花のたね

カゲトモ

1ページ

「こんばんは」

「いらっしゃいませ、ルカさん」

「お久しぶりです」

 えへへ、と小首を傾げる姿が、いつ見ても可愛らしい。

「お忙しくされていたんですか?」

「そうなんです、今回はなかなか進みが悪くて」

 困ったように眉を下げても、その顔は確かにお疲れのようだった。仕事はメイク雑誌の編集をしていてかなり多忙らしく、へとへとになりながら来店したことも何度かある。今日は比較的そこまでじゃない感じがした。

「おつかれさまです」

「ありがとうございます」

 とりあえずいつもので、とのオーダー。必ず一杯目はイタリアンアイスティーだ。アマレットとウーロン茶で作る甘くてさっぱりしたカクテルが、彼には良く似合う。

 そう、彼は男性だ。

 華奢な体つき、長い手足、長い睫、少したれ気味の丸い瞳、通った鼻筋、薄い唇。きっと幼い頃は美少年だったのだろうと思わせるその顔つきは、青年になった今ももちろん麗しい。

 彼がただの美しい青年と違うところ、それはメイクをしていることだ。

 もともと長かっただろう睫には不自然じゃない睫エクステ、眉は整えた上に髪色と同じ色に染め上げていて、目蓋にはシャンパンゴールド、頬は薄く色づいて、口紅は色気が漂う。ファンデーションは塗っているのかいないのか、自然すぎて良く分からない。

 ネイルにも気を抜かず、指輪は細いファッションリング。髪は緩く巻き、洋服はユニセックスで中性的でありながら、どこか男性的でもある。

 頭の天辺から指の先まで丁寧に“ルカさん”を創り上げている。

 ルカさんは美容系男子だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る