第13章 荒野の決戦【12】

「どうやら……わしらの今まで聞いていたこと、知っていたことには、嘘や偽りが多かったようだな?」


 そう言ってライフ・ゼロの隣に立ったのは、マジスターだった。


「ああ……そのようだね」


「だがこれからわしらが歩む道は、間違いなく本物だ。しかし本物は、嘘偽りなんかよりよっぽど厳しく、悲惨で、過酷なものだ。それでもわしらは、這ってでもその本物の道を進まねばならん。そういう世界に生きることを、己自身で決めたのだからな」


「そうだな……」


 人々に嫌われながらも、人々のために戦う。


 誰から見放されても、孤高に戦う。


 僕達はそれを承知で、互いの居場所を捨てて、こうやって集まったのだから。


「わたしにはその……本物とか偽物とか、そんな難しいことはよく分かんないんだけど。でもこれだけは分かる、この世界がこのまま進んだらいけないってことは」


 ルーナは真剣な眼差しで、僕のすぐ左隣に立った。


「このまま暁の火が世界を支配したら、わたしの祖国と同じような末路を辿る国が必ず現れる……それだけは絶対に阻止しないと……」


「ルーナ……」


 ルーナの祖国、ノースハ―ウェンは暁の火の連合国軍によって滅ぼされた。そして彼女はその時、ノースハーウェンの王であった父親を亡くしている。


 滅ぼされたキッカケはたった一つ、暁の火からの使者である、練磨大臣の意にそぐわぬ行動をルーナの父であるレイヴン王が起こしたからだ。


 練磨大臣は大臣の身でありながら、暁の火から絶対的な権力を持たされているため、その国の最高権力者であれど逆らうことはできない。そのため、どんな無理難題も、どんな傍若無人な振る舞いも、全て許されてしまうのだ。


 しかしそんな振る舞いを、ずっと見て見ぬふりをして、我慢できるほど、人間は我慢強くない。いつしか堪忍袋の緒が切れ、練磨大臣に反旗を翻す。


 だがそうなれば最後。練磨大臣は、その国の王が暁の火の意にそぐわない者だと上に報告し、そして暁の火はその国に難癖をつけ、有明の協定の同盟国を引き連れてその国を滅ぼし、そしてその滅んだ国の土地は、より暁の火に忠誠心がある国へと渡されるという、まさにデスサイクルが完成するのだ。


 今はまだそこまで酷い事態に陥ったのは、ルーナの祖国であるノースハーウェンくらいだが、しかしいつの日か近い内に、第二、第三のノースハーウェンは出現するだろう。


 そんな悲惨なサイクルが繰り返されないようにするためにも、僕達は暁の火をこの手で滅ぼさねばならない。


 この世界の自由と、そしてこの世界の国々を守るために。


「…………」


 僕達は黙ってしばらく、倒れているブラースティを、そしてその先にある、今や半分になってしまったエトワール・ロックを眺めていた。


 今まで見た物、今までの経験、今までの苦しみ、今までの戦い……しかしそれらはまだ、僕達にとって、これから続くであろう長い戦いの中での、ほんの序章でしか無かったのだ。


 今までの生き方を捨て、自分達の国を捨て……そう、元素爆弾で全てが消滅したあの土地のように、僕達もここで初めて虚無ゼロに戻されたのだ。


 そしてそのゼロから、次に一が始まり、二が生まれていく……。


 この地は、そんな僕達にとって、これ以上似つかわしいものが無いほどに、相応し過ぎる土地であった。


 そう、此処こそがこれからの僕達の、再出発地点グラウンド・ゼロとなったのだから。

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