THE GROUND ZERO 間章3 狂気のカリスマ

間章3 狂気のカリスマ

『昨夜、レジスタンスへの警戒のため、エトワール・ロックに派遣されたマグナブラ兵団の小隊が壊滅したことを本日、マグナブラ兵団中枢管理委員会が正式に発表致しました。カレンダー国防大臣兼マグナブラ兵団中枢管理委員会長官はこのことを受け、レジスタンスへの報復とマグナブラの防衛とし、緊急戦時体制を敷くことを正式に決定致しました』


「フフ……やはりこうなったか」


 ギィ……ザッ!


「失礼します!」


「また君か……確か……」


「マグナブラ兵団中枢管理委員会委員、ウィーリアムです!」


「ウィーリアム……ふむ、ウィル君か」


「国防大臣殿に名前を憶えていただき、光栄の限りであります!」


 ザッ!


「まあいい。それでウィル君、代理首相はこの事態、どう対処すると?」


「ははっ、グリード代理首相は大臣殿の意向に従い、国が全面的に軍のバックアップを行うことを約束し、練磨大臣としても、軍への魔石エネルギーの積極供給を行う許可を出すとのことです」


「そうか……」


「ちなみに攻略方法については、大臣殿に委ねるとのことです。この国の軍事情勢に最も詳しいのは、大臣殿であるからと」


「フフ……タヌキだな」


「タ……タヌキ?」


「あの人らしい、したたかなやり方だ」


「あの……それはどういうことでしょうか?」


「攻略方法をボクに任せるということは、このレジスタンスへの攻撃がもし失敗したり、攻略が短期では終わらず、尾を引いて戦争にまで発展したとしても、その責任は全てボクに押し付けることができるということだよ」


「ああ……なるほど。保険をかけたと……」


「そういうことだ。まあ微々たるものだが、失敗しない策をボクが考えているだろうと、信用して委ねたという線もあるかもしれないけどね?」


「だといいのですが……」


「フフ……まあどちらにしても、失敗しなければいい話だ」


「確かに!」


「そのためにはやはり、元素爆弾の使用が不可欠だ」


「やはり使うんですね」


「ああ。戦時体制となった以上、面倒な手続きは全て簡略化された。ボクはこの後兵器開発局へ向かい、元素爆弾の実弾使用命令を直接下しに行く」


「直接ですか!? 伝令でもいいのでは?」


「伝令だとどうしても緊張感に欠けてしまう。第三者を通してではなく、大臣である僕が直々に来なければならないほど切羽詰っている……そういう気持ちを局員に植え付けることが、ここでは大事なんだ」


「な……なるほど……」


「今日命令を出せば明後日までには使用許可が下り、それから準備をしたとしても、早くて四日後には爆撃機の出撃ができそうだな」


「それまでにレジスタンスが攻めて来なければいいのですが……」


「フフ……その心配は必要ない。レジスタンスが決起を行い、マグナブラに攻めてくるとしても一週間以上はかかる。とても四日以内では事は起こせないだろう」


「何故そこまで断言できるのですか?」


「彼ら自身に決起を起こさせる主導権は無い。それを握っているのは、彼らの後ろ盾である非同盟国スポンサーだ。その助力を得るのに、彼らはこれから各地を奔走しなきゃならないだろうからね」


「それで一週間以上かかると!?」


「ああ、そうだ。非同盟国があるのはほぼ僻地だ。そこから支援物資を運搬し、集まってからやっと決起することができる……実に非効率的なやり方だ。その点、我らは自らが出撃するための主導権を握り、即座に動くことができる。しかも物資も豊富だ。これが正規軍と非正規軍……いや、官軍と賊の違いだろうね」


「雲泥の差ですね」


「ああ……今の彼らの頼みの綱は、鉄壁の要塞である本拠地の砦だけだろう。物資も兵力も、全てにおいて兵団より下回っていることは、彼らも熟知しているはずだ。それにもし、支援物資無しで攻めて来れるのなら、今じゃなくても、もうとっくの昔に全面戦争を仕掛けてきただろうからね」


「確かにそうですね!」


「フフ……さて、話が長くなってしまった。ボクはそろそろ開発局へ向かうとしよう」


「ははっ……あの大臣、最後に一ついいでしょうか?」


「ん? なんだ?」


「その……こういうことを訊くのも、部下である者としてどうかと思いますが、気になりましたので……」


「答えられることなら答えるよ」


「ははっ……その……あの小隊を出したのは、全てこうなることを見越していたからでしょうか?」


「あの小隊……エトワール・ロックに派遣した小隊のことかな?」


「ええ……緊急時特例を出したのも、より事態が深刻であるようにするためのアピールだったのではと……す……すいません! 大臣を疑うようなことを!」


「フフ……まあそう思うのも仕方がない。本当にその通りに事態が動いてしまったからね」


「では……」


「ボクから言えるのは、たまたま・・・・だということだけだ。エトワール・ロックの厳重警戒のために配備させた小隊が、たまたま・・・・レジスタンスに襲撃され、たまたま・・・・全滅し、たまたま・・・・その報復と防衛措置として動くことができるようになった……それだけだ」


「は……ははっ!」


「質問の答えとしては、十分だろ?」


「わ……わざわざ一兵士の疑問に応対していただき、まことに恐縮でございます!」


 ザッ!


「敬礼はいいから、ボクはそろそろ開発局へ向かうと言ってるんだ?」


「そ……そうでした! ではその、失礼いたします!」


「うむ」


 ザザッ! カツンカツン、ギィ……バタン。


(……やはり大臣は……あの人は狂ってる。こんなことをして、常人なら成し得れるはずが無い……しかし、それなのに彼は実際、全てを思い通りに動かしている。全ての主導権は彼にある。彼のあの才能は、まさに神がかり的な、常人の資質を遥かに凌駕している。この資質があれば必ず、いつかはグリードを押しのけ、マグナブラの頂点……いや、もしかしたらこの世界の頂点にまで上り詰めるような、そんな逸材になるだろう)


 ザッ!


(俺は……俺はこの人に着いて行くことにしよう。この人の中にあるカリスマを……俺は信じよう……!)


 カツンカツンカツンカツン……。

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