第6章 不幸の連鎖【4】
「おいお前らっ! なんの話をしている!」
すると牢の外から、僕でもマジスターでもない声が聞こえた。
しかしそれは女性の声で、しかもさっき聞いたばかりの声だった。
「なーんてね! マジスターさん、コヨミ君、なんかあなた達が連行されてたって話を聞いたから、様子を見に来たんだけど」
「ルーナ!」
鉄格子の外にいたのは、ルーナだった。
そういえば僕達が連行されてた時、数人の戦士に目撃されちゃったけど……もうこのユスティーツフォート中の噂になってるのか。
「ルーナ……見張りはおるのか?」
「いえ、わたしが代わりに見張るって言ったら、あいつら喜んでどっか行っちゃったわ」
「そうか……ルーナ、わしらは今、エインから不当な言いがかりをつけられておる。わしらが兵団と通じておるとな」
「兵団に? 何を証拠に?」
「証拠など無い。あいつはこの前の、魔石発電施設の爆破作戦の際に、あの作戦が兵団側に漏れていたのではないかという疑念。その疑念を、わしに丸々擦り付けようとしているだけだ」
「ちなみに僕は、マジスターがレジスタンスを乗っ取るために送って来た刺客だという疑いで、あらぬ濡れ衣を着せられてセットでブタ箱入りさ」
「ふうん……」
ルーナは半信半疑といった感じで、格子の外から僕達の話を聞く。
まあ僕達が無実だというのも、何の証拠があるわけでもないから、彼女にとってはエインの言い分も、僕達の言い分もどっこいどっこいといった感じなんだろうな。
「マジスターさん、ところでさっき言ってたことって本当にやろうと思ってるの?」
「さっき?」
「レジスタンスじゃない、新たな暁の火の反対勢力を作るって」
「ああ……わしはそれでもいいと思っているが、コヨミはどうだ?」
「僕は……まだそこまで考えきれてない。とりあえずそういうことを考えるのは、ここを脱してからだと思ってるからね」
と、それっぽく言ってみたが、実際はまだ保留しておきたい。
僕の中ではまだ、その覚悟ができていないから。
「う……む……でも確かに、コヨミの言うことは正論だな。ここを出なければわしらに先は無い。ルーナ、わしらは明後日死刑にされる。その前になんとかこのユスティーツフォートを抜け出さなければならん」
「明後日!? 早急ね……」
「エインにとって、わしらは目の上のタンコブだからな。早々に処理したいのだろう。ルーナ、お前は確かこの砦の抜け道を知ってるんだろ?お前の力を借りたい……」
「…………ねえっ!」
するとルーナはマジスターではなく、何も話していない僕の方へ詰め寄るように、鉄格子を両手で強く握り迫って来た。
「な……なんだよ……」
「わたしは故郷の国を暁の火に滅ぼされて、父もその時奴らに殺されたの」
「……その辺りの話はマジスターから聞いたよ。君はノースハーウェンという国の王女で、父親のレイヴン王は練魔大臣の策略で、国ごと滅ぼされたって」
「そう……だったら話は早いわ。わたしは暁の火に、父と祖国の復讐をしたいの。だけどこのレジスタンスはぐだぐだと、暁の火と敵対するどころか、一国すら落とせずにいる。こんなにダラダラしてたら、いつまでたっても暁の火に近づけないわ」
「まあ……マグナブラは国の勢力的にかなり高い方だろうからな。そんなに簡単に攻略できる国じゃないよ」
「わたしはマグナブラ攻略なんてどうでもいいの! 暁の火に復讐できればそれでいいのよ! だからもっと暁の火の核心を討てるような、そんな集団を求めてるのよ!」
ルーナは僕に迫る。他に誰もいない地下牢に響き渡るほどの、大きな声で。鬼気迫るその表情で。
「まあまあ、そんなに熱くなるな……つまり君は僕に、そういう集団を作って欲しいって訴えてるのか?」
「そう……だけどあなただけに、決して全てを丸投げしようとはしない。みんなで確実に歩んで行けるような、そんな集団をわたしは作りたいの。何かに支配されるだけじゃない、ある程度自由に、だけどある程度秩序は保たれている、そんな集団を」
「それは、レイヴン王がそうだったからか?」
「……ええ、だけどこれはわたし自身の意志でもあるわ。曲げられないね」
「なるほど……」
彼女の目からは、言葉通り鉄壁の意志を感じた。
そういえば娘というのはよく、父親に似るそうなのだが、レイヴン王もこんな人だったのだろうか。
まるでかつての、勇者を目指していた時の僕のようだ。今の僕からだと、とても眩しく見える。
「……じゃあもし仮に、僕がここで断ったら君はどうする?」
「その時はわたしはわたしなりに、このレジスタンスでやることをやらせてもらうわ。だからマジスターさんには悪いけど、あなた達を見捨てるということになるわね。そうしないとわたしまで牢に入ることになっちゃうし」
「フッ……スッパリと言ってくれるねぇ」
「よく竹を割ったような性格だって言われるわ」
「ちげえねぇ」
僕がここでイエスと言わない限り、この子はどんなに乞うても僕達を助けるつもりは無いらしいな。
まあ、条件も無く脱走の手助けをするなんざ、ただのお人好しか馬鹿なくらいだからな。
素晴らしいくらいに清々しい、賢い選択だ。
「……コヨミ、わしからも頼む! ここから出たいという意味ではなく、わしはお前の力を、新たな可能性というものを見てみたい! このまま何も見ずに死ぬのは、わしとて心残りだ!」
するとマジスターはそう言って、頭を下げるどころか、その額を地面に着けた。
「ちょ……ちょっとマジスターさん! そこまでしなくても」
「否! こんな老いぼれの額を汚す程度で約束してくれるのなら、そんなの安いくらいだ!」
「安いって……人の額の価値に若いも老いもないっすから……」
しかしあれだけ戦士気質なこの人が、ここまで頭を下げることなんて多分、なかなか無いだろうからな。
本気の本気であることは、十分伝わったよ。
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