THE GROUND ZERO 間章4 伝説の終息

間章4 伝説の終息

「…………クソッ! アイツはまだ来ないのか! どれだけこんな暗がりに、わたしを待たせるつもりだ!」


 コツン……コツン……。


「っ!! 誰だっ!!」


 ガバッ! チャキッ!


「フフッ……相手の姿がしっかり確認できないまま銃口を向けるとは。あまり感心できませんね、エイン・ルージさん?」


 コツン、コツン。


「なんだ……カレンダーだったか」


 スッ……ガサッ。


「フフ……魔石発電施設旧第三高炉……以前までは、まさに此処こそがマグナブラを動かすための心臓部であったのに、今やただの廃屋ですからね」


「それはなんだ、わたしがレジスタンスであるが故の、マグナブラ側のお前の嫌味というやつか?」


「別にそういうわけで言ったつもりではありません。ただ、ここに来る人間がいるとすれば、何かしらここに用がある人間か、あるいはそう……何かから追われて逃げ延びた、凶漢くらいでしょうからね」


「……わたしがその凶漢とでも、お前は言いたいのか?」


「あながち間違いではないでしょう? あなたはこの国に対して、蜂起を企てようとした張本人。斬首は免れないどころか、その後その首が民衆の前に晒されてしまうほどの、そんな超極悪人ですからね」


「ハッ! そこまで言うからには言葉を返させてもらうが、そんな大罪人を処分するチャンスがあったのにも関わらず、逃がし匿った国防大臣様は、果たしてそのことを民衆に弁解できるのかな?」


「おお……それはあまり好ましくない状況ですね。いや、参った参った」


「……チッ!」


 カンッ!


「フフ……まあそういう話をするために、ボクはわざわざあなたをここへ逃がしたわけじゃありません」


「逃がした? それはどういうことだ? わたしはお前が、決戦前に直接話があると聞いたから、ここへやって来たんじゃないか」


「そう……だったのですが、実は状況が変わりましてね。その決戦は既に、あなたの居ない内に決着が着いてしまいました」


「決着が着いた!? カレンダー、お前は何を?」


「レジスタンスは今朝、我が軍の襲撃により滅びました。それに伴い、本拠地であるあの砦も陥落しました」


「んなっ!? ……そんな……バカな……ことが……」


「フフ……しかしそれが事実。これにより、あなたの後ろ盾はもう無くなりました」


「まさか……ここにわたしを待たせている間、お前がしていたこととは……」


「ボクは国防大臣ですからね。このような大きな仕事、軍の最高指揮者がいなければ締りが悪いでしょう?」


「キ……キサマアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! わたしをコケにしやがってええええええええええええええええええっっ!!!」


 ガバッ! チャ……ズドンッ!!


 ガシャッ!! ……ポタ……ポタポタ……。


「言ったでしょう? あなたにはもう、後ろ盾は無いと。あなたを庇ってくれるしもべはもうここには……いや、この世にはもう、誰一人居ないんですよ」 


「グ……グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 バタンッ! ググッ!


「いてえっ! 手が……手がああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」


 ボタボタボタッ……ボタッ……ボタボタッ。


「フン……手に数ミリの穴が一つ空いただけです。その程度じゃ致命傷にはなりません」


「カレンダー……テメエ、やはりわたしの命を……っ!」


「命? 命を狙うんだったら、ボクはあなたをここへ寄越してなどいません。しもべもろとも、あの兵器で滅ぼしていたでしょう」


 カツン……。


「ヒッ……!」


「ボクが滅ぼしたいのは、あなたのようなクズの命ではない。あなたの後ろにある、邪魔な七光りを滅ぼすために、ここに呼んだのですよ」


「七……光り……?」


「そう……あなたの唯一持ってるもの……勇者の血筋をね」


 カツン……。


「あなたがレジスタンスの首領になれたのも、その勇者の血筋であったから。つまり勇者という存在が軽薄になりつつある今でも、やはりその存在は、人々の潜在意識の中に生きてしまっているのです」


「そ……それのどこが悪いんだ……」


「どこが悪い? ……フフ、十分害悪じゃないですか。自分自身を、一度鏡で見て確認するといい」


「んなっ!?」


「おっと……でもこれからのことを考えると、そんないとまはありませんね。失敬。ではボクの方から、今まで通り教えてあげましょう。つまりあなたのような、カスみたいな人間が、勇者の血筋だというだけで、人の上に立っていたというこの状況……これ以上の不公平など、他には無いと思いませんか?」


「テメエ……どこまでわたしを侮辱するつもりだっ!!」


「侮辱ではない、これは事実だ。人間とは愚かな生き物だよ……いくらそいつが間違っていようとも、そいつのことを信仰していれば、それは合っていると解釈するのだからな。そしてその逆もしかり。信仰から反するものは、全て間違っていると解釈する。人間の中の信心というものは、それだけ厄介なものだということだ」


「何が言いたいっ!!」


「フフ……ボクが言いたいことは、さっきから一度たりとも変わっちゃいない。あなたの邪魔な七光りを、ここで滅ぼす」


 チャッ……!


「古い英雄の伝説サーガには、ここでご退場してもらう」


 ズドンッ!! ……カラン……カラン。


「…………カ……ハ……」


 ガッ……ペタン……。


「あ……ああ……」


「おっと、腰が抜けました? まあ無理もありませんか……最初に言った通り、あなたの命には興味はありません」


 チャッ!


「ヒイッ!」


「あなたはこのまま生かされ、レジスタンスの戦士が皆、死に絶えたのにも関わらず、そのリーダーはのこのこ逃げ延び、生きていたと。勇者の家系なんて所詮はこんなものかと、そう世間に後ろ指を差されながら、一生を過ごしていくのですよ」


「ぐっ……」


「あなたは勇者の伝説を崩した、最大の汚点として、生き恥を晒し続けなさい」


「グ……グギギギギギギギギギギギギギッ! グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 ガッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンダンダンダンダンッ!!


「……こうなったのは誰のせいか、よく考えなさい。自分が地獄に転げ落ち始めたのは、一体誰のせいかをね」


「あ……ああ……」


「それまではボクの協力を得て、順風満帆に金を稼ぎ、名声を思うがままに手にしていたあなたが、突如つまづき、地獄への下り坂を転がり始めたのはそう、この国のトップが代わってからでしたね。その元凶を作った男は今、この国のトップに立っています」


「この国の……トップ……」


「そいつの名前は……グリード」


「グリード……グリード……グリードグリードグリードグリードグリードグリードグリードグリードオオオオオオオオオオオオッ!!」


 ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!!


「今ならまだ間に合う……復讐にはまだね」


「復讐……わたしを……俺を狂わせた男……グリードへの復讐を……へっ……ヘヘっ……ゲヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘッ!! 復讐ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!」


 ガッ! タンタンタンタンタンタンタンタンタンタンタン…………。


「フッ……これであの男は、ただの憐れな復讐の犬へと堕ちた。勇者の伝説を引き継ぐ者はこれで、いなくなった」


 カシャ、ガチャコッ、カチッ……ガサッ。


「古い英雄の伝説サーガが終息し……これからはそう、新たな英雄の伝説サーガが始まる。それを紡いでいく者は即ち、この世界を収束させる者だ」


 コツン……。


「バラバラになった世界を、人々を一つにまとめ上げ、統制していく……これこそがボクの理想であり、ボクの目指すべき英雄像……」


 コツン……コツン……。


「だからボクは、もっと高みを目指さねばならない……この世界の、秩序となるために……」


 コツン……コツン……コツン……コツン……コツン…………。

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