第20章 はばかられる船出【3】
それから僕達は、サブウェイの駅へと到着すると、もうこの二日間で何度か乗ったこともあり、僕は手慣れた手つきで自動券売機でテールタウンへ向かう切符を購入し、初日にトラウマになりかけた改札機も今やなんのその、警報を鳴らすことなく、スムーズに通過してみせた。
これで僕も、立派なシティボーイの仲間入りを果たしたわけだ。
「アンタ……改札機を通る度にいちいち満足そうな顔しないで、普通に通りなさいよ、普通に」
先に改札機を通過していたルーナが、呆れた表情でそんなことを言ってくる。
「えっ? そんな顔してた?!」
「してるわよ。ニヤニヤして……」
「ああ……あぁ……」
指摘されて、僕は急に恥ずかしくなってしまう。
シティボーイになれたと思っている内は、まだまだ都会に染まりきれていない田舎坊主のまんまなのだと、その時僕はハッキリと思い知ってしまった……。
それからサブウェイに乗って三十分、テールタウンへと到着し、更にそこから徒歩で十五分程かけて、このアクトポートで僕達が最初に立ち寄って、
「いらっしゃいませ」
「うおっ……!」
店に入るや否や、入口の先にあるカウンターから、ハンバーガーショップの店主であるロベルトのいかつい姿が見え、その渋い声で挨拶をしてきたので、僕は反射的に一歩退いてしまった。
この三日間、ここには一度も立ち寄っていなかったというのもあるにはあるのだが、しかしやっぱり、あの顔は見慣れないな……。
恐いものは、いつまで経っても恐いままだった。
「お連れ様なら先に席におかけになってますので、どうぞ」
「えっ……ああ! どうも」
どうやら彼は僕達のことを憶えていてくれたようで、そう案内を受けて座席の方を見てみると、この前と同じように、昼過ぎだということもあり、基本は空席ばかりなのだが、しかしその中で窓側の一席だけが埋まっており、そこには僕の見知るメンツが集まっていた。
とりあえず何も頼まず席に着くというのも気まずいので、僕はロベルトにポテトとコーヒーを、ルーナはオレンジジュースを注文して、みんなの集まる座席へと向かった。
「おう、二人とも来たか」
マジスターが僕達の姿を見つけ、手招きをしてみせる。
座席にはこの前とまったく同じ席順でマジスター、ライフ・ゼロ、マンハットが座っており、僕とルーナもこの前と同じように、通路側の互いが対面する場所へと座った。
「さて揃ったところで……そうだな……まずは良い報告がある者はいるか?」
マジスターが場を仕切り始めるが、しかし初っ端から、当の本人は自信無さげにしているどころか、自分にはよっぽど収穫が無かったのだろう、他のメンバーの収穫を頼りにしてきたのだ。
まあ僕達も、他人に言えたもんじゃないほど収穫が無かったので、だんまりを決め込むが。
「あの……僕いいですか?」
そんな僕とルーナとマンハットの実働部隊が顔を伏し、肩身を狭くしている中、一人挙手をしたのは、テールタウンに居残り、研究を行っていたマンハットだった。
「おお、マンハット術師! 一体どんな朗報が!?」
「朗報と言いますか……開発をしていた新型の無線機がさっき完成したんです。これなんですけど……」
無線機といって僕が真っ先にイメージしたのは、以前、戦場の跡地で拾ったあの重くて大きい、ゴツイ無線機だったのだが、しかしマンハットはその完成したという無線機を、白い白衣に似せたコートの、小さな右ポケットからそれを取り出したのだ。
「ライフ・ゼロさんから教えてもらった念波を、魔石エネルギーで応用化させた無線機。テレパシーバーです」
「ちっさ!」
僕は、マンハットのポケットから出てきた物があまりにも小さかったので、思わず目を丸くして大声を出してしまった。
それもそのはず、そのテレパシーバーとやらは、手の平サイズの小さな液晶画面の着いた四角い本体と、耳の淵の部分に固定できるようになっているイヤホンだけで構成されており、まさに手持ちサイズと呼べる、非常にコンパクトな物だったのだ。
「念波は魔力の強さによって、メッセージを飛ばす距離や正確さが変化してしまうけど、しかしこのテレパシーバーの本体の中には、小さな魔石機構が備わっていて、魔石機構の無尽蔵の魔力によってメッセージを飛ばすから、どんな距離でもしっかりと正確に、相手に自分の声を届けることができるんだ」
「へぇ~……でもマンハットさん、これどうやって声を拾うんだ?」
「えっ? 声を拾う?」
僕の質問を、首を傾げて、質問で返してくるマンハット。
「うん。だってイヤホンしかないじゃないか、これ」
「あっ……あっはっはっは! そうじゃないよコヨミ君。このイヤホンにはマイク機能も同時に搭載されているんだ。所謂、イヤホンマイクってやつだね」
「おおおおっ! なるほど!」
「はっはっ! だけどコヨミ君、これはテレパシーバーの機能の中ではまだまだ序の口。これよりももっとすごい機能がコイツには搭載してあるんだ。例えばまずは本体を起動して……」
マンハットはテレパシーバーの本体右端に着いているボタンを長押しする。すると本体の電源が入ったのか、本体の小さな画面には色々なマークが並んでいる映像が映し出されたのだ。
それだけで場は盛り上がるのだが、しかしマンハットは笑いながらも、手を止めることなくテレパシーバーの説明を続ける。
「このアイコンの中から色々とモードを切り替えることができるんだ。例えば念波を飛ばす相手を変えられたり、敵の無線周波数を知ることができたら、それを盗聴できたり、それともう一つ、これが肝なんだよ」
するとマンハットは一つのアイコンを、本体の画面の下にあるダイヤルを操作して選び、ダイヤルの真ん中のボタンを押して決定する。
画面にはピクチャーモードという文字が表示されており、メニューには撮影、受信フォルダという二つのメニューがあった。
その中から受信フォルダを選んだマンハットは、そこでテレパシーバーの操作を止め、本体をテーブルの上に置き、今度は左ポケットから、テーブルに置いてある物とまったく同じ、もう一つのテレパシーバーの本体を取り出したのだ。
「それじゃあコヨミ君、はい笑って~」
「えっ!?」
不意にマンハットに笑うことを要求され、僕はとりあえずぎこちない笑みを浮かべると、マンハットの持っているテレパシーバーからピピッという静かな音が聞こえた。
「はい撮影完了。実はこのテレパシーバー、裏側にレンズが着いているから写真も撮れるんだ。そしてこの写真を送信すれば……」
説明をしながらマンハットが機器を操作すると。テーブルに置いてあるもう一つのテレパシーバーの本体が振動をしたのか、ブルブルという鈍い音が聞こえた。
その音に反応して、テーブルの上にある本体の画面に僕は目線を移すと、そこには滅茶苦茶ぎこちない、子供でももう少しマシな愛想笑いができるぞと言えるくらいの、そんな下手くそな作り笑いをした僕の顔が映っていた。
「こうやって念波を利用して、写真のデータを転送することができるんだ。こうすることで遠くに居る人同士でも、言葉だけではなく、映像で情報を共有することが可能になる。更に本体には、最大百枚まで画像を保存することができるから、敵の機密文書なんかを見つけた時には、これで撮っておいて保存しておけば、わざわざ文書を奪うような痕跡を残さず、相手の情報だけを奪えるということさ」
「すげえっっ!!」
僕は自分の顔の映っている機器を手に取り、まじまじと見る。
もう御年二十四の成人男性ではあるが、しかしこういう物を見てしまうとつい、子供のように、陽気になってはしゃいでしまう。
まだまだ僕にも、童心が残っているようだ。
「ふぅむ……しかしマンハット術師、このような物を作る材料をどこで確保したんだ? 魔石機構を作る材料なんざ、早々簡単に手に入りまい?」
そんなマジスターの的を射た質問に対し、マンハットは苦笑いを浮かべながら「ああ……」とか「ううん……」とか、少し答え辛そうにしながら悩んでいたが、しかし最後に「まあ、もういっか」と諦めたようなことを言って、質問の答えを返した。
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