寝ていた人達は皆自分の物ではないと言った。


「マリさん」

「どうした遠間」

「昨晩、俺のテントに来ましたか?」

「な、なぜ私が夜な夜なお前の所へ行かねばならんのだ」

「ですよねぇ」やはりマリさんでもないらしい。


仕方ないのでとりあえず俺は腕輪をポケットの中へと押し込んだ。


「ここからまた数時間はかかるが、午後までには到着する予定だ!!」

マリさんの号令で俺たちは再び迷宮へと向かった。


移動中の馬車の上で、オルバが話しかけてきた


「遠間、さっき見せてくれた腕輪だが、何かの魔導具であるってことは間違いない。魔導具ってのは、中には使用者まで飲み込んじまうようなやつもある。その魔導具がどんな力を持っているのか分かるまで、俺が預かっておいた方が安全だと思うんだが」


俺はあの声のことがまだ気にかかっていたので。


「ありがとうございます、でも、俺に持たせておいて欲しいんです。その方が、なぜか分からないけど、いい気がするんです」


オルバは心配そうな顔をしていたけど、俺に任せてくれた。

それからしばらくすると、辺りの雰囲気がガラリと変わった。

うまく言葉には言い表せないけど。


「オルバさん、周りの雰囲気少しおかしくないですか」

「そうか?特になにも感じないが」


何人かに同じことを言ってみたが、誰に聞いても返事は同じだった。

妙に胸がざわつく。

俺は、首に提げてある深紅色の石をぎゅっと握りしめた


「貴様ら!もうそろそろ着くぞ、各々準備をしておけ」


森が急に開けた場所へ出た。目の前には古代遺跡のような、石造りの建物が土に埋もれる様にしてあった。


「地下迷宮だな」と誰かが言った。

「ワクワクするぜ」

「どうした遠間、今更ビビってるのか?」

「そ、そんなわけないじゃないですか」

「荷物の見張り役の三名はここに残れ、他の者は前もって決めていたチームに分かれて迷宮に入る、先陣を切るのはオルバ、貴様らだ」


全部で三チームに分かれた。オルバのチームは六人、リーダーのオルバと、そのほかBランクのゲイルさん、ランスさん、マヤップさん、マホロくん、そこに俺だ。


「皆さん、よろしくお願いします」

「そんなかしこまらなくていいよ」とゲイルさん。彼は理系大学生っぽい感じがする。

「オルバがいるから、ぶっちゃけ安全だって」とランスさん。彼は見た目文系っぽいし言葉遣いもチャラい。顔立ちもそこそこいいから結構遊んでいそうだ。

「お前ら、俺に頼りすぎるなよな」


マヤップさんはその様子を優しそうな目で見守っている。

マホロくんは俺と同い年か、年下くらいに見える。そんなに強そうには見えないのにBランクで、今期待の新人だと言われている。彼がしゃべったところは見たことがない。


迷宮の中は外より涼しかった。

オルバの炎魔法で通路を照らしながら進む。


「にしても、魔物の一匹もいやしねえな」


ランスさんが言った通り、かれこれ一時間は歩いているが、魔物の一匹も出てこない。


「不気味だ」

「おっ、マホロちゃんがしゃべったわ」とマヤップさん。

「冷やかすなよオカマ」


後ろの方に、二番手のチームの明かりが見えている。

俺たちは一定間隔の距離を取りながら、慎重に進んでいた。

硬い通路の上をコツコツと歩く音だけが響く。

俺は五人の背中を見ながら歩いていた。

やっぱりどう見てもマホロくんがBランクなんて信じられないんだよなぁ。

バイト柄(がら)、様々なランクの冒険者を見てきたが、Bランクある冒険者はやっぱり如何にも強そうなやつらばかりだった。

でも、マホロくんみたいに一見強そうじゃないやつって、なんか主人公っぽくてカッコいいなとも思う。

そうか、もしかしたら俺は嫉妬しているのかもしれない。


そんな調子でしばらく歩いていると、さっき森を走っている時と似た感覚に襲われた。

なんかこう、不安が胸を締め付けてくるのだ。


「すみません、ちょっと」

俺がそう言いかけた時。


「止まってください」

「どうした、ゲイル」

「魔力を感知する僕の魔導具が、強く反応しています」


脂汗がじっとりと滲み出てくる。

俺は汗ばんだ手で、先輩からもらった石を握りしめた。


「なにか来る」

マホロがそう言った瞬間の出来事だった。

ゴゴゴゴゴゴ


「なんだ!?」

「地割れよ!」

「ここにいるとまずい!引き返すぞ!」


俺たちは全速力で来た道を走った。


二番手のチームも異変を察知したようだ。


「地面がどんどん崩れて来てる!追いつかれたらやばいわよ!」

「こんなところでしにたくねぇぇ」


俺は叫びながらも全力で走ったが、前を走るオカマにすら追いつけないなんて。


「はぁ。はぁ、ま、待って」


駄目だ、追いつかれる。

とうとう足元の地面が割れ、俺は暗闇の中へ落ちた。


どのくらい気絶していたのか分からない。気が付くと俺は瓦礫の上で倒れていた。

明かりは一切なく、周りの状況も把握できない。


「はぁ、何とか無事だったみたいだけど。どうすればいいんだよ」


皆はちゃんと逃げ切れただろうか。逃げ切れたとしても、俺を助けに戻ってくることは無いだろう。俺にはそんなリスクを冒(おか)してまで助ける価値などないから。


暗闇は恐怖だ。不安は次第に心を蝕んでいく。

俺が意識を保っていられるのはどれくらいだろう。


「完成せざる神よ」

微かに、人の声が聞こえた気がした。


途端に。

ゴゴゴゴゴゴゴ

地面が大きく揺れた。


「次はなんだよ」


ドシンッドシンッ

大きな何かが近づいてきているのが分かる。

すると、

ボウッ

大きな炎が、その正体を現した。


「ゴー、レムかよ、笑えねぇ」


そこには、優に五メートルは超えるゴーレムが、炎を纏って立っていた。

ゴーレムはゆっくりと俺に近づいて、射程圏内に俺を収めると、大きな拳を振り上げた。


「やばいやばい」


高く掲げられた拳が俺を目がけて落ちてきた。

すんでの所でかわす。マントの裾が炎で焦げた。今のは危なかった。

どうすればいい、どうすればいい。


ゴーレムは逃げ惑う俺を執拗に追い回し、遂に追い込んだ。

俺の後ろには壁がある。

ゴーレムは両手を大きく振り上げ、俺を叩き殺す準備をした。

ゲームオーバーだ。


「グオォォォォ」

叫び声とともに巨大な拳を振り下ろした。


「ダメダメダメダメ」


その時!

「遠間ぁぁ!!」

ボンッ

巨大な火の玉がゴーレムめがけて飛んできた。

ゴーレムの顔に火の玉は思いっきりぶつかり、ゴーレムはよろめいた。


「オルバさん!!」

「無事だったか」

「ランスさん!!」


一瞬、目の端に物凄い斬撃が見えた。

バリバリバリ

ゴーレムが崩れていく。


「ま、マリさん!?」


良く見えなかったけど、今の攻撃はマリさんだったのか。


「遠間ちゃん、無事だったようね」

「皆さんも無事だったんですね」

「おいオカマ、油断するな」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ

崩れた岩が集まりだしたかと思うと、すぐにゴーレムは復活した。


「こいつ、ただのゴーレムじゃねぇな」

「術者がいるようです」

「グガガガガガガ」


ゴーレムが地面を殴ると、その反動で周りの地面が吹っ飛んだ。


「これはやばいぞ!」

オルバが魔法を使おうとしたが間に合わず。

俺たちは地面ごと空中に投げ出された。


「グガガガガガガ」


空中に投げ出された俺たちは、ゴーレムの拳を避けようがなかった。


ボンッボンッボンッボンッ


「カハッ」


皆、ゴーレムの拳で吹っ飛んだ。

俺も、為すすべなく。まるでこの前殺したハエみたいに。

あぁ、俺は死んだのか。なんて退屈な人生だったんだろう。彼女の一人もできたことがなかった。ぶっちゃけ中学の頃クラスメイトだったあきちゃんとは両想いだったと思うんだけどな。告っとけばよかったかな。はぁ、つまらない人生だった。


「おい!遠間!しっかりしろ遠間!!」


マリさんの声が聞こえる。


「ん?俺、死んでない?」

「お前の付けているその首飾り、Sクラスの魔導具、紅龍玉石だろう」


俺はゆっくり起き上がった。どこもいたくない。


「こうりゅう、なんですかそれ」

「紅龍玉石、一人の敵につき一度までなら、どんな攻撃でも無力化することができる」

「そ、そんなに凄いものだったんですか」


この首飾りのおかげで助かった。先輩が、俺を救ってくれた。


「他の皆は!」


ふと顔を上げた先には、俺と同時に殴られたマヤップさんが岩にめり込んで動かなかった。


「我、アパルクティアスに仕えるもの、風の聖霊よ、汝、我が魔力を糧としてこの俺に力を貸せ」

俺とゴーレムの間に立ったマホロくんが何やら呪文を唱えると、彼の周りから物凄い突風が巻き起こった。

まるでマホロくんを包み込むように風が纏わりついている。


「あの風は」マリさんが言った。

「メガロズテンペスト!!」


たちまち嵐の様な風が吹き荒れると、風は巨大な岩を巻き上げてゴーレムを粉砕した。


「す、すごい」

「まだ安心できない」


ゴトゴトゴト

再び岩は集まりだし、ゴーレムが復活した。


「あれをどうにかしねえと」


「オルバさん!」

「オルバ、力を貸せ」

「私もまだ戦える」


殆どの者が動けなくなっている中で、唯一戦えるのはこの三人だけだった。

人間の強さを示す単位がランクに対して、魔物の場合はレートになる。

Aレートは、ランクで言うところのSランクに相当する。


「推定レートはA以上。行けるか」

「この三人ならいける」マホロくんの自身は絶対的なものだった。


ゴーレムが俺たちに迫って来る。


「動きが早くなってるぞ」


「グオォォォォ」


巨大な拳を振りかざしてくる。

マリさんもマホロくんも自分で攻撃をかわすが、俺はオルバに抱えられてゴーレムをかわした。

何もできない、足手まといにしかなっていない自分がもどかしい。


「オルバ、遠間は無事か!」

「あぁ、無事だ。マリ、こいつとどう戦う。早めに決着をつけないと、迷宮自体が崩れかねないぞ」


すると急にゴーレムの動きが止まった。かと思うと、大きな魔法陣がゴーレムの前に現れた。


「そんなばかな」

「魔法を使うゴーレムだと」


皆が絶望の顔を浮かべた。


「推定レートはS以上」

「グオォォォォ」

ゴーレムの口から炎が吐き出される。


「範囲が広すぎる!!頼むオルバ!!」

「俺もいるっての」


オルバとマホロが風の魔法で迫りくる炎を塞き止めている。


「クイック魔法で用意してるの、Bクラスの魔法だけなんだが!オルバ、水魔法使えねえのかよ!」

「生憎俺は火と風しか使えん!」


ギリギリ塞き止められていたかに思えた炎は、風の力で力を増した。

炎が俺たちを飲み込む寸前の所で攻撃は止んだ。


「もうそろそろ魔力が尽きちまう」


ゴーレムはゆっくりと左腕を前に突き出した。

ボウッと、巨大な魔法陣が現れる。

右腕を大きく掲げて、攻撃の体制へと入った。

恐らくこれが、ゴーレムの最も強い魔法だろう。

右腕に炎がどんどん集まっている。


「あの攻撃が当たらなくても、この地下迷宮は崩れてどのみち死ぬ」

「もうだめなのか」


マホロくんは膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。


その時。

「少年、だから言っただろう」


「!?」

俺は辺りを見回してみたが、声の主は見当たらない。


「なってしまったものはしょうがない、私の言うことを聞け。腕輪を身に着けろ。何をすればいいのかは、着ければわかる」


考えている暇なんてなかった。ポケットから取り出した腕輪を左腕にはめる。

すると、この後俺がどうすればいいのかが、頭流れ込んできた。

俺はゴーレムをギロリと睨みつけた。


「おいデク人形!俺がてめえをぶちのめしてやる」

「遠間、やめておけ」


マホロが俺に何か言おうとしていたが、俺はゴーレムしか見ていなかった。

俺はゴーレムと同じように左腕を前に掲げる。

すると、目の前に巨大な魔法陣が浮かび上がった。

右腕に力を籠める。

温かい、力がどんどん漲ってくるようだ。


「とう、ま?」

「い、いったい何が起きて」

オルバさんもマリさんも、目の前で何が起こっているのか状況を把握できていないようだった。

マホロくんに関しては、口をあんぐりと開けるだけで言葉すら出てこない。


「何もできずにただ仲間が倒れていくのを見ているのはもう御免だ」


よしっ今だっ、なんか知らないけど、今殴るべきな気がするっ。


「うぉりゃぁあああ!!」

腰を入れた右手のパンチィィ!!


【Sクラス魔法 ヘルガウル】


俺は魔法陣に向かって思い切り正拳突きをかました。

ドドドドドドドド

目の前が強い光に包まれた。

何が起きたのか分からない。光が消えた後に見えたのは吹き飛んだ迷宮だった。


「外だ」

「出られるぞ!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

迷宮が崩れ始めていた。


「とにかく走れ!!」

「他の人達は!?」

「俺の魔法で運び出す」

「それくらいなら俺にもできる」


オルバさんとマホロくんの風魔法で、突如物凄い疾風が俺たちをさらっていった。

次から次へと外へ放り出される。


「どうやらここは崖の下だったようだな」

「全員無事か」マリさんが皆の安全を確認している。


迷宮が音を立てて崩れていった。上の荷物番は無事なのだろうか。


「おい、さっきのあれ、なんだったんだよ」

「マホロ、くん。いや、あれはなんていうか、この腕輪を付けたら色んなことが頭に流れて来て」

「遠間、もい一度それを見せてくれないか」


俺はオルバにもう一度腕輪を見せた。


「これに似た魔導具を昔本で読んだことがある。かつて、この世界を一つにしようとしていた王が、その腕に着けていた腕輪だ。実際に存在するとしたらSSクラス。対象の魔法を一度だけコピーすることができる。もちろん、魔王の力だってコピーできてしまう」


なんでそんなものが俺の手に。疑問は多く残ったが、俺たちはこいつのおかげで助かった。


「それより、皆は無事なんですか」

「全員私の回復魔法で応急処置できるレベルだった」

「マリの回復魔法はSクラスだからな、安心しろ遠間」

「マヤップさんは」

「大丈夫だ」


「よかった、本当に」


「おい遠間、その腕輪俺にも見せろ」

「いいよ、試しにマホロくんのをコピーしてみよう」

「おい!やめろ!!」


ボウッ

地面に魔法陣が現れた。


「すげえ、俺魔法使ってる」

「みゃお」

地面に浮き出た魔法陣から小さな黒猫が現れた。

「召還魔法だ」とオルバさんが言う。

「猫?可愛いじゃん」


俺はその猫を抱き上げて、みんなに見せた。

「俺、こいつを飼うことにしました!」 

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異世界アルバイト生活 Hail @mobuyuki

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